描写

車で真逆の男に囲まれて…


朝、起きると、たいへん清々しい朝でした。冬休み勤務の1日目の天気は晴れ。とても幸せな土曜日と、それに浸って過ごしていた日曜日を経て、今日の私もルンルンです。


電車に乗ると、「音がすると壁を殴る男」がまたしても乗ってきたのです。ミリタリーテイストとワークスタイルのはざまといったファッション。今日は荷物を床に置いて通路を塞がず、右手の中指で下から上に向かって耳穴を塞いでいます。

この姿がどうも、周囲への『中指立て感』に溢れています。

大変大きなボストンバッグを左肩から下げています。赤ん坊が3人くらいは入っている膨らみです。


続いて、私の左隣に来た男。年齢は30代くらいでスーツを着ています。マスクを二重にしています。ちょっと汗ばんでいます。私は、違和感を感じています。

男は手ぶくろ、パンパンに膨らみ、ジップの閉まらないビジネスバッグをスタンディングデスクくらいの高さの、その荷台に置き、スマホを取り出しています。少女系マンガを読んでいます。こめかみの辺りに大粒の汗を何粒か確認しました。今にもゴホゴホと咳払いしそうな雰囲気を漂わせています。

すると、出てしまったのです。「ゴホッ」と小さく。

その瞬間、斜め左後ろの、あの男が大きくバコン!と壁を殴り、「チッ!ぶっ〇ろすぞ!」とブツブツ言っています。

少女漫画スマホ男は、ビクッ!として、ビジネスバッグに巻き付けてあったスロングスポーツタオルを自分の首に巻きました。それで口を覆い、続けて「…ッゴホ、ゴホッ…」と控えめに咳ばらいをしています。

左斜め後ろで「バコン!バコン!」「チッ!ぶっ〇ろすぞ!」と咆哮をあげています。私の真後ろに立っていた小柄な女性も心臓バクバク。

うわぁ、勘弁してよ。…と目を右斜め下におろすと、そこには見覚えのある白い紙封筒を見つけます。


うわぁ、この人、絶対に発熱してるじゃん。

それは、明らかに薬の入っているあの白い紙封筒。それが3つです。


そんなことを思っていますと、マンガを見るのをやめた彼は、パンパンビジネスバッグを枕にして、突っ伏して、寝たふりをしています。


なんとも静かな車内の騒がしい朝です。


電車通勤は、こういうところに、おもしろみがあります。


※追記


壁殴り男にも弱点があります。

0コンマ何秒の時間差で別の発信源からの音が、2,3回続いた場合は、壁殴りに空振り、いわゆる『スカ』があるわけです。それに、もし私が笑い声をあげてしまえば、壁殴りではすまなかったのかもしれません。

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