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戦闘機が翼や胴体に吊っているのは?

※※※ とりあえずミリタリー解説の記事を作ってみた見切り発車です。今後はこのような記事を増やしていく予定です。構成やタイトルなども付け足していきます。 ※※※

 民間の旅客機と比較すると軍用機、それもいわゆる戦闘機とカテゴライズされている航空機は主翼や胴体の下に何かを吊り下げている事が多い。

▲主翼下に増槽を装着しているF-16C
引用元:https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/99/F-16_2_Yokota_Tokyo.jpg

 もちろん軍用機なので爆弾やミサイルといった兵装類を吊り下げているのだが、その中でも他より一段と太い紡錘形のものがよく見当たる。上の画像なら主翼下のいちばん根元に吊られたものだ。これはいったい何なのだろうか?他より大きいからまさか核爆弾?

 結論から言えば、これは機外に搭載する「外部燃料タンク」だ(むろん爆弾やミサイルにも太くて大きいものはある)。「増加燃料タンク」や「増槽(ぞうそう)」とも呼ばれる(人によって微妙に違う)。中は燃料を入れるためがらんどうで、飛行機の姿勢変化で液体の燃料を動揺させないための波消し板が内蔵されていたり、尾部には安定のためのヒレがついているものもある。必要とあらば燃料が入ったままでも空中投棄する場合もある。

 戦闘機の主要な任務は一般的に、敵の航空機を一定空域から排除し、かつ近寄らせない事でその空域を友軍の支配下に置く事だ。空中にいる敵機を排除するためには空中戦を行う必要があり、敵機からも戦闘を挑まれれば組んづほぐれつの空中格闘戦に至る場合もある。よって戦闘機はなるべく身軽でなければならない。

 戦闘機に積まれているものはミサイルなどの兵装・レーダー・搭乗員など省くわけにはいかないものばかりだ。しかし燃料タンクは──特に味方基地を発進して空中戦の現場まで飛行してくる間に燃料を消費して空になっているスペースは──デッドスペースとなる。
 燃料タンクのスペースを大きく取れば滞空時間や航続距離は大きくなるが、機体そのものも大きく重くなって戦闘機にとって大事な身軽さが失われ、空気抵抗が増えるので最高速度や航続距離に悪影響を及ぼす。
 だが逆に燃料の搭載スペースをあまりに局限すれば、航続距離や滞空時間が短くなりすぎて航空機としての使い勝手が悪くなる。まして空になったスペースが自然に消滅してくれるわけでもない。

 戦闘機は任務によってミサイルや爆弾の数が増減したり種類を変えたりする。また前述のように無駄なぜい肉を削ぎ落としたような必要最小限なパッケージングの航空機であるため、特に燃費の悪いジェットエンジンを装備したジェット戦闘機は、機内の燃料だけでは二時間くらいしか飛べない場合が多い。


 ライトフライヤーからしばらく、材料工学やエンジンが進歩していない複葉機から単葉機へと移行するあたりまでは主翼下に何かを吊り下げるのは厳しかったが、機体がほぼ金属製となり丈夫になってくると余裕が生まれ、爆弾などとともに機体外部に燃料タンクを積む事が考えられた。
 特に軍用機であれば、敵機との空中格闘戦などになった際にまだ中身が残っていても、外部燃料タンクを棄てる事でより運動性を向上させる事ができるため、日本の零戦をはじめ多くの機体で外部燃料タンクを装備するようになった。

▲第二次大戦中の戦闘機P-51Dマスタング。主翼下に増槽を吊り下げている
引用元:https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/23/P-51-361.jpg

 第二次大戦後はジェットエンジンの実用化が進み、その流れで戦闘機もジェット化されていくと、ジェットエンジンの燃費の悪さが問題となってくる。しかし燃料を多量に積むと鈍重になり戦闘機としての能力を発揮できなくなりかねない(実際それで失敗した戦闘機もある)。
 そこで、最初から機内に搭載できる燃料の量はそこそこに抑えておき、外部燃料タンク搭載を常態化する事で(後には空中給油も用いる事で)、任務による燃料搭載量の増減に対応させつつ機体の規模を最小限に抑えるようになった──と、この段落の「そこで」以降は筆者の推測だが。

 ただ不要になれば投棄できると言っても、搭載している間は戦闘機自体にとっては大きな空気抵抗となり、たいがいのジェット戦闘機では外部燃料タンクを搭載していると高速を発揮できなくなる。


主翼下に左右1本ずつ外部燃料タンクを搭載したF-15E
引用元:アメリカ空軍公式より

 F-15は外部燃料タンクを最大3本搭載でき、任務によって2本や1本に減る事はあっても、全く搭載しないで飛び立つ事はあまりない。外部燃料タンクの搭載が前提となっている例と言える。

外部燃料タンクを搭載していないA-10
引用元:アメリカ空軍公式より

 一方日本で人気のA-10攻撃機は比較的燃費の良いエンジンを搭載している事もあり、通常の対地攻撃任務などでは外部燃料タンクを必要としない程度の航続力を持つ。アメリカ本土からヨーロッパといった遠距離飛行などのために外部燃料タンクを搭載する場合もあるが、そういう姿(写真)は比較的珍しい。タンクそのものもF-111戦闘機からの流用品で済まされている。
 戦闘機や攻撃機の中にも、そうしたふだんは外部燃料タンクを必要としない機体もある。

▲主翼や胴体に何も吊り下げていないF-22ラプター
引用元:アメリカ空軍公式より

 また現代ではレーダーなどに捉えられにくいステルス技術が戦闘機にも導入されているが、せっかく機体がステルス形状でも機外に余計なものを下げていると電波反射源となるので、上のF-22ラプターのようなステルス性能を重視する機体だと、燃料も全て機内収容で外部燃料タンクは装備しない前提だ(=その分機体は大柄になる)。

▲主翼下に増槽を装着しない前提のロシア製Su-27
引用元:https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/ad/Sukhoi_su-27_%28blue%29_flying_in_sky.jpg

 ロシアのSu-27フランカーシリーズの場合は、他のステルス機ほどにはステルス技術が取り入れられているわけではないが、外部燃料タンクを装備しないというコンセプトで設計されている。これも単座(一人乗り)戦闘機としては非常に大柄になっている。


 電子技術の発展にともない、戦闘機が吊り下げるものは爆弾やミサイルに限らなくなってきている。機会をとらえてそちらも解説したいと思っている。

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