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京島の10月|30. 村一周、そしてまた日常へ

すみだ向島EXPO2023の最終日。月曜日なのでというわけでもないが、2-3 個人的な仕事を進める。お昼を過ぎて、1ヶ月間タイミングを逃し続けていた企画に行けそうなことを察知し、曳舟駅前の敷地へ。

飲食のテナントから生まれ変わる途中の建物と周辺の土地を活用し、複数の企業や作家たちでイベントなどに利用している場所だ。過去には大きなけん玉の大会なども開かれ、人があふれる光景を見たことがある。

お目当ての絵付けを依頼し、作業を待つ間、ピンポン台を横目に、けん玉のレクチャーを受ける。手首の通りに球が動くこと、穴から目を離さず、けん先で迎えること。お皿に乗せるしか知らなかったが、こういう概念があるのかと驚き、小一時間練習に励んだ。

電車が高架を通り、ピンポン玉がラリーして、玉をけん先が受け止める。ターンテーブルから流れる心地良い音楽に、暮らしと遊びの効果音が混ざり合う。右腕が少し重くなった頃、UFOに乗ったモニュメントが完成。操縦者の顔がそっくりですぎて笑ってしまう。ターンテーブルに乗せられたUFOは、小さな宇宙をくるくる陽気に回っていた。

自宅に戻って少し休む。天候も穏やかで静かな夕暮れ。インターネット越しに過去の偉人の逸話などを眺めていたら、あっという間に18時が近づいた。楽しみなような、終わって欲しくないような。もはやすっかり体に馴染んだ時間に、上着を羽織って外に出る。

商店街には活気があって、休みの多い日曜とはまた違った光景。おでんの種、揚げ物各種、寿司ネタや明日のパン。EXPOのチケットを首から下げた人たちと、いつもの商店街が一緒に並ぶ。会期の最後が平日であることが、まちなか博覧会と銘打つEXPOらしい風景だった。

かぼちゃコロッケとポテトちくわをくわえながら、幾度となく足を運んだ路地へ。チョークで書かれた線に沿って並ぶ人、人、人。挨拶をすれば、あっという間に時間が溶けていきそうだ。

この街に呼んでくれた人、この街を夜まで案内してくれた人。居酒屋で声をかけてくれた、凸工所に遊びに来てくれた、何度も他愛のない話をした。展示を見て、一緒に編み物をして、お菓子を食べて。数えきれない顔ぶれを見ながら列の端にたどり着く。

それぞれの1ヶ月間がバイオリンの音色とともに、空に溶けていく。そして、いつものようにその間を、街の人が歩いていく。オープニングセレモニーでは、テープカットさえも自転車で遮られる光景のシュールさにたじろいでしまったが、30日経った今ならわかる。自転車や人が通れる街で、それを守ろうとする人たちと、僕は暮らしているのだ。

今日教えてもらったけん玉の技は「村一周」。大皿に玉を乗せてから、けん先に差し込む入門的な技だ。何十何百とトライして、成功したのは10回ほどだけど。僕もようやく、京島を一周できた気がする。

このnoteは「すみだ向島EXPO2023」内の企画、日誌「京島の10月」として、淺野義弘(京島共同凸工所)によって書かれているものです。

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