見出し画像

『初ものがたり』宮部みゆき

江戸の町、夜遅くまで開いている屋台が一つ。稲荷寿司の店だが、蕪を丸ごと使った蕪汁、鰹の刺身、白魚蒲鉾、桜餅、柿羊羹・・・といった旬の料理も供している。もちろん美味い。屋台の親父は何やら訳あり。そこに足を運ぶのは、本所深川一帯を預かる「回向院の旦那」の岡っ引きの茂七。彼が屋台に足を運ぶのは、大体事件に悩んだ時で・・・ はい、もう魅力ポイント満載。その屋台、私も行きたい!その親父、気になる!事件の香り、よし来た!事件と、江戸の旬の食べ物がリンクしていてオツな味わいの短編集。人の気持ちがよくわかり、公平でずるいことが大嫌い、頼り甲斐のある茂七と、旦那に何か言われたら黙っちゃいない、腕のいい仕立て屋でもある奥さん。そして彼の子分、店の旦那と使用人たちが住む江戸の町で起きる事件を茂七はどう解決していくのでしょうか。短編なので、トリックがとても入り組んだりしているわけではないけれど、パーツが集まって解決していくさまは、やはり読んでいて気持ちがいい。

すごく不思議なのが、読んでいると江戸っ子みたいに気持ちがシャキッとしてくること。自分がチャキチャキして、粋なものが好きで人情に厚い、気立てのいい江戸の町女みたいな気持ちになる。例えば洟たれ小僧が歩いてたら「坊、ちょっとあんた汚いねえ、これで洟かんでおいきよ。」なんて言いそう。江戸の町人がそういう着物を着ていたかわからないが、糊の効いた浴衣でも着ている気分。

もう一つ不思議なのが、食べ物がものすごーーーく美味しそうに感じること。食べ物の描写が長々と続くわけではないのに、「それ絶対うまいやつ」と確信するのは何でなんだろう?柿羊羹なんて食べたこともないのに、屋台の長椅子に腰掛けてチビチビ食べたら絶対に幸せだ。(茂七は事件のせいで、複雑な味になっていそうだけど)文章の力、宮部みゆきさんの力ってすごい。

先日「おいしい本」というテーマで本を持ち寄りおしゃべりする会を開催して、もらったのがこの本。いい本教わったなあ、とってもおいしい本でした。

129 初ものがたり


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?