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「べとべと」してて気持ち悪い

私の小学生のころ,まさに最初のポケットモンスター (通称:ポケモン) ブームの真っ只中でした。ポケモンの中でも,なぜかベトベター (ググるとこんな感じ) はものすごく印象に残ってます。何故って?見ただけでべとべとしてて気持ち悪そうじゃないですか (笑)。子どもながらに,その印象が強烈だったようです。「三つ子の魂百までも」じゃありませんが,この印象が強かったのか下記のような研究をやりまして,最近論文を発表しました。

薛玉婷・郷原皓彦・佐々木恭志郎・山田祐樹 (2017). 粘性オノマトペは視覚的嫌悪感を変容させる—「べとべと」と「さらさら」を用いた検討— 認知科学, 24, 360-375. (リンク)

(筆頭著者の薛さんは,日本に来てわずか3年,しかも来るまで心理学未経験だったにも関わらず,日本語の心理学論文を書くという快挙を成し遂げました!)

冒頭のベトベターの話のように,私たちは見た目から触感を感じ取り,さらには気持ち悪さなどの感情まで感じてしまうのです。またそのような体験を人に伝えるときに,言葉で表現をします (まさにこのブログのようにね)。その際,「見た感じ粘り気があって気持ち悪い」よりも「見た感じべとべとしてて気持ち悪い」というように,オノマトペ (この場合は「べとべと」という触覚オノマトペ) を用いることが多いと思います。オノマトペは,私たちの感じる感覚を端的にかつ鮮明に表現することが可能です。オノマトペが喚起する鮮明なイメージは,私たちの視知覚にも影響を与えることが分かっています。このことを踏まえると,もしかしたらオノマトペは私たちが感じる感情まで変えてしまうかも・・・?

さて,今回の研究では,触覚オノマトペがべとべとした見た目のモノ (味噌などのペースト) が喚起する気持ち悪さに影響を与えるのかを調べました。触覚オノマトペとして,「べとべと」と「さらさら」(それと統制条件として「れへれへ」) を用いました。実験はとてもシンプルで,べとべとしたモノの写真と一緒に触覚オノマトペを実験参加者に呈示して,写真から感じる気持ち悪さを尋ねました。その結果,「さらさら」に比べて「べとべと」と一緒に呈示された方が,写真がより気持ち悪いと評価されました。つまり,触覚オノマトペがモノの見た目がもたらす気持ち悪さを変えてしまいました。さらに,別の実験で触覚オノマトペが,モノの見かけの湿り気にも影響を与えることも分かりました。したがって,触覚オノマトペが見かけの湿り気に影響を与えて,それに基づき気持ち悪さも変容していると考えられます。さらに,写真と触覚オノマトペを同時に呈示しなくても (写真を呈示する前あるいは呈示した後にオノマトペを呈示),気持ち悪さの変容が起こることも確認しました (1.8秒ほどずらしても大丈夫)。

他にもいろいろ実験してるのでぜひ本文をご覧ください!特に中国人の方を対象にした実験などは参加者集めに苦労しました・・・ !ちなみに,後続研究で韓国人を対象とした実験もしてます (未公開)。 あと苦労といえば・・・明確な理論的根拠や統計的根拠が示されることなく「参加者を倍にしなさい」という旨のコメントが査読者から来たのは本当に大変でした・・・。

今回の研究で明らかになった現象は,気持ち悪さという感情が,いろいろな情報 (今回の場合,写真の視覚情報とオノマトペの言語情報) が統合されることで生まれていることを示唆しています (しかも,この情報の統合にはある程度の時間の幅があることも判明)。なので,ベトベターも「サラサラー」という名前であれば,少しは気持ち悪くなかったのかもしれませんね。でも,やはりベトベターはベトベターがいいかな。

そういえば,「なんだか上手に書かれた実験演習のレポートを読んでいるような感じ」だと査読者から言われてしまいましたので,もっとプロの文章をかけるようになるために勉強と練習します!

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