君の言い訳最高の芸術
最果タヒ
河出文庫

◇「悪口」が凄く怖い。
本当に何よりも苦手なのです。

どうしてこれほどまでに過剰に反応して苦しくなってしまうのか。
そうして、どのように考え、付き合ったら折り合っていけるのか。
そんなことをずっと悩み、考え、調べてきました。

これは私の一生のテーマだと思っているくらい、まだまだ完璧に納得できるものではないのだけれど、今の私の思いのたけをここに残しておきたいと思います。

「悪口」それは大抵、凄く盛り上がる話題となる。

でも、それで盛り上がる人たちの表情はゾッとしてしまうほどに恐ろしい。
そして、別の日、さんざん悪口を言っていた人となに食わない顔で楽しそうにお喋りしている所を見て、私はもう一度ゾッとしてしまう。

それぞれ二つの表情があまりにも違いすぎて、
どっちが本当なの？と困惑してしまう。


きっとどちらも本当。
それは分かっているのだけれど、情けなく、悲しくなって落ち込んでしまう。

笑いあってお喋りしているときにも、いつか悪口になる材料を探しているの？なんて考えてしまうのだ。

私にとっては大切で大好きな人の悪口で盛り上がって、
その中に加わって何も言えなかった無力な自分が情けなくて、
一人泣いた夜も何度も何度もあった。

「偽善」かもしれない。

実際そんなことを言われたこともあった。

でも、流れ出して止まらなかった涙の意味を、私自身だけでも信じていたい。
涙が止まらないほどに、「悪口」は私を傷つける。

最近、「悪口」を言うことで日々のストレスを発散する人が一定数いるということを知った。

私は聞くことで苦しくなるけれど、
彼らは言わないと苦しくなってしまう。

そう考えたら、「悪口なんて言わないで」と簡単には言えない。
それは自分の物差しを押し付けているということだから。
苦しいのは、つらいから。

私の固まりがちな思考に沢山の刺激を与えてくれた最果タヒさんのエッセイにこんな文がありました。

“暇つぶしのためにひねり出した悪意、本心でもなんでもない、2秒で忘れてしまうような悪意には、その人の人間性すら宿っていない。歩いている蟻を指先ではじいて時間をやり過ごしているだけの、それだけの感覚。ただの惰性だ。"

(「きみが友達との楽しい時間のために、ひねり出した悪意について。」より)

私と同じように「悪口」に頭を悩ませている人はぜひ全文読んでもらいたいのですが、
私はこの文を読んでハッとしました。

私は、人が言った言葉全部にその人の人間性が宿っていると思っていたかもしれないな、
全部に意味や価値を見出そうとしてしまう癖があるのかもしれないな、と。

“暇つぶしのためにひねり出した悪意、本心でもなんでもない、2秒で忘れてしまうような悪意”も、
それはそれでなんだか不気味だけど、私が思っている以上にそこに意味はないのかもしれない、と気づいたのです。

立ち止まって、振り返って、拾い上げて、見つめる。
私の癖は、時に自分を必要以上に苦しめてしまっていたのかもしれません。

「悪口」のない世界が、私の理想なのだけど、やっぱりそれは現実的ではないから。

反論は無理にしなくてもいいから、絶対に場の空気に流されて思ってもないことに肯定しないこと。
できるのならば静かにその場を離れること。
それ以上に盛り上がれる楽しい話題を常に意識して集めておくこと。
第三者からの情報は丸のみにせず、自分がきちんと関わって、どう感じたかということだけを信じること。

この四つは折り合いをつけて生きていくために、自分を守るために、作った自分ルールです。