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ひな形に支配される人たち

前回にひきつづき「ナッジ」について。

「ナッジ」とは、おおざっぱにいうと、
「人間の心理を利用して行動を促すさりげない仕掛け・優しいテクニック」
を指す。
有名な例では、男性用トイレの真ん中の少し下あたりに虫の絵を描いておくと、トイレの清掃費用が8割も削減できた(詳しい理由は想像に任せます)。
これもナッジだ。

看護師の超過勤務を減らすために、

  • 日勤のユニフォームをピンク

  • 夜勤のユニフォームを緑

にしたところ、残業が減った。
残業していると自分だけユニフォームがピンクになり、居心地が悪くなる心理を利用しているという。
周囲の人もピンクの人に仕事を頼むのをためらうようになった。
これもナッジだ。

ナッジは、人々の選択や行動を微妙に方向づける手法のことを指す。

今回のテーマは、「選択の容易化」「行動の方向付け」「自由度の保持」の3つ。

スーパーにレシピが置かれている理由は、献立を迷う人へのサービスだけではない。
スーパーマーケットに設置されたレシピカードは、ナッジ理論における

  • 選択の容易化

  • 行動の方向付け

  • 自由度の保持

という3つの概念を巧みに活用している。
以下の例で、これらの概念がどのように適用されているかを説明しよう。

夕食の買物客のうち、何を買うか決めて来店する人は、2割に満たないという。
買物客の大半は売場で献立を考えている。
忙しい主婦は、早く献立を決めたいと思っているが、そんなときに、入り口の壁や棚の一角にレシピカードが置いてあればどうだろうか。
おいしそうな写真に惹かれてレシピを気に入った客は、レシピを手に取り、そこに書かれた必要な食材をひととおり買っていくだろう。
客はレシピどおりに作ろうとするため、入れなくて良い材料があっても、すべて買って行く。

まず、選択の容易化。
レシピカードは、献立を決めるストレスを減らし、買物を容易にするツールだ。
レシピカードにより、顧客は迅速に献立を決定し、必要な食材をすぐに把握できる。

次に、行動の方向付け。
スーパーが提供するレシピは、顧客に特定の食材を購入するよう促す。

最後に、自由度の保持。
レシピカードはあくまで提案であり、それを参考にするかどうかをは買物客の自由。
すくなくとも自由だと考えている。

このように、スーパーマーケットにおけるレシピカードは、顧客の購買行動に対して効果的なナッジを提供し、

  • 選択の容易化

  • 行動の方向付け

  • 自由度の保持

を実現している。

このテクニックを協会の運営にどのように応用できるだろうか。

とくに資格の発行やそのための養成講座を活動の主軸としている協会においては、ナッジ理論の応用が大いに効果を発揮する可能性がある。

まず「選択の容易化」の観点から、協会は資格取得に向けたロードマップを明示することが重要だ。
たとえば、資格取得に必要な各ステップをウェブサイト上に簡潔に説明するインフォグラフィックを掲載し、会員が取るべきコースや手続きを容易に理解できるようにする。
これにより、会員は自分の現在地と目指すべきゴールを明確に把握しやすくなる。

次に「行動の方向付け」では、協会は特定の養成講座への参加を促すために、受講者の具体的な変化の道筋を前面に出すことが効果的だ。
たとえば、資格取得後のキャリアアップや、資格を活用して成長したストーリーを紹介することで、資格取得へのモチベーションを高めるなど。

最後に「自由度の保持」に関しては、協会は会員に複数の選択肢を提供することで、それぞれの事情に合わせた柔軟な学習機会を提供するとよい。
たとえば、対面式のセミナーだけでなく、オンラインでの参加オプションや自習用の教材を提供することで、会員一人ひとりが自分のライフスタイルや学習スタイルに合わせて選べるようにする。

レシピカードの例で述べたように、何を買うか決めて来店する人は少ない。
同様に、自分の人生のロードマップを持っている人はきわめて少ない。
協会は、そうした人にロードマップのひな形を提供する。

あくまでひな形であり、選択するか否かは会員の自由意思となるが、
「ひな形を与えられた人間の多くは、そのひな形に沿おうとする」
というナッジ的な性質が人間にあることは、記憶しておきたい。




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