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『野の医者は笑う: 心の治療とは何か?』東畑開人

私は約10年間、結構なスピリチュアル・健康・自己啓発ジプシーをしていた。2年くらい前に「こんなに一生懸命実践しているのに、なんで全然モテないしお金持ちにもならないのだろう?アホくさいからやめよう。」とストイックな生活に見切りをつけて、現実世界で享楽的に生きるようになったら人生が楽しくなった、という状況である。あの愛と光と成長、そして一時の高揚に満ちた蠱惑的な世界と、ヨレヨレで藁にもすがりたい自分ってなんだったんだろう?

この本は京都大学・大学院で心理学を学び、沖縄の精神科クリニックで心理療法を実践してきた臨床心理士の東畑さんが、沖縄で色んなヒーラーなどスピリチュアルな人、セラピスト(=近代医学の外側で活動している治療者たち。「野の医者」と命名)と出会い、施術を受け、自らもそれ系の資格を取得しながら、臨床心理学も含めて「心の治療」とは何なのか?ということを探っていくお話。怪しくもミラクルで心沸き立つあの世界を、科学の人、アカデミックの人はどう捉えるのか。

「スピ業界を分析してやろう」という人は、スノッブでスピをバカにする(超常現象を信じない大槻教授のように)人なんじゃないかと思いがちだが、東畑さんは全然違う。ミーハーで軽い。現実に傷つき、面白そうなセッションがあれば時めき、オーラソーマからマッサージ、レイキ、ユタ、チャクラの掃除を受け、デトックスのためか夜中にお腹を壊す。その未知なる世界へのトキメキ、新しい私への期待、私もよ〜く知っている。

でもやっぱり彼はアカデミックな人なので、じゃんじゃか謎のヒーリングを受けたりしながらも心酔したり、あっち側に行ったりすることなく、客観性をどこかで保ちながら、傷ついた者と「野の医者」の関係性は何か、「野の医者」とは何なのか、心を治療するということはどういうことか、といったことを順繰りに顕していく。冒険家が未知なるジャングルを探検して地図を作って明らかにしていくようなそのプロセスは読んでいて気持ちがいい。そして彼が出していくそれぞれの定義や考察、その体系化・言語化も見事で、自分の経験や知っていることを鑑みてとてもしっくりきた。

この本が対象とする「野の医者」なんて縁がない、胡散臭い、と感じる人もいると思う。でも、これは心理学、宗教、ビジネス自己啓発なども含む、生き方、イデオロギーに関わる話。傷ついたことのない人間なんてどこにもいない。生き方の指標がない人なんてどこにもいない。怪しい系キラキラ系に限らず、心に興味がある人に。

133 野の医者は笑う: 心の治療とは何か?


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