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京島の10月|18. はじめの一歩のあゆみ方

ついにこの日が来たかという感じだが、若干酔っ払いながらテキストを書いている。ベロベロというわけではないが、普段より少しふわふわした感覚で、ペンと思考を走らせている。

昨日に引き続き、決まった予定のほぼない日。締め切りの近い原稿や仕事を自宅で淡々とこなしていく。2日連続でしっかり寝たこともあり、体がようやく元気を取り戻したようだ。やはり人間には誰にも会わずに黙々と過ごす日がたまには必要なのだろう。

お昼過ぎ、目を覚ましがてら、家の外に出てイトーヨーカドーへ向かう。半ば義務感のようにスカイツリーを見上げ写真を撮る。好むと好まざるとと関わらず、必ず目に入るもので、その日の空の表情とマッチする存在として印象に残っている。

筆者が生まれてから建てられ、墨田区のあり方にも大きな影響を与えた建造物。この巨大な電波塔がこの先何十年何百年と変わらぬ風景として続いていくのだろうか。とあるアニメではしっかり破壊されていたよな、などと思いつつ、天空と足元に流れる時間の違いを思う。

こちらに引っ越してきたとき、近所の図書館で墨田区関連本コーナーを見つけ、スカイツリーの歴史についての新書を読んだ。元々はコンクリートの工場だったこと、建造中の姿を見守るコミュニティがあったり、同じ高さを模した光の塔が投光器で描かれたことなどを知った。足元の建物が、のべつくまなく立ち退きになったのかと思っていたが、必ずしもそうではないようで、こうした記録が残されており、それを知るか知らないかで見える風景も変わるのだなと思っていた。

昨日に続いて、押上をぐるりとする散歩コースの道中、パン屋さんでかぼちゃパンとクリームパンを買って食べた。前に住んでいた場所では、特にお気に入りのパン屋というものがなかったのだが、こちらに来てからは、ちょっとしたときに食べたいパンやお菓子のお店がいくつかできた。1日の予定の中に「美味しいパンを買う」「好きなお菓子を食べる」みたいな用事があることの幸せさよ。必要を少し超えた先にあるちょっとした喜びが、たまにあるのがいい暮らしなのだと思う。

押上のスターバックスで原稿を進め、予定より少し遅れて席を立つ。京島でお酒を飲みに行く約束をしていたのだ。よく行くお店の知り合いと、出会ってまだ2回目の人という不思議な組み合わせ。「前から気にはなっていて、何度も機会をうかがっていたお店」がみんな共通していたことがわかり、それならばとタイミングを合わせて行くことになった。到着が遅れたのはシンプルに反省しているが、明日も仕事を控えていることが悔やまれるような良い時間を過ごした。

誘ってくれた友人と出会ったのは、これまた別の場所であり、民家を改装したひっそりとしたお店。引っ越してきてすぐ、1人で飲みに行くような経験もなかったが、動かねば変わらないと思い、勇気を出してドアを開けた。常連で賑わい、うち1人は結構酔っ払っていたが、とても良い雰囲気で緊張気味の筆者もすっと馴染めた。

それからよく通うようになり、会話の流れでお神輿だとか、合唱だとか、別のお店に行くだとか、そういう他の動きにも繋がっていった。初めてはいつも緊張するのだけど、その先で後悔したことはあまりない。誰かが一緒にいれば、そのハードルはなお低くなるはずで、今日はとってもありがたかった。

このnoteは「すみだ向島EXPO2023」内の企画、日誌「京島の10月」として、淺野義弘(京島共同凸工所)によって書かれているものです。

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