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『私がオバさんになったよ』 ジェーン・スー

森高千里は仮定法で『私がオバさんになっても』と歌ったけれど、『私がオバさんになったよ』は完了形で、なんなら誰かに向けた報告である。何、このざわざわするタイトル。39歳の私は、未婚で子供もいないし、弟も未婚なので姪っ子や甥っ子もいない。部下もいないし、相対的「年長者・オバさん」ポジションに入らないまま軽薄に時間をすごしてきた。今40になるのがめっちゃ怖い。20歳になるときも30歳になるときも「私、若さなんて売りにしてないんだもん、だからいいも~ん」と思ってきたら今来た。肉体の衰えとともに。どうしよう!

私がこのところ、その切れ味と視点、説得力に魅了されているジェーン・スーが、光浦靖子、認知神経科学者の中野信子、男性学の田中俊之、彼女の大学サークルの先輩でありRhymestarのラッパー、ラジオパーソナリティである宇多丸、『逃げるは恥だが役に立つ』の漫画家 海野つなみなど、わが道を歩く8人と語り尽くす「今」の対談集。自分の意見があって頭がいい人たちによる冴えざえとした対話。光浦さんとはお笑い界についてや「ビジネスブス」の変遷、男性学の田中さんとは「女性が生きやすくなるためには男性にかかった呪いも一緒に解かなければならない」といった話が展開される。他にも、「幸せそうな40代独身女性は、大正時代の“モダンガール”のようにこれまでになかった存在だから社会がどう扱っていいかわからないのでは、“モダンババア”だ」など。ジェーンさん同様、パートナーに家事を依頼し自身はバリバリ働く能町みね子さんとの「発言は役割によって作られる」なんて話も面白かった。パートナーから「(家事をしていても)未婚で無職の期間は履歴書に書けないんだよ」と言われるらしい。借りてきたような一般論ではなくて、各自が生きていく中で抽出してきた考えを、そしてそれを対話によって深めていくという面白味、醍醐味を読んでいるだけでも味わうことができる。

森高千里は結婚して表にあまり出なくなったけれど、椎名林檎、宇多田ヒカルは(元)シングルマザーとして、aikoは独身女性として今も第一線で歌い続けている。歌姫を見ても、日本における女性のポジションは変わっている。私は結婚への圧力を家族からかけられることもなかったし、もろもろタイミングも合わなくて、ちょっと前の日本なら存在が少なかったポジションでオロオロしている。この本を読んだところで模範解答は見つからなくて、彼女たちのように自分の答えを見つけるしかないのだけれど、「若くもきれいでもない女が楽しそうに生きる(本文より)」をテーマにした先達を見ると、まあなんとかやっていけそうな気もする。私の周りの人たちもなんだかんだ言ってやっていってるし。「やだーやだーこわーいつらーい」と言う私だけど、きっと私と違う属性、例えば既婚子無、子有女性だって男性だって各自しがらみが大きかったりして大変なんだと思う。「あんたはいいよね、私のほうが・・・」と敵を増やすんじゃなくて、対立構造や問題そのものをなくすような、協力体制を新しい時代に作っていけたら、と選挙もあるし思った。(選挙行きますよ!)

122 私がオバさんになったよ


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