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臨界サイズ受容期を探る - 1

3令採集のワイルド幼虫は何故大きくできないのか

 これは、ワイルド幼虫を数多く採集・飼育した経験のある人にしか理解できない問題で、一般的に売買されているブリード種しか飼育経験のない人には一体何のことやら謎な感じなのだとは思うのですが、この事実に基づくテーマにはですね、実は、成虫の大型化に直結する重大な本質的ヒントが隠れているんです。要するに、これを裏返せば——大きくなる3令幼虫の条件——があるということになります。つまり、大きくならない3令幼虫の存在は、大きくなる3令幼虫もまた存在するということの裏打ちとも言えるのです。非採集経験者にはしっかりと理解できるまでは意味不明でなんだかモヤモヤする話だとは思うのですが、これは添加剤云々などという生態・生理的な問題には繋がらない外堀的な話題ではなくてですね、大型化飼育の道に直結する核心的な問題なのです。
 わたしはそれに飼育開始早期に気づきましたので、ワイルド幼虫の採集と飼育による実験検証を繰り返してきたわけですが、それに対する回答と言いますか、或る程度のデータが集約されてきましたので、一定の成果を得られたと考えています(未だ仮説理論に過ぎませんが……)。

1年化と2年化の違い

 ブリード種のオオクワガタは、飼育される環境が定温であれ、常温であれ、人工的な富栄養餌材の使用も重なって自然下よりも遥かに好条件下での発育になりますので成育期間が大幅に短縮され、概ね1年化しますが、国産オオクワガタのワイルド幼虫(♂の場合)の野外での自然な成育期間は、本州の気温帯での常態としては2年と考えてよいと思われます。
 京都市内で晩秋から翌初春くらいまでに野外採集できる3令幼虫は1年目の冬を越して既に2年目に入った3令幼虫であることが多く、♂・♀共にこれらは大きくて迫力があるので採集時は現場での気分は上がるのですが、持ち帰ってその後に人工的に富栄養餌材(菌糸瓶)で育てても幼虫は大きく育たないのです。そして、初夏頃までには蛹化します。結果、大きな成虫にはなりません。何故か菌糸瓶の富栄養効果がまったく活きないのです。無論、マット飼育では更に大きくなりません。これが、ワイルド幼虫採集後の菌糸瓶飼育によって経験する——3令採集幼虫は大きくならない問題——です。
 しかし、初令、2令で越冬した未3令化の孵化後1年未満の採集幼虫に関しては、その後に3令に加齢し、更にもう一回冬を越して2年化するわけですが、この中に菌糸瓶飼育で大きく育てることのできるポテンシャルを秘めたワイルド個体が潜んでいるのです。それらには菌糸瓶飼育による富栄養効果が有効です。それは何故か?——単純に、菌糸瓶飼育による発育期間が長期間になるため——という短絡的な発想で解説されている人が居られますが、この場合、それはまったく正しくない見識だとわたしは思います。これには生物全般に通ずる或る発育メカニズムが密接に作用しているようなのです。

成長期=臨界サイズ受容期

 いつもは擬人化表現を嫌うわたしではありますが、事、これについては、我々、人を含む哺乳類と昆虫でもあまり変わらないらしいということが生物学的に既に解っているのです。つまり、或る時期(成長期)を超過すると、幾ら栄養摂取しても成虫化したときのサイズが最大値を上回ることはもうないという事実です。これには、或る段階で成長を止める(成長ホルモンを抑制する)ストッパーが内分泌系でメカニズム的に作用しているということです。要するに、これは我々、人で言うところの思春期を過ぎて成人してしまえば、幾ら食べても太りはするが身長はもう伸びないという事実と同じことなわけです。そうでなければ、我々は巨人と化してしまいますし、他の地球上の生物すべても生きている限り際限なく巨大化してしまうことになってしまいます。なので、オオクワガタら昆虫たちももまた同様の発育制御メカニズムを持っているということです。
 では、——そのストッパーは、いつ、何を切っ掛けに発動されるのか?——これが最も追求すべきポイントであるのですが、それが解れば、同時に臨界サイズ受容期を特定できたことになります。そして、その成長ストッパーが作用しはじめるまでの猶予期間が解れば、成虫の最大サイズ値を出すことのできる幼虫の成長期も同時に特定できるわけで、その期間にフォーカシングして富栄養で飼育すれば優位に幼虫を大きく育てることができ、それはつまり、その後に大きな成虫にできるDoorのKey(アドヴァンテージ)を得られたことになる筈です。
 この幼虫の臨界サイズ受容期の特定は、わたしが当初から追及すべきテーマの一つとしている命題になります。そこで、わたしはこれまでにワイルド幼虫の複数のサンプルを採集して飼育し、観察してきたのですが、これまでのデータからはっきりとここで提示できる事実は次の二点です。

  • 初令、2令共に、餌環境の変化による最大サイズに対する影響は少ない

  • 初令、2令共に、環境温度の変化による最大サイズに対する影響は殆どない

 これは、要するにですね、幼虫は3令に加齢するまではどのように飼育しようと、その後の成長サイズ・ゲインへの影響に大差はないということなんです。言い方を変えれば、初令、2令幼虫に対して何か飼育上の特別な工夫を施しても、それによる悪影響はあっても好影響は無い、ということです。ただ、成長(加齢)速度については早まるかもしれません。YouTubeなんかで有名な他のトップ・ブリーダーさんや古参飼育経験者、プロの専門業者さんたちの仰る「大型作出のためには初速が大事!」であったり、「初令から良質な菌糸をしっかり食べさせないと大きくはなりません!」的な言説であったりの飼育方針とはまったく相容れないことですが、それらの具体的、且つ科学的な理由解説がされていればわたしも納得できはするのですが、大凡主観的で意味不明でして……。なんだか、わたしの仮説の方が逆にやり甲斐を無くしてしまいそうな話ですが、しかしながら、事実、わたしのところではそういうデータになっています。
 そして、これにはですね、生育環境に反応する幼虫の持つ受容体のメカニズムが深く関わっているんです。つまり、その発動時期が最重要なのです。わたしは非常に確信的、且つ重要な問題に触れています。……ということは……この意味するところがお解りになる方は居られましょうや?

(続く)


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