「クリエイターのための権利の本」制作秘話

9月末に発売された「著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本」。どうやらかなり売れているようです。内容についても、Twitterをエゴサをした印象では、そこそこご好評いただいているようです。
実はこの本、私の持ち込み企画だったりします。と言うことで、本のPRも兼ねて、どのような経緯でこの本を出版することになったのかをお話したいと思っております。

切っ掛けは単純な思い付き

年明けの1月中旬頃、これまで何度か執筆を依頼してきた株式会社mgnのメガネ(大串肇)さんと、「今年もなんか本やりたいっすねー」という、なんともざっくりとした打ち合わせをしておりました。その際、たまたま年末年始に著作権関係の本を読みあさっていたこともあって「デザイナー向けの著作権本とかってどうっすか?」と相談してみたんです。
すると「行けると思いますよ!」と即答したメガネさんは、そのままの勢いで著者候補になりそうな人に、メッセージを送り出しました。

・少額訴訟の経験者であるデザイナーの北村 崇さん
・商標登録や開示請求などに詳しいブロガーの染谷 昌利さん
・イラストレーターでもあり著作権問題にも詳しい角田 綾佳さん
・多くのオープンソースプロジェクトに参加する古賀 海人さん
・さらに打ち合わせの場に同席していた株式会社mgnの齋木 弘樹さん

このメンバーにメガネさんを加えて6人の著者が、打ち合わせを開始してから30分足らずの間に決まりました。
ただ、法律を扱う以上、その分野を監修する専門家は必須です。その方については、北村さんが「ツテがある」とのことで、いろいろ紹介していただいた結果、最終的に弁護士である木村 剛大先生に監修をお願いすることになりました。木村先生は「知財訴訟、アート、エンターテインメント、デザイン、IT分野の契約」などを専門にしており、まさに本書にぴったりの人選でした。木村先生には、監修だけではなく、執筆もお願いすることになり、これで7人の著者が揃いました。

著作権の本は売れない?

ほとんど、勢いのままに決まってしまった「著作権本」の企画ですが、前年にキュレーションサイトの問題がネット上でも大きな話題になったこともあり、「もしかしたら波が来てるんじゃない?」と思って、何人かの出版関係者に軽く打診してみました。ざっくりと5人ほど。そこでほぼ全員から帰ってきた言葉が「著作権本は売れない」でした。

「ホンマかいな?」と思って調べてみると、確かに著作権関連の書籍は苦戦していました。Amazonランキングを見ても、著作権関係の書籍は総合ランキングで50万位あたりをうろついています。上位にあるのは、資格取得用の教本ばかり。本の種類は出ているのですが、売上という観点でみるとあまり芳しくありません。なるほど、これでは「売れない」と感じるのも無理はないです。

でも、「ネット上には、著作権にうるさい人たちがあんなにも大勢いるんだから、需要は絶対にある」と思ったんです。なので、どうして売れていないのかを知るために、著作権関連の本や雑誌の特集を計20冊くらい読んでみました。さすがに全部は買えないので、半分くらいは図書館で読みましたけど。

で、感じたのは「わかりにくい!!」そして「つまらない!!!

正直なところ、読みながら寝てしまった本も何冊かあります。
専門用語は注釈もありますし最悪ググればなんとかわかります。ただ、法律関係ならではの独特な言い回しが、なんともわかりにくいんです。法律家の方が勉強するために読むのなら、そんな表現でもいいのかもしれませんが、デザイナーが読むのなら、もうちょっとくだけた表現じゃないとわからないと感じました。

そこで本のコンセプトを
法律の専門家ではなく、現場のクリエイターが実際に起こった権利関係のトラブルについて、対処方法も含めて解説する本」としました。

専門家ではなく、クリエイター自身が書いたのであれば、専門的な言い回しも少なくなり読みやすくなるはずです。ただし、間違ったことは書けないので、そこは木村先生に監修をお願いする、ということです。

ぶちゃけますと、木村先生が監修についていただいたおかげで、本の内容は実質3倍は濃くなりました。本書に載っている判例は、ほぼすべて木村先生がまとめてくださったものです。もし木村先生が監修についていただけていなかったらと、今思うとゾッとします。

書き始めてないのにAmazonランキングのカテゴリ1位

さて、コンセプトを決め、著者と監修者を確定して、あらためて版元の編集者さんに打診をしたところ、真っ先にお声がけいただいたのが、今回の版元であるボーンデジタルさんです。
メガネさんとボーンデジタルさんにお伺いして、担当編集である岡本さんと打ち合わせをして、そして正式に出版が決まりました。

さて、出版が決まったら、次に行うことは、通常なら「書籍の構成を決めて、紙面のフォーマットを作って文字数と要素を確定させて、著者に執筆の依頼をする」、という流れになるのですが、本書で真っ先に行ったのは「本のタイトルと表紙を決める」ことでした。
あくまで私の経験上の話ですが、タイトルと表紙は、本の内容がほぼ見えてきてから、そのイメージにあわせて決めるパターンがほとんどです。ですが、今回は「仮でもいいので」先に決めることになりました。なぜかというと「タイトルと表紙があれば、Amazonで展開できるから」です。

企画が通ったとはいえ、「売れない」と評判の著作権本。できるだけ早く予約販売を開始して予約数を増やしたいと思うのは十分に理解できる話です。ボーンデジタルの岡本さんからは、できれば「Amazon予約数を200まで届かせたい」との要望があり、まだ執筆していないにも関わらずAmazonでの予約を開始しました。
実のところ、著者メンバーの拡散力を持ってすれば、Amazon予約200は余裕だと思っていましたし、万が一届かなかったら、「その分を自分で予約すればいいだけ」と思っていました。まあ、半分くらいはメガネさんに買ってもらうつもりでしたが。

仮のタイトルを「クリエイターが知っておくべき権利の本」として、表紙を著者の一人である角田綾佳さんに依頼して、発売の5ヶ月以上前にAmazonの予約販売を開始しました。また、角田さんが作ったPR用の漫画がかなりバズりまして、瞬間的にではありますが、なんとAmazonのDTPカテゴリで1位になっちゃったんです。この段階では、まだ構成すら決まってなかったのに……


打ち合わせはすべてオンラインで進行

関係者とのコミュニケーションは、最初はFacebookのメッセンジャーで行いました。ただ、会話が続くと前の連絡事項が流れていってしまうので、途中からFacebookのコミュニティを立ち上げてもらい、そちらでやりとりを行っていました。序盤は、3回ほどオンラインでのミーティングも行いましたが、直接会ってやり取りしたことは、ほぼ皆無です。これは、別に本書に限ったことではありません。私も、ここ2〜3年は、直接会っての打ち合わせはほとんどしないで書籍を作っています。別件で会ったりすることはありますが、この本の打ち合わせ名目で会ったことは、最初のメガネさんとの打ち合わせだけだったと思います。
ただ、オンライン上での議論は活発でした。特に記憶に残っているのは、本書でも取り上げた「職務著作」についてです。これは議論が白熱して、深夜にもかかわらず延々と続いたので、原稿を早く進めてもらいたかった私が強制終了した記憶があります。

発売が遅れてしまった理由

さて、当初の発売は9月初旬でしたが、もろもろありまして9月の末になりました。ここでは、なぜ遅れたのか、その「言い訳」をさせていただきます。

本書は、どんな内容なのかを理解していただくために、各所で誌面サンプルを公開しています。もしかしたらご覧になった方もいるかもしれませんが、初期のサンプルには、項目のタイトルの横に四角い枠がありました。

以前はこちら(枠のほか、まだ細かい修正が残っている状態です)

最終的にはこう


この白枠は、初級、中級、上級と、難しさを表すアイコンを入れる予定でした。しかし、実際に内容をまとめていくと、もはや何が初級で何が上級なのかわからなくなってきたんです。
例えば「写真などの素材から、人物や構図をトレースするのはOK ?」という項目があります。これ、当初は「初級」を想定していました。
「トレースしたら著作権侵害になるのは当たり前だし、今更細かく説明することもないだろう。まあ導入レベルにはちょうどいいな」と思っていたからです。ですが、木村先生の監修後にもどってきた原稿には「トレースが著作権侵害になるかの判断は難しい」となっていました。
本書をご覧いただければおわかりになりますが、判例では「トレースしても著作権侵害にならなかったケース」があります。つまり「トレース=著作権侵害」とは限らないのです。
このように「これは当然のことだから初級だろう」と想定していたものが、「当然ではなかった」という項目が、いくつも出てきました。そこで最終的に、枠ごと取ってしまうことになったんです。

こんな感じで、当初の予定から変更した箇所はたくさんあります。「単純で簡単な話」と思って2P分しか想定していなかったのに、実は非常に複雑で難解なため判例も含めて説明すると6Pは必要になるとして、大幅な台割変更を余儀なくされた箇所もあります。そもそも、私の解釈が間違っていて、レイアウトがおかしくなっていた箇所もあります。こういうのが積み重なって、発売が大幅に遅れてしまいました。本当に、申し訳ございません。

レイアウトにはこだわりたかった

これも遅れてしまった理由の一つなのですが、今回はレイアウト、特に見開き(左ページ始まり)での展開にこだわりました。
法律に関わることなので、監修後の原稿には、できるだけ手を入れたくありません。ですが、原稿の量によっては見開き単位では収まらない箇所も出てきます。事実、著作権関連本の中には、見開き展開を諦め1ページ単位や、中にはページの途中に項目のタイトルが入っているケースも少なくありません。
ただ、いろいろ著作権関連の書籍を読んでいくウチに、このレイアウトこそが法律本の読みにくさを助長しているように思えていました。なので今回、例え余白が大きくなったとしても見開きで展開することにこだわりました。でも、やっぱり白い部分が大きいと不安になるので、そこは著者さんのキャラクターイラストとコメントを入れて埋めています。正直に言います。あれは完全な「埋め草」です。

さらなる詳細は10/28のイベントで

兎にも角にも、本書は書店では9/27に、Amazonでは9/30に発売されました。おかげさまで売れ行きも好調で、そろそろ重版の声も聞こえてきそうな状況です。これも、いろいろ知恵を絞ってくださった著者のみなさま、企画を通すためのご尽力いただいたボーンデジタルの岡本さん、書店での平置き展示を勝ち取っていただいた書店営業の方々、そして私の無理な注文に対応してくださった装丁・DTP担当の佐藤さん、そのほか数多くの方々のご協力があってのものです。この場を借りてお礼を申し上げます。

さて、本書については、制作中も発売されてからもいろいろありました。本書では書ききれなかったこともたくさんあります。著者のみなさんも、話したいことが山のようにあるでしょう。
ということで、実は10/28に都内某所にて、出版記念イベントを予定しております。こちら、詳細が決まり次第、告知いたしますのでお楽しみに。



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小関 匡

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