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『佐野洋子の「なに食ってんだ」』 佐野洋子 オフィス・ジロチョー

『100万回生きたねこ』を小さい頃に読んでいなくて、私の知る佐野洋子は『ヨーコさんの言葉』や『死ぬ気まんまん』で、その場に迎合するのではなくて、自分の感じたことや考えたことをスバっという豪快な人、という印象。彼女の絵本や小説、エッセイに出てくる食についての本。

中国で暮らしていた時の食べ物、銀座のお寿司、念入りにつくったおせち、おいなりさんといった食べ物だけでなく、石やセーターなど食べ物ではないものも「口に入れたもの」として紹介される。おいしい/まずいの話はもちろん、体を柔らかくするために酢を飲んでいた、雨は甘いと思い込んで口を開けていた、といった思い込みや、好きな男への思いは梅肉エキスみたいに煮込んで塗りつけたいといった思いなどがつづられる。

私が読んでいて気持ちよく思うのは、佐野さんが好きな食べ物をなるべくたくさん、そして長く食べたいという欲に忠実なこと。「本音」で彼女は書いている。おいしいメロンが手に入れば、子供に食べられてしまわないように(一応1つはあげる)こっそり食べるし、おいしいハチミツをもらえば恩着せがましく人に説明する。私は肥満児だったこともあり食べ物への執着は人一倍あって、ときどき自分だけに甘いことをするけれど、基本的に「いい人」と思われたくて公正に食べ物を分けたり、気前よくあげようとする。本当はそんなことをしたくないので、後でじっとり恨めしく思う。佐野さんは食べ物と自分に正直だ。時と場合によるけれど、私も人の目を気にして後でネチネチ妬むのではなく、自分に忠実に、食べたいものを存分に食べていきたい。

ちなみに私が小さいころ口に入れていたのは、帽子の紐ゴム。しょっぱくて(たぶん汗)噛みごたえがあるので、もにょもにょ噛んでた気がする。夏の味。

126 佐野洋子の「なに食ってんだ」


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