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第28回折紙探偵団コンベンション人気投票講評

今年は4年ぶりに折紙探偵団コンベンションがオフライン開催となり、普段の半分の規模での開催にもかかわらず、大変な盛り上がりを見せた。

それに伴い、久しぶりに恒例の創作折り紙コンテストが開催された。長いことコンテストのような腕を競う機会がなかったこともあり、参加者から普段以上の熱量を感じたので、今回勝手ながら講評記事を書いてみようと思った次第である。

なお、私は創作に関しては素人もいいところのただの折り紙愛好家である。この記事はあくまで、ここ10年の創作折り紙の動向をつぶさに追い続けているオタク野郎の一意見として読んでいただきたい。


今回のコンテストについて

テーマ:人物/干支「辰」

詳細は以下のリンクからどうぞ。

今回、今までのコンテストと大きく違う点は「コンテスト」ではなく「人気投票」になった点である。

以前の創作折り紙コンテストでは、参加者の投票の他に学会評議員が持つ票があり、折り紙の専門家とも言える方々の視点も結果に反映されていた。それが今回から参加者からの純粋な人気投票となったわけである。

この変更は、所謂「目立つ」作品、人気取りに走った作品が票を集めることにならないかと少し懸念があったのだが、結果を見る限りそんなことはなさそうに感じた。コンベンションの参加者の目は相応に肥えている。評価されるの怖いな〜と思った。

出展作品

出展作品については、以下の柏村さんのツイートからリプを追って順に閲覧できるので、まずはじっくりと見ていただきたい。


優勝作品

人物:『牛若丸』(山本大雅)

干支「辰」:『勇者まだぁ?』(間瀬英一郎)

ちなみに、どちらも私が投票した作品だった。結果には大変満足している。


創作折り紙のトレンド

今回の人気投票の結果は、ここ数年の創作折り紙の傾向を如実に表しているように思う。私の考える最近の折り紙のトレンドは、以下のようなものである。

  • シルエットの重視

  • 「カド」から「面」の表現への移行

  • 不切正方形一枚折りからの脱却

これらの要素を軸に、コンテスト作品以外も含め、気になった点について思う存分語っていきたい。


シルエットの重視

私はここ数年折り紙から少し距離を置いており、今回久しぶりに多くの折り紙作品を目にする機会を得たのだが、以前はあまり意識していなかった「気付き」が数多くあった。特に感じたのは、折り紙作品の「シルエット」の重要性である。

創作折り紙作品、特にコンプレックス系と呼ばれるものは、その特性からどうしても「複雑さ」「緻密さ」を重視されがちである。もちろんそれらは超複雑系折り紙の魅力かつ醍醐味ではあるのだが、それによって作品全体のシルエットが損なわれることが往々にしてあるものである。

例えば、人気の題材である「クワガタムシ」を、蛇腹を用いて写実的な造形で折ったとする。昆虫の創作においては、多くの創作初学者は脚や大アゴの細部まで折り込むことに注力しがちである。しかし、脚が伸び切っていたり、大アゴの形が悪かったり、仕上げが不十分でヒダの歪みが見えたりして、全体としての輪郭が本物とはかけ離れたものになっている例がしばしば見られる。

写実的な作品の場合、全体の造形バランスの崩れは、緻密に作られた作品ほど目立つようになる。こういうタイプの作品は、作家のデッサン力が問われるものだと常々思っている。

好例として、今回の一般展示の作品をいくつか紹介する。

今回コンテストにも両テーマで参加していた川上氏の作品。デフォルメありきの作品が多い魚という題材で、リアルに振り切った作品をいくつか制作している。

側面だけでなく、上から見たシルエットも忠実に再現されているところにこだわりが見てとれる。私自身も昔ピラルクーを上から見た姿を表現しようとしたことがあるが、意外と難しいんだこれが。


こちらはコンテスト殿堂入り作家にして幻の折り紙作家、豊村氏の参考作品。凄まじい解像度の造形でありながら、全体の等身や骨格に全く違和感がない。やっぱりおかしいよこの人。


さて、一方でデフォルメ系の作品のシルエットは、どのようなものを目指すべきなのだろうか?私としては、こればかりは「センス」と言わざるを得ないのではないか、と思っている。

今回の優勝作品はいずれも、アプローチは異なるがデフォルメの入った作風である(牛若丸は角度系の造形にあてはめたもの、ドラゴンはキャラクター性を持たせるためのもの)。その上で、牛若丸は骨格的な違和感のない造形かつスタイリッシュな仕上がりに、ドラゴンはでっぷりとした体格とふてぶてしさが鑑賞者に伝わるようなポーズと造形を実現している。

干支部門に参加していた満田氏も、独自のデフォルメセンスが光る作家の一人である。ツノや爪などの複雑になりやすい要素を盛り込みつつ、折り紙らしい造形としてバランス良く仕上げるのは、やはり個人の美的感覚によるところが多いのではないだろうか。


「カド」から「面」の表現へ

折り紙の創作、こと複雑系の折り紙における基本は「題材に必要な数のカドを作る」ことである。例えば犬を折るなら「頭・脚・尻尾」の6つの大きなカドを作り、さらに頭のカドから耳などを作るための小さなカドを折り出していく。

必要なカドの数は、題材が複雑になるほど増えていく。昆虫の脚のように、カドに長さが求められるものも多い。そのような多数のカドを作るのに適しているのが所謂「蛇腹」と呼ばれる技法である。複雑な人物作品や昆虫作品の多くが、高密度の蛇腹を用いているのは周知の通りである。

しかし、単純な縦横と45度の折り線だけで作られた蛇腹作品には、カドをたくさん出すのに躍起になり、立体作品に欠かせない「面」を折り出すことを重要視していない作品が多々見られる。細長いヒダの集まりだけでは、どうしても各パーツの立体感を生み出すのが難しく、彫刻のような立体作品としての鑑賞に耐えるものが少ない。(ヒダの重なり・広がりを利用した立体造形はこの限りではないが)

多角形の面を折り出すのに長けているのは22.5度系などの「角度系」と呼ばれるタイプである。現在は様々な技法によって蛇腹作品であっても多彩な面の表現が可能になっており、美しい「面」こそが近年の作品の評価の軸になっているような気がする。

すなわち、作品を「カドの集まり」として見るのではなく、「面の集まり」として見る視点である。題材を多角形の集まりとして捉える創作法は、川畑文昭氏が似たようなことをどこかの本で書かれていた気がする。超複雑系の時代を経て、一周回ってきたということだろうか。

私は東京オリンピックを見ていた時に、この表現方法はピクトグラムに近いのではないかと考えていた。

人物を表現するのに、複雑な表現をせずとも、シンプルな図形の組み合わせの方が伝わりやすいものである。これを見た上で、今回の優勝作品の「牛若丸」を見てみると、デフォルメと面表現の巧みさがよく分かるはずだ。


不切正方形一枚折りからの脱却

今回のコンテスト作品全体を通して特に気になったのが、「不切正方形一枚折り」の少なさである。一昔前までは「折り紙といえば不切正方形一枚」みたいな潮流があった気がするが、今回は多くの人が仕上がりの完成度に意識を向けた結果、長方形用紙や複合、ジオラマ等を用いていた印象である。

最終的な造形を重視して、そこから逆算した手段を選択をするという発想は少し前から一部で提唱されていたが、ここに来て時代が追いついた感じがする。しかし、鑑賞者がそれを必要な「選択」と判断するか、単なる「妥協」と断ずるかは、未だに悩ましいところである。


その他気になったこと

・折り紙の「目」の表現は議論が分かれるところである。人物と龍、どちらも目に特徴のある作品がいくつかあった。作家談義では幾野氏の作品群の目の表現が話題に上がっていたりと、昔から今も付きまとうテーマなんだなあと思った。

・龍の頭という題材・サイズ感まで丸被りの作品が二つあったので、票が割れてしまっただろうな〜と思う(豊村氏の参考作品も龍頭だった)。発想が被りがちなテーマで、間瀬氏のアイデアの力と個性は強い武器だと思った。

人物部門の方でも、対照的なアプローチの立像が二つ並んでいて、山本氏は少し不安そうにしていた。

・このコンテストの常として、紙の選択・仕上げの丁寧さの点で勿体ないなあと思う作品が毎回ある。坂下氏の作品とかは(サイズ制限に引っかかりそうだけど)より大きく量感の出る紙で、迫力ある仕上げにすればかなり格好よくなりそう。

・末岡氏はここ最近非常に気になっていた作家の一人であった。作品の構造的な面白さもさることながら、作品の完成度はデッサン力・造形力がものを言うということを改めて思い知らされる。

・こういう展示では目立つために作品のサイズも大事で、制限ギリギリの大きさで作っている作品が多かった。一方で、15cmの折り紙用紙で作ったこじんまりしたものを「折り紙」として認識している節のある日本人にとって、それからあまりに乖離した作品は一般的な「折り紙」としての目線を向けられないのではないか、との危惧もある。芸術作品としての折り紙が抱えるジレンマかもしれない。


最後に

やっぱりコンテストは作家の本気が見られて楽しい。もっとやってほしい。オタク臭いことを好き勝手喋らせてほしい。各方面の皆様よろしくお願いします。

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