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💮「正しさ」は時に人を傷つける刃にもなる 「正しさ」とどのように付き合っていったらいいか【BOOK・美女の正体/下村一善】

美女の正体
下村 一善
集英社文庫

◇私の母は完璧主義だ。
何でも完璧にこなすことができるひとだ。
そのために常に努力をできる人だ。

それは本当に凄いことだと、心から思っている。
「完璧」なことって凄く美しいから、誰もがそうありたいと願ったことはあると思う。
でも、そのための努力は大変だし面倒なこと。多くの人が怠け心に負けてしまったという経験をしたことがあるのではないだろうか。
それに負けない母のような人はやっぱり称えるべき存在だと思う。



完璧主義の母の言う言葉はいつだって「正しい」。ぐうの音も出ないピカピカの正論なのだ。

母が私に向けてはなった「正論」は、もちろん納得させられることも幾度となくあった。
でも、時にそれは私の心に深く傷をつける刃となったことも事実だ。


もちろん私も完璧に、正しく生きたと思っている。

部屋を片付けなかったり、
洗い終えた洗濯物を洗濯機の中に入れっぱなしにしたり、
お皿を洗わない上に水につけずに放っておくようなことは、
私にだって「正しくない」ということだとわかっている。


「正しくない」と分かっている。
わかってるけどできない自分。
「正しくあれ」という母の強い言葉。
いつでも「正しい」母の存在。


正直凄く辛かった。
母が「正しい」ゆえに、「正しくできない」自分を責めることしかできなかった。
自分が嫌いだった。
「正しくない」から。
「正しくできない」から。
じわじわと自分を肯定する力が奪われていった。



そして、ずっと自分を好きになるには「正しく」生きて、そういう日々をコツコツと積み重ねるしかないと思って生きてきた。

たしかにその手段は間違っていないけれど、「正しさ」にぐるぐる縛られているようで苦しくなってしまうこともあった。



そんな苦しい縛りを少し緩めてくれる考え方に出会ったのでここに残しておきたい。

“正論を振りかざす人は、その人の言葉で語っているのではなく、正論のパワーを借りているのです。
ただただ相手を威圧して、勝つために。優越感を得るために。
一見、弁が立って賢いように見えますが、実はそんなの、インテリジェンスじゃない。こざかしいだけです。“


ああ、「正しさ」って、「正論」って、時に「正解」にならないこともあるんだな、と私は思った。
衝撃的で、ふっと心が軽くなった。

そしてこんな言葉が続く。

“方便という言葉をご存じですか?
何かを達成したいのに、諸般の事情でそれが難しいとき、便宜的に使う手段のことを言います。
「仕方ないから、今はこうしておこうか」と思える心の余裕、とでも言いましょうか。
場を見てスルーする力、相手の顔を立ててあげられる器の大きさ、「どっちでもいいや」と身を引くセンス、結論を先送りにできる心の強さ、でもあります。
心の底から相手に屈服する必要はありません。その場だけ。相手の顔を立ててあげればいい。
それができる女の人は、強いです。時と場合によっては、どんなふうにも自分を変えられるくせに、いざというときにはきっちりと自分を持っている。
しなやかで、柔らかくて、したたかです。

正論を振りかざす女性より、方便を使える女性のほうが、美しいに決まっています。"

(『美女の正体』 15・正しさより「方便」を使う女性は魅力的 より)

正直私も、自分の予定が狂ってしまうことが苦手なところがある。
夜更かしとか、無駄話とか、飲みすぎとか、ダラダラとか。
そういうものに否定的なところがある。


やっぱりどこか母に似ているのかもしれない。

自分の気持ちに無理に蓋をする必要はないと思うけれど、でも、そういうことも、もう少し楽しめる自分になれたらいいな、と思った。
きっとそっちの方が、豊かな自分になれるだろうし、美しい。


「正しさ」を求めすぎているかもしれない、
自然とそういう見方をしているかもしれない、と改めて気づいた。


失敗や欠点や短所に対してとても否定的な自分がいる。
心の奥の方がそういうものを凄く恐れている。
自分自身の「正しくない」部分を許せていないから、周りの人の「正しくない」部分もどこか許せていない自分がいる。
それは、今まで「正しくない」私は母に否定されてきたからだと思う。
ゆっくり、ゆっくり、考え方を変えていこう。

「正しい」は見つけやすいかもしれないけれど、それは本当に見つけるべき「正解」であるとは限らない。
「正解」はもっともっとややこしくて、難しい。

「正しい」にがんじがらめになって、捕らわれて、慌ててそれが「正解」であると、押し付けないようにしたいと思う。

方便を使える人になろう。
「正しくない」も「正しい」もまるっと楽しめる、そんな人になろう。
そう、合言葉は「しなやかに。柔らかく。」












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