杉田協士

1977年、東京生まれ。映画監督。

杉田協士

1977年、東京生まれ。映画監督。

マガジン

  • 春原さんのうた

  • 『ひかりの歌』公開記念 往復書簡

    映画『ひかりの歌』の公開を記念した、宮崎大祐監督(『大和(カリフォルニア)』と杉田協士監督による往復書簡。 ひかりの歌 公式サイト http://hikarinouta.jp

  • ちば映画祭

    第8回、第9回のちば映画祭をめぐる記事

  • ベトナム 南から北へ

    バイクを撮影した

  • 全州国際映画祭

    第19回全州国際映画祭の滞在記録

最近の記事

『眠る虫』と『スパイの妻』のこと

妻が見に行くといいよと言ってくれた。いつもより2時間くらい早く夕飯と風呂を済ませて東中野に向かった。普段なら駆けつけられない時間帯に上映されていた金子由里奈さんの監督作『眠る虫』。 いつでも長ネギをショルダーバックに入れて私もバスに乗りたい。でもそれは叶わない。できるけれど選べない。だから自分は映画を作っているのだと思った。主人公も知らない時間がずっとそこには流れていた。誰が主人公でもない。ただそこにあった時間。映画は記録すること。リュミエール兄弟の「工場の出口」は記録した

    • 春原さんのうた つづき

      映画『春原さんのうた』はラストシーンから撮影することになった。2020年3月23日の月曜日にそのシーンを撮り終えたところで、それ以降のスケジュールの延期を決めた。延期と言いながら心のなかでは中止かもしれないと思っていた。映画のメインの舞台となる施設からの撮影許可が一旦保留になり、その「一旦」がもしかしたら数年に及ぶだろうと予感していた。自粛生活の忙しさのなかで少しずつ気持ちの整理をつけはじめていた。 「さて、東京のアパートなんですが、やはり引払う方向で考えています。とは言っ

      • 春原さんのうた

        歌人の東直子さんと散歩をしました。東さんが短歌をはじめたころに住んでいた街。歌集『春原さんのリコーダー』、『青卵』に収載されている短歌は、そのころに詠まれたものだと教えてくれました。ここが住んでたマンション、ここの6階、1、2、3、4、5、6、あそこですね、あそこのあちら側、ここが娘が落ちた池、あれ、なくなっちゃったかな、いやこれですね、ここで娘が野生の栗を拾ってました、もっとうっそうとした雑木林で、ここならだいじょうぶだろうと花火してたら怒られたんです、「やめろー」って聞こ

        • 遠くで

          ツイッターを眺めていたら、芸人コンビの阿佐ヶ谷姉妹のインタビュー記事を見つけた。質問も、ふたりの言葉も、途中に入る写真も、そのキャプションもおもしろくて、最後まで読んだ。取材と文はライターの生湯葉シホさんという方だった。プロフィールを見たりしているうちに、気づいた。生湯葉さんの短歌を私は知っていた。 昨年公開された映画『ひかりの歌』は、2015年に開催した「光の短歌コンテスト」をきっかけとして生まれた。このコンテストの選者は歌人の枡野浩一さんと私、そして4人の俳優。光をテ

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        • 春原さんのうた
          2本
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        記事

          ひとつの歌

          『ひとつの歌』がちば映画祭の企画としてアテネ・フランセ文化センターで上映される。 この作品の撮影は飯岡幸子さん、音響は黄永昌さん、編集は大川景子さん。3人とも『ひかりの歌』を一緒に作ったメンバーでもある。撮影したのは2010年の夏で、そのころはお互いによく知らない同士だった。黄さんはその数年前に『河の恋人』も一緒に作ったけれど、そのときは人の紹介で知り合って、寡黙で無駄なことを話さない人だから、何を考えてるのかいつも想像しながら隣にいた。ちゃんと会うのはそれ以来だった。 こち

          ひとつの歌

          『ひかりの歌』札幌上映記念 映画ワークショップ+『カモメ』上映

          『ひかりの歌』の札幌での再上映を記念しまして、第3章の撮影場所でもあるマッキナフォト・菊水スタジオにて、iPhoneを使用した映画ワークショップを行います。iPhoneをお持ちでない方でもご参加いただけます。ひとり1本ずつ、映画のワンシーンを撮影して、全員で鑑賞してお話しするという内容です。同時に、10年前のマッキナフォトでのワークショップから生まれた短編映画『カモメ』の上映も行います。 日時:2019年9月8日(日)10:30〜16:30 会場:マッキナフォト・菊水スタ

          『ひかりの歌』札幌上映記念 映画ワークショップ+『カモメ』上映

          『TOURISM』 『ひかりの歌』公開記念 往復書簡6(杉田協士→宮崎大祐)

          宮崎さん、こんにちは。 『TOURISM』公開おめでとうございます。 最後に宮崎さんからいただいた手紙の日付は昨年の12月12日で、半年以上が経ちました。この往復書簡をはじめるにあたって、私の方から宮崎さんに、新作である『TOURISM』のスクリーナーをお借りしたいとお伝えしたのに、いざ自宅のモニター前に座ると、再生をクリックすることができませんでした。この作品にはスクリーンで出会いたいという気持ちが勝ってしまったのです。それをいまお伝えすることを、どうかお許しください。

          『TOURISM』 『ひかりの歌』公開記念 往復書簡6(杉田協士→宮崎大祐)

          みなみあさがや映画ワークショップ+

          2019年5月に「みなみあさがや映画ワークショップ+」を開催します。 日程 5月中の毎週火・水・金曜日(5月8日の水曜日スタート) 5/8(水)、10(金)、14(火)、15(水)、17(金)、21(火)、22(水)、24(金)、28(火)、29(水)、31(金) 時間 毎回11:00~15:00 会場 枡野書店(東京都杉並区成田東5-35-7 丸ノ内線「南阿佐ヶ谷駅」より徒歩3分) 講師 杉田協士(映画監督) 参加費 3,000円 予約 不要 持ちもの 身分

          みなみあさがや映画ワークショップ+

          第10回ちば映画祭上映作品 席のむこう

          神奈川県立相模原青陵高校が映画の授業をできる非常勤講師を探してると電話をくれたのは、こども映画教室の土肥悦子さん。そのとき聞いた報酬の額が、本当はひと月分だったのに、1日分だと勘違いをして、それに気づいたのは校長室で校長先生とお話しをしてるときだった。7年間、それが私の気持ちを楽にしてくれた。いつ解雇されてもだいじょうぶ、だから好きなようにやろうと思った。 メディアアーツという名前の授業で、毎回、ひとりの先生が一緒にいてくれる。最初は阪神タイガースの熱烈なファンで、応援団の

          第10回ちば映画祭上映作品 席のむこう

          『ひかりの歌』公開記念 往復書簡5(宮崎大祐)

          こんばんは。 昨夜は渋谷までSabaというシカゴのラッパーを見に行ってきました。 奇しくも会場は僕が一番好きな映画であげようと思っていた『ポーラX』を二十年ほど前に見たシネマライズの跡地でした。 ここまでのセゾン文化云々というやりとりを経てのライズでもあり、一区切りを予感していたところです。 いやーしかし昨夜のライブは本当に良かった。 ラッパーだからといって着飾って喧嘩やら麻薬やら拳銃の話をしなくてもいいんだ、ただただ良い音楽を作ればそれで良いんだ、だってミュージシャンなんだ

          『ひかりの歌』公開記念 往復書簡5(宮崎大祐)

          『ひかりの歌』公開記念 往復書簡4(杉田協士)

          宮崎大祐さま 宮崎さんから届いた手紙がとてもおもしろくて、読みながら声を出して笑っていました。宮崎さんが反抗の火柱として燃え上がっていく過程が、どうしてこんなにたのしく読めてしまうのかを考えていました。書いている宮崎さんが歳を重ねてすこし弱ってきて、そのことを受け入れているからでしょうか。映画をつづけるのが、意地と食い扶持のためだと言いきる宮崎さんが書く言葉だからこそ、私には響くのかもしれません。 『ひかりの歌』の撮影は主に3人で進めていました。撮影の飯岡幸子さんと音響の

          『ひかりの歌』公開記念 往復書簡4(杉田協士)

          『ひかりの歌』公開記念 往復書簡3(宮崎大祐)

          杉田様、 おはようございます。 この手紙を僕が書いているのは早朝なのですが、メールを送信した時間で言えばこんばんは、杉田さんがメールを開く時間でいうとこんにちは、かもしれません。 ともあれ、ここしばらく狭い自室にこもって朝から晩まで様々な文章を並行して書いていたので、いささか混乱しており、返信が遅れて申し訳ございません。 杉田さんが映画を撮り続ける理由にはこういったささやかな生活や現実体験があるのですね。 日常の中からそういった淡く美しい瞬間をすくい出せる眼と記憶にとどめ

          『ひかりの歌』公開記念 往復書簡3(宮崎大祐)

          『ひかりの歌』公開記念 往復書簡2(杉田協士)

          宮崎大祐さま こんにちは。 今朝からとても寒くなりました。ガスストーブを出して、部屋をあたためています。ここ数日、夜遅い時間に航空機やヘリコプターが低空で飛ぶ音が響くようになって、宮崎さんの『大和(カリフォルニア)』を思っています。 先週届いた手紙を読みながら、この1週間は、自分と映画のことをふりかえる日々でした。映画への思いのようなものを言葉として生み出そうとすると、本当かしらと疑念ばかりがわいて、パソコンの白い画面を眺めるだけの時間がつづきます。 手紙の返事を考え

          『ひかりの歌』公開記念 往復書簡2(杉田協士)

          『ひかりの歌』公開記念 往復書簡1(宮崎大祐)

          杉田様、 こんにちは。 往復書簡、自分から言い出しておきながらおそくなってすみません。 いまだにどうしてこんなことを言い出したのか自分でもわからないままなのですが、おそらく2018年という平成最後の、映画なるものがほぼ死に絶えかけている時代に自分がどんなことを考え、生きていたかという記録が残したかったのだと思います。 直感的に。 ともあれ、そんなきっかけを与えてくれたのが杉田さんの『ひかりの歌』でした。 『ひかりの歌』には近年僕が見てきた日本のインディーズ映画とは少し違う手

          『ひかりの歌』公開記念 往復書簡1(宮崎大祐)

          第19回全州国際映画祭 パンさん

          5月4日(金) すこし寝坊。ホテル2階のビュッフェへ。愛枝さんと勝さんにSNSを使って連絡。ふたりの方が起きるのが遅かったらしい。あとで聞いたら、前夜の解散後に、『僕の帰る場所』チーム、『サイモン&タダタカシ』の小田学さんたちと、ホテル前の店でさらに遅くまで飲んでたとのこと。勝さんは、ビビンバ発祥の地の全州で、いちばんおいしいビビンバを食べてみたいと言ってて、お昼に愛枝さんと3人で行く約束をする。やっぱり地元出身のボランティアスタッフの人に訊いておいてくれるとのこと。私は、

          第19回全州国際映画祭 パンさん

          第19回全州国際映画祭 オープニング

          5月3日(木) ホテルは1泊朝食付きでおよそ15,000円。映画祭が出してくれてる。あたらしくできたホテルで、前回までのゲストの宿泊先とは変わったらしい。10階の部屋。広い。バスルームでは、トイレの水を流すボタンがどれかわからず、まちがえてウォッシュレットを作動させるのがこわくて、しばらく並んだマークを眺めた。両サイドが愛枝さんと勝さんの部屋。先に寝てたふたりの部屋から、深夜にテレビの音がかすかに聞こえはじめる。ツイッターを開いたら、韓国リーグの野球中継を見てると愛枝さんが

          第19回全州国際映画祭 オープニング