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『ちひろさん 9巻』安田弘之

私としたことが。昨年末に発売されているのを知らなかった。私が一番大切に思っている漫画なのに。まあいい。いきなり読んでいない『ちひろさん』が私の人生に現れたのだから。僥倖なことにかわりはない。

元風俗嬢で、今は海辺の街のおいしいお弁当屋さんで働くちひろさん。彼女は人に合わせたりしないし、その場しのぎのことを言ったりもしない。風変わりに見られるけれど、実はみんなちょっと羨ましくもなってしまうような人。2種類のソフトクリームを選ぶのに迷ったら味が混じってしまう「ミックス」なんて選ばずに、ソフトクリームを2つ買って両手で楽しんじゃったりする。

今回は就活がうまく行かない女子大生、みんなから非の打ち所がないと思われてしまうような高校教師が、ちひろさんに会って、「なにか」に気づく。『ちひろさん』は月刊誌の連載漫画で単行本9冊目、かなり作中でも時間が経ってきた。登場人物たちの人間関係がちょっとずつ変わっていく。犬猿の仲だったあの人と、ちひろさんは遂に飲みに行っちゃうんだもんなあ。そしてあの子供がどんどん大人になってきて、ちょっと、いやかなり寂しい。

この9巻でシーズン1が終了。彼女の風俗嬢時代は、かつて『ちひろ』という名前で連載されていた。(2007年初版)この時の終わりは本当にただの(続きを示唆するようなことのない)終わりで、すっかり存在を忘れていた。ある日私は本屋でたまたま『ちひろさん』と再会し、彼女の魅力に再びどっぷり浸かることになる。シリーズを全部まとめて読んでももちろん面白い。(私は布教のため、5人以上に貸しているが全員魅了されている。)でも不在の時間を別々に過ごした後の再会は格別。『ちひろさん』は不在すら、まるで演出のように感じさせる女性であり、作品なのだ。心にすっとグッと入るようなすごい漫画だし、次のシーズン2での再会を深く味わうためにも、未読ならぜひ、ぜひ、今のうちに読み始めてほしい。

漫画263 ちひろさん (9)


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