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雪虫(ゆきむし)という奇妙な虫の話

雪虫という虫をご存じでしょうか。
雪虫は秋の終わりに空を舞う、白い雪のような小さな虫です。
この虫が飛ぶと、1,2週間後に雪が降ります。
そしてこれらには明確な理由があるのです。

1.雪虫にとは


本州ではあまりなじみのない虫ですが、北海道にお住まいの方は目にした方もいるのではないでしょうか。

気温が下がりいよいよ冬が始まるという時期になると、雪虫という小さな昆虫が大量発生し、空を舞います。
白い綿毛のような昆虫が、風に翻弄されながら一斉に空を舞う姿は、まるで雪が降っているように見える事に加え、雪虫が飛ぶと、そのしばらく後に雪が降る事から雪虫と呼ばれています。
井上靖の小説で「しろばんば」というのがありますが、「しろばんば」とは雪虫の俗称です。このように人々の生活に浸透した冬の風物詩的な虫でもあります。

この昆虫は正式には、トドノネオオワタムシ等の白線物質を分泌して棉を纏うアブラムシの一種です。ショウジョウバエのような見た目ですが、アブラムシの一種です。体が白い綿で覆われています。

この虫が飛ぶとやがて雪になるともいい伝えられている。東京では〈オオワタ〉とか〈シーラッコ〉と呼び,京都では〈白子屋お駒はん〉,大和その他で〈シロコババ〉,伊勢で〈オナツコジョロ〉,伊豆で〈シロバンバ〉,水戸で〈オユキコジョロ〉などの方言で呼ばれ,子どもたちがこの虫を追いかけて遊んだ。アブラムシ類の中でとくにワタアブラ亜科の仲間には白蠟物質を分泌する腺が多数あって,多く分泌されると体全体が白い綿で包まれたようになる種類の総称
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について

2.雪虫とアブラムシ

雪虫がアブラムシの一種という事で、既に皆さんピンと来ていると思いますが、羽の生えたアブラムシは相変異体のアブラムシです。
という事は、もちろんノーマルの雪虫も存在します。

まずアブラムシは、単性生殖と有性生殖をその時の環境によって選択する事が出来る生物です。
単性生殖を選択する時は、コロニーの拡大を最優先とする場合で、寄生している植物に対して、同種の個体数が少ない時に単性生殖にて急激に個体数を増やします。

あなたがベランダで育てているバジルが、2,3日見ない間にアブラムシまみれになっていたのは、アブラムシが単性生殖によって倍々ゲームで個体数を増やした結果です。

次に、寄生植物が枯れてしまうほど個体群密度が上昇すると(個体数が増える)と、別の規制母体となる植物への移動が必要になる為有性生殖に切り替えます。有性生殖を行う個体の出現自体も広義では相変異としてとらえられます。個体群密度の上昇という外部環境の変化がトリガーとなり、有性生殖と、羽が生えるタイプの相変異が起きます。

3.秋に起こる雪虫の変化


雪虫の場合、秋になって越冬するタイミングで羽をもつ成虫が生まれ、交尾して越冬のために産卵をします。成虫は冬を越せない為、卵の状態で冬を越して春に生まれてきます。そうです、クリプトビオシスです。
クリプトビオシスとは乾燥などの厳しい環境に対して、活動を停止する無代謝状態のことで、水分などが供給されると復活して活動を開始します。

雪虫が冬の直前に空を覆うほど舞う理由は、
越冬する為に卵を産む必要があるからです。卵を産むためには単性生殖から有性生殖に切り替える必要があり、有性生殖が可能な羽を持つ個体が交尾の為に一斉に飛び立つからなのです。

この事により、雪虫が冬の前にだけ飛んでいる理由がわかりました。

それでは次に、雪虫が飛んでしばらくすると雪が降るのは何故かについて考察していきます。

4.雪虫が飛ぶと雪が降るのはなぜか


雪虫は体調が数ミリ程度の小さな虫で、体を綿に覆われているので風が強いと空を飛ぶことが出来ません。では、冬の前に風が止む時期はいつなのかというと、移動性高気圧に覆われて風が弱くなったタイミングになります。
高気圧に覆われて風が弱くなった日に、雪虫は一斉に飛び立ちます。
というか、その日しか飛べません。
移動性高気圧なので移動して聞きます。高気圧が通り過ぎると気圧配置は西高東低の冬型に切り替わる為、気温が下がり雪が降ります。

5.雪虫のまとめ

雪虫というマイナーな虫が、

1.冬の前に卵を産んで卵で冬を越す(クリプトビオシス)
2.卵を産むために、単性生殖から有性生殖に切り替わるタイミングが秋
3.交尾する為に羽が生える(相変異)
4.雪虫が飛べるのは、高気圧に覆われた風の無い日だけ
5.高気圧が移動すると冬型の気圧配置になって雪が降る

これらの理由をもって、秋の寒い日に空に飛んでいる。
彼らは何となく飛んでいるのではない。

これらの事実から学ぶ事は非常に大きかった。
ありがとう雪虫。

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