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「差別」との戦い方

私が新卒として働き始めた会社では当時、「在日韓国人である」という事を、しょっちゅうからかわれた。飲みの席では国籍をネタにした自虐的なギャグを求められたし、仕事で失敗すれば「仕事ができないのは韓国人だからなのか?」などと言われたりもした。(入社してまだ数ヶ月、という時期の話だ)

若い会社だった。体育会系の会社だった。国籍に限らず、デブだのハゲだの、他者の心の柔らかいところにまで踏み込んで笑うような、そんな「空気」のある会社だった。それを嫌がる私は、社内では「空気を読めないヤツ」だと受け止められていた。

ある日、飲み会の帰りに一緒になった先輩が、低い声でこう漏らした。

「すまんな、あいつらを止めてやれなくて。俺はああいうノリは嫌いだ。デリカシーが無いと思う。君も色々と、思う事があるだろう。本当はその場で一言言ってやれればよかったが、できなかった。とても申し訳ない気持ちでいるんだ。」

・・・思い返してみれば、誰かから「何もできなくてごめん」と言われた経験は多々ある。おそらく私が「在日韓国人」で、差別問題の「当事者」だからだろう。「同じ日本人として申し訳ない」みたいな言葉をもらった回数も、ずいぶんと多い。

でもね、謝罪なんて求めちゃいないんだ。むしろ感謝している。そう伝えてくれただけ、「わかってくれる人がいる」と教えてくれただけでも、ずいぶんと力づけられた。

ーーーあなたは無力じゃない。それだけはハッキリ伝えたい。

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「差別と戦う」って、どういう事なんだろう。

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ここ数年で、日本での差別問題をとりまく環境はずいぶん変わった。

「韓国人を殺せ」と掲げる団体が街を歩き、「嫌韓」本の売上も上がって、書店の棚を埋めるほどになった。いまや差別の問題は、誰の目にも見える『社会問題』だ。そんな中、「目の前で起こった差別問題にどういう対応をするか?」という問いは、これまで「差別問題はネット上の"他人事"」だと思っていたような人にも、現実的に響いてくる。

「差別との戦い」は、もはや"他人事"ではなくなった。


私に「すまん」と言った先輩は、どうするべきだったのだろう。

彼の言葉通りに、「その場で、上司の発言に抗議すべきだった」のか。
それだけが、「差別と戦う方法」なんだろうか。
ーーー実は私は、そうは思わない。

もちろん、それができたらどんなに素晴らしいだろうとは思う。でも、目の前の差別に対峙するだけが方法ではない。前線に出なくても、後方支援でも物資補給でも、それぞれの「戦い方」があるはずだ。

【前線の戦い方】差別に真っ向対峙。「空気」に流されずに行動する。
(1)直接攻撃: 真っ向から抗議を行う。強力な攻撃方法だが、場の空気を壊す事になる為、心理的なハードルがとても高い。
(2)間接攻撃: たしなめるような一言を投下し、場をしずめ、方向修正をする。空気を壊さずに効果を出すには高度なテクニックが必要になる為、難易度はやはり高い。
【後方支援の戦い方】自らの存在と理解を示し、前線を支える。
「空気」に流されずに疑問を持ち、理解者の存在を目に見える形で示す。「味方」がいる、という事実は前線に力を与え、背中を支える。その意思表示が当事者にもたらす安堵感は、「後方支援」本人が思っているより、ずっとずっと強い。
【物資補給の戦い方】問題に理解と関心を持ち、戦いの「土台」を作る。
差別をなくす為には、「差別はいけない事だ」という当然の認識を、社会が共有できていなければならない。問題への理解と関心を持って、差別へ「NO」と言える姿勢を育む事は、差別と戦う為の大きな一歩になる。


差別問題は、ひとりでは戦えない。

「当事者」だけで、差別を無くせるわけじゃない。心強い「前線」と手を取り合い、「後方支援」の存在を背中に感じ、「物資補給」が届く事を信じられなかったなら、差別と戦うなんて不可能だ。誰もがみんな「自分は無力だ」と言うけれど、そんな事は無い。とても心強く、頼りにしている。

私は、私やあなたやあなたの大切な人の子供たちに、少しでも多くの笑顔がある事と、その笑顔が理不尽な理由で曇らされる事の無い、そんな将来を望んでいる。そう願う事に、国籍なんか関係無い。

もし理想を共にできる人がいて、一緒に協力して目指していけるなら。

―――こんなにも嬉しい事は無い。

※このブログは投げ銭形式で運営されています。
※画像は漫画「うしおととら」より引用(藤田和日郎/小学館)
※Twitterはこちらです。 → @kyonghagi

《追伸》先日の日曜日、私の母校の朝鮮学校近くで嫌がらせの為の街宣があり、街宣をはるかに超える人々が「対抗」に集まってくださったという話を聞きました。後輩達の気持ちを想像すると、どんなに心強かっただろうと思います。この場で御礼申し上げます。

東京朝鮮中高校近くで「嫌韓」右翼と「差別反対」市民が激しい舌戦 - Yahoo!ニュース

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