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『今夜もカネで解決だ』 ジェーン・スー

私は疲れていた。そんな時に本屋で買ったエッセイは失敗で読むのをやめた。図書館へきて小説の棚を巡回する。今の私には読めそうもない。本棚の間をさすらって出会ったのがこれ。ああ、ジェーン・スーさんなら。しかもこの本なら今の私にぴったり。

『今夜もカネで解決だ』なんて豪儀なタイトル。これは"マッサージ・ジャンキー" ジェーンさんのマッサージ巡り体験記。すべての体験記には時間と費用が書いてあり(30分2980円とか)、プチプラ/一葉・英世/諭吉先生と金額ごとの章立て。女には疲れ果てて「誰か私に具体的に優しくして」という時がある。ちなみに私はその日、駅前の「肩甲骨はがし」に予約なしで飛び入りしようとして断られた。そうですよね、平日の夜いきなり入れませんよね。入れたら逆に心配な店ですよね。わかります。

ジェーンさんはマッサージの受け手として相当な手練れ。プチプラから高級まで。クーポンを使った飛込や、常連でいざというときに頼る「神の手」まで。ジャンルもよもぎ蒸し、足裏マッサージ、ストレッチからロミロミ、ホテルのエステまで。決して値段で判断したり雰囲気に流されたりせず、インテリア、接客、そして施術を的確に評価していく。

そんな玉石混合のマッサージを「女には痩せて見えねばならぬ日がある」「イケメンは苦手」(※多分、マッサージにおいては)と、働く女なら「どうしてわかるの!」「そこッ」「もっとやって」と思ってしまうようなコメントを交えて表現していく。周知のように、ジェーンさんの着眼点、観察眼、描写は秀逸。まるで熟練者のマッサージのよう。肉体的には変わっていないないけれど、メンタルに上等な施術を受けた気持ち。「いい仕事してくれて、ありがとう・・・あなたの技に元気をもらったよ、私もうちょっとがんばれる気がする。」体力と気力の底から私を救い出してくれたあの人に抱いたような敬意と感謝をジェーンさんにも抱く。

112 今夜もカネで解決だ


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