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👫どんな女の子もキュートにしちゃう素敵な魔法【BOOK 口説き文句は決めている/夏生さえり】

口説き文句は決めている
夏生さえり
kraken

◇去年のクリスマス。
私が食べたのはスーパーにここぞとばかりに山積みにされて売られていた二つ入りのチョコケーキ。
私はThe・大道なスーパーのチョコケーキが好きなのです。


サンタさんを心待ちにする少女も卒業してしまったし、恋人は残念ながらまだ見つからず。

だからその年のクリスマスはウキウキしちゃうような特別な日ではなかったけれど、
スーパーのチョコケーキが私にとっての小さな特別だったのだ。


私はスーパーのチョコレートケーキで、ちゃんと、しっかり、おっきな幸せを感じていた。

それなのに翌日のバイトでかっこいい先輩とお喋りしていた時のこと。
デパートのお洒落でお高いケーキを予約して彼女と一緒に食べたのだと教えてくれた先輩の話をきいていたら急に恥ずかしくなってしまって、
私はこんなことを言っていた。

「貧乏舌で味の分からない安上がりな女なんですよね~」
なんてへらへらと。

でも、情けないへらへら顔とは裏腹に、
特別をくれたスーパーのチョコケーキのことも、
そのケーキを食べて心からハッピーになれたあのときの自分のことも、
その言葉で裏切ってしまったような、大切にできなかったような、心の奥はそんな罪悪感ではちきれそうだった。
でも、代わりになるような優しくて上手な言葉は見つけられなかった。



そんなことすかっり忘れていたのに、先輩とのおしゃべりがピカっと蘇ってきたことがあった。
夏生さえりさんの「口説き文句は決めている」を読み始めた時だった。

私の目にある一文がドカンととびこんできた。


「何を食べてもおいしいと思える幸せの舌の持ち主」


もう本当に思わず、うひゃーと言ってしまった。
なんてことない一文かもしれないけど、凄く嬉しくて、ちょっぴり泣きそうだった。

この一文で「貧乏舌で味の分からない安上がりな女」は「幸せを大儲けできるハッピーガール」に変身してしまったのだ。


さえりさんはどんな女の子のことも魅力あふれる愛らしい女の子にしてしまうとんでもない素敵な魔法を持っていると思う。

貧乏舌でも、だらしなくても、不器用でも、全部全部まるっとまとめて肯定してくれる。

「なにをそんなに蔑んでるの?どんなあなただってキュートなのよ」ってふんわりと言ってくれているような。
さえりさんの言葉の魔法にかけられたなら、どんな女の子だってとってもキュートな女の子に早変わり。


私もさえりさんのように、かっこわるくて情けない自分へ魔法をかけてあげられる人でありたい。

言葉は呪いにもなり、魔法にもなるのです。

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