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岩合光昭が初監督!「全シーンに猫が登場する映画」メイキング秘話 vol.3

岩合光昭さんの写真展『ねことじいちゃん』でのギャラリートークの続きです。監督が必死で猫と意思疎通を図っているのがおもしろいです。言葉、完全に通じてるっぽい。
そして『ボヘミアン・ラプソディ』ではフレディ・マーキュリーより猫が気になってしまったという正直なお話です(笑)

「あの人、おかしいんじゃないの」って思われていたと思う

岩合さんのお話:猫が演技をするときに、僕たちがあたかも命令をしたかのように感じる方もいると思います。ただ映画を見ていただくと本当に自然なので、とても猫に無理強いをしたようには映っていません。猫というのは、人の命令に従うのは得意じゃないというか、当然ですがアドリブをすごく出してきます。犬は人の命令に従うことを命として暮らしていますけど、猫は逆なんです。

じゃあどうしたかと言いますと、撮影に入って僕はひたすら猫にお願いをすることにしました。猫に対して本当に愛情を傾けて。朝、タマに会いに行った時に「おはよう、タマ。いい子だね。今日もよろしくお願いします」って言いながら、僕は首に脚本をぶら下げているんですけど「今日は42ページから50ページまでやります」と〈会場笑〉タマに読んで聞かせて「ここで君は出るんだよ」みたいな感じで。

きっと動物プロダクションの女性たちは僕のことを見て「あの人、ちょっと変わってるよね」「おかしいんじゃないの」って思われたと思うんですが〈会場笑〉でも実際、そういう演技をしてくれるんです。お願いをした価値があるなと思いました。

「監督はね、猫しか褒めないんだよ」と落語のネタに

(立川志の輔)師匠が新聞を読んでいるシーンでもタタタタッと駆け寄って、虫眼鏡で読んでいるところを邪魔したりするんです。でも皆さんも猫と暮らされていると分かると思いますが、猫は音にすごく敏感なので(新聞紙の音に反応して)こう走ってくるんですね。脚本通りやってくれるんで、僕は駆け寄って「タマ、素晴らしい、君はスーパーキャットだよ!」と言って本当に褒めるんです。そうしたらこの間、『志の輔落語』を六本木で聞いたときに師匠がなんて言っておられたかというと「監督はね、猫しか褒めないんだよ」〈会場笑〉
絶対そんなことないはずです! あれはお客さんにウケようとして僕をダシに使ったんじゃないかと思うんですけど、志の輔師匠の演技は素晴らしいですよ。やっぱり志の輔師匠の演技があってからこそ、タマの演技が加味して素晴らしいシーンが撮れたと思うんです。

公開は2月22日、「にゃんにゃんにゃんの日」です。この日を大切にして、むしろ公開日を決めてから制作に入ったという感じなんです。4月初旬に桜が満開になって、そこでポスターを撮ったんですけど、このときには本当に大吉さんとタマになりきってましたね。「一人と1匹」ではなくて「二人」って僕はいつも言っちゃいそうになるんです。

よしえさん役で、田中裕子さんに出ていただいたのも、すごく嬉しかったです。2年前に亡くなられた大吉さんの奥さんの役なんです。床に伏せていたとき、雨の降る中、タマがよしえさんの枕元にトトトトッて駆け寄るって、そのときに優しく「タマ」って声をかけるんですね。声は優しく言っているんですが、でもモニターで見ていてびっくりしたのが、目の奥で死にゆく人の演技をされているんです。それを見たときに僕はたまげたんです。「これができる方はそうめったにいないな」と思いましたね。もう田中裕子さんには僕、まったく頭が上がらないです。素晴らしい役者だなと思います。

小林薫さんは、大河ドラマで共演した猫とまさかの再会

小林薫さんはこの映画では、猫嫌いの元漁師の巌さん役なんですね。でも猫に好かれる役なんです。(大河ドラマ『おんな城主 直虎』の)「直虎」では南渓和尚という役でいつも猫を抱いておられたんですけど、この映画では猫を寄せつけない役なんです。そんな巌さんの家に猫が寄ってきちゃって、食べようと思っていたお刺身を「仕方がねえなあ」って投げるシーンがあるんですけど、それを最初に食べる猫がまさに南渓和尚が抱いていた猫「マロニー」なんです〈会場どよめく〉控え室では「久しぶりだねえ」って抱っこしていました。

それで、お刺身を投げたときに、マロニーと他の子が喧嘩をしてしまうんですね。これも演出ではとてもできないことです。そのときに小林さんが「ほらほら、喧嘩なんかするんじゃないよ」と声をかけてくださり、これはもちろん脚本にない言葉だったんですが、彼がそうやって巌さんになりきって言ってくださったので「このシーンは使えるな」と思いました。本当に猫は自然なアドリブをしてくれるので、それをすごく取り入れました。

出演してくれた子猫2匹を監督自ら、自宅に引き取ることに

そしてタマの子役というか、タマの小さい時を演じたのがこの子なんですけど〈写真を見せながら〉映画は2~4月で撮ったので、2月に生まれた猫ってすごく少ないんですよやっぱり。春に生まれるのが普通なので。日本全国の動物プロダクションのチーフが探してくれて、伊豆半島で見つかったんですよ。きょうだい2匹なんですけど。

それで映画が終わった後「この子たち、また伊豆半島に戻るんですか?」って聞いたら「どなたか、手をあげますか?」って言われて「はい!」って僕が手をあげて〈会場どよめく〉今、我が家にきょうだいとも、います。もう1月ですからこんな大きくなっているんですけど。今朝も僕は足にじゃれつかれて、足を噛まれて、そんな日々を送っています。

『ボヘミアン・ラプソディ』の猫がかわいすぎて

僕は「映画に猫が登場する」と聞くとすぐに映画館に行ってみるんですけども、なかなか猫が登場するシーンって少ないんですよね。でもご安心ください、この映画、すべてのシーンに猫が出てきます〈会場笑〉本当に、皆さんに(猫を)探していただく必要がないと思います。

こないだも『ボヘミアン・ラプソディ』を見たんですけど、冒頭シーンでフレディ・マーキュリーが餌をやってから出かけるんです。もう猫、かわいいんですよね、すごく! カメラマンが好きなのか、監督が好きなのか、本当にかわいく映っているんです。でもかわいく映ってるからこそ僕はフレディ・マーキュリーがどうでもよくなって〈会場笑〉「あの猫、家の中でどこにいったんだ」って探しまくっちゃって(笑)

フレディ・マーキュリーに関しては、去年か一昨年にタンザニアのザンジバルにロケしていて「ここでフレディが生まれた」という家を目の前で見たんです。僕は興奮してスタッフに「これ、フレディ・マーキュリーの家だよ!」って言ってもみんな反応しなかったんですけど、今スタッフから「あれ、フレディ・マーキュリーの家だったんですね」って〈会場笑〉

でも本当に全シーンに猫が登場するので。もちろん猫好きな方には映画館に来ていただきたいですけど、猫に関心がない方ともぜひ一緒に映画館に行っていただいて、そういった方にも猫の味方になってほしいという、そういう映画です。猫だけじゃなく、日本のどこかにある島を本当に美しく描きました。この映画をご覧になられたら「こんな島に行ってみたいわ」って思われるかもしれません。ありがとうございました。


ギャラリートークのレポートは以上です。

映画『ねことじいちゃん』は2月22日公開。ロケ地は佐久島というところだそうです。エンドロールではちゃんと猫たちの名前も流れるらしいので、そういったところも岩合さんらしいなあと思いました。そしてフードスタイリストが『海街diary』や『かもめ食堂』の飯島奈美さんなので、劇中のごはんも要チェックですよ!

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