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分別管理義務(その2)

前稿の最後で触れましたが、分別管理義務の前提として、預けられた資産が顧客のものであることが必要です。

その資産が顧客のものでなく金融機関のものであるなら、どれだけ対象資産を特定しても、そもそも取戻権の行使が認められず、意味のないものになってしまうからです。

例えば、銀行が預金として取り扱う金銭は分別管理の対象になりません(金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針Ⅷ-2-7、末尾参考資料ご参照)。
銀行は、預金者ごとに口座を分けて記帳/管理しますが、これは、上記の意味での分別管理のためではありません。

銀行預金は消費寄託であると解されています。
消費寄託では目的物の所有権が寄託者から受寄者に移転するため、銀行に預けられた預金は預金者(寄託者)のものではなく銀行(受寄者)のものになります。
預金者のものでない以上、取戻権を行使して回収することができません。

銀行が倒産した場合、預金者は預金保険制度のもとで、1,000万円の限度でしか保護されませんよね。
これは、預金が取戻権の対象にならないことを前提としています。
だからこそ銀行倒産時に預金者を保護する必要があり、そのために設けられている制度です。

これに対し、証券会社が証券売買の取次ぎのために顧客から預託を受ける資産は分別管理の対象になります(金商法43条の2)。

証券売買の取次ぎを行う証券会社は商法上の問屋であると解されています。
この場合、委託者は、目的物の所有権を自己のもとに残しつつ、その処分権のみを問屋に与えたものと解されているため、証券会社に預けられた資産は依然として顧客(委託者)のものであると考えられます。

顧客のものであるため、取戻権の対象になります。
だからこそ、証券会社に分別管理義務を課して、特定性を維持する必要があるのです。

「金商法には証券会社の分別管理義務の定めがあるのに、銀行法には銀行の分別管理義務の定めがないのはどうしてでしょうか?」
という質問を受けたことがありますが、上記がその答えになります。


<参考資料>

金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針
Ⅷ-2-7 その他
(1)分別管理に係る留意事項
登録金融機関(預金取扱い登録金融機関に限る。)が有価証券関連業務に係る取引に伴って発生する顧客からの金銭の預託等を、当該登録金融機関の本来の業務である預金として取り扱う場合には、当該金銭は分別管理の対象とならないことに留意する。

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