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分別管理義務(その1)

分別管理義務は金融規制の基本概念の一つで、多くの方がご存知だと思います。

しかし、
「お客様の資産をお預かりするのだから、分別して管理するのは当然」
「分別して管理しているのだから、お客様の資産は保全されている」
など、ざっくりと把握していませんか?

実際のところ、分別管理義務と顧客の資産保全の関係は、そう単純ではありません。

それにもかかわらず、分別管理に紙面を割いている文献は少ないです。条文をなぞって説明しているだけのものがほとんどです。

以下、分別管理義務の実質的理解の概略を分かりやすく説明します。


まず、分別管理義務は業法規制ですが、顧客の資産保全が図れるかどうかは私法の問題です。

もちろん、顧客の資産保全のために分別管理義務が定められているわけですが、分別管理されているからといって顧客の資産保全が確保されるとは限りません。


顧客の資産保全という問題は、私法的に言えば、金融機関が倒産した場合でも顧客は預けた資産を取り戻せるか、ということです。

金融機関が倒産した場合、金融機関の資産は倒産財団を構成し、債権者は債権額の割合に応じた満足しか受けることができませんが、金融機関の資産でないものは倒産財団を構成せず、資産の所有者は当該資産をまるまる取り戻すことができます。

この取り戻す権利のことを取戻権といいます(破産法 62 条、民事再生法 52 条、会社更生法 64 条)。


ところで、取戻権を行使する前提として、対象となる資産が特定されている必要があります。

特定されていないと、どの資産の取戻しを認めるか定まらず、取戻権の行使ができなくなってしまうからです。


分別管理義務は、預けられた資産が顧客のものであることを前提として、金融機関倒産時に顧客の取戻権行使を可能とするための、特定性を担保するための制度といえます。


<参考資料>

金融取引における預かり資産を巡る法律問題研究会「顧客保護の観点からの預かり資産を巡る法制度のあり方」(日本銀行金融研究所/金融研究/2013.10)

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