ボクシング5

真夜中のガッツポ

2018年サッカーワールドカップはアツかった!日本代表の初戦であるコロンビア戦の勝利の瞬間は,感激のあまり思いっきり天に向かってガッツポーズしてしまいました!はて・・・めっちゃ嬉しくなるとなぜ手をあげてしまうのでしょうか・・・?ごく自然に(たびたび自覚せずに)私たちはそのように振る舞いますが,改めて考えると不思議だと思いませんか?思えば,ガッツポーズの他にも気分が高揚すると思わず飛び跳ねることもありますよね。つまり,気分が良いと私たちの身体は「上」に向かいたがるのです。このことには,「上下の空間」と「感情の快不快」の結びつきが関係しているのかもしれません。

 私たちの心の中では,「快感情」は「上」,「不快感情」は「下」と結びついている(e.g., Meier & Robinson, 2004)と言われています。このような結びつきは言語表現などにも現れている(「気分上々」など)と思うのですが,それだけではなく時として私たちの行動にも現れることが認知心理学の研究で明らかにされています。例えば,モノを上に移動させながら,最近の出来事を思い出すと,良い記憶が想起されやすく,逆に下に移動させながらだと嫌な記憶が想起されやすいと言われています(Casasanto & Dijkstra, 2010)。他にも,写真を見た直後に画面を上にスワイプすると,写真が快に評価され,下にスワイプすると写真が不快に評価されることが示されています(Sasaki, Yamada, & Miura, 2015)。これらの現象は,上下の空間と感情の快不快のリンクが「言語的」なものだけではなく,「非言語的」にも結びついていることを示唆しています。

 ここまでは上下方向の行為が感情の処理に影響を与えることを示す現象を紹介してきました。実は,逆方向の影響,つまり感情の快不快が身体運動や行為にバイアスをかけることもあります。例えば,快画像を見た後では,不快画像を見た後に比べて,上方向に腕を動かすようになることが報告されています(Sasaki, Yamada, & Miura, 2016)。他にも,ベクションと呼ばれる「身体が動いて感じる錯覚」(詳しくはこちら)を用いた研究もあります。具体的には,快感情を喚起する音を聞きながらだと,上方向のベクションが強くなることが示されています(Sasaki, Seno, Yamada, & Miura, 2012)。これらの研究から,上下の空間と感情の快不快の結びつきは一方向的ではなく,双方向的であることが分かりました。

 上下の空間と感情の快不快の結びつきが,私たちの行動にも現れることを示す知見をここまでは紹介してきました。さて,そもそもどのようにして上下の空間と感情の快不快が結びついたのでしょうか?いくつかの可能性が提示されています(e.g., Casasanto, 2009)。1つは,日常的に使用される言語表現に基づいた説明です。空間に関する言葉 (「高い」「低い」など) について,私たちはその意味通りに使用する場合(「高いビル」など)と,比喩的に使う場合(「高い理想」など)があります。このような空間語の比喩的な使用が,特定の語(「理想」など)だけではなく般化し,良い事柄全般を上側に関する言葉で(悪い事柄全般を下側に関する言葉で)表すようになったのではないかという説明です。この説明の場合は,先に言語的に感情と空間が結びついて,その後に非言語的な結びつきが生まれたのではないかと考えられています。一方で,身体経験を通して,先に空間と感情が非言語的にリンクしたと考える説明も存在しています。例えば,冒頭で述べたように私たちは良い気分のときはガッツポーズやジャンプをしますし,嫌な気分のときはうつむきます。このように感情と上下方向の身体の状態・運動は日常生活でたびたび共起します。このような共起経験を(自覚なしに)学習した結果,空間と感情が結びついたと考えられています。ただし,いずれの説明も疑問点が存在しています。例えば,言語表現に基づいた説明については,そもそもなぜ空間語が上記のように比喩的に使用されるようになったのかが不明です(しかもかなりの言語文化圏で共通しています。詳しくはMarmolejo-Ramos et al. (2013)を参照してください)。一方で,共起経験の学習による説明についても同様で,そもそもなぜ私たちは良い気分のときに上向きの運動を行うのか,その起源はよくわかっていません。このあたりは袋小路状態で謎に包まれており,結局決着がついていません。ちなみに最近,私たちも空間と感情がどのようにして結びついたかを調べる研究を行っています。成果が出たら改めて紹介できればと思っています(がんばります!)。

 さてさて,最初のワールドカップの話からだいぶ脱線しました。サッカー日本代表,各国代表,本当に素敵な試合をありがとうございました!また,見ていて思わずガッツポーズや飛び跳ねてしまうゲーム楽しみにしています!


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