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ひかりの歌 2

10年ぶりくらいにたまたま会った指輪ホテル主宰の羊屋白玉さんが、ツアー公演のドキュメンタリーを作らないかとその場で誘ってくれてた。

なにからはじめていいかわからなくて、ひとまず稽古場の森下スタジオにたずねていった。2009年にイギリスで初演が行われたらしい、その『洪水』という作品の出演者は、白玉さんと長身のモヒカンの人だった。視界に入ってすぐにうつくしい人だと思った。赤と青のギンガムチェックの襟シャツにデニムパンツ、細身で足が長くてモヒカン。

白玉さんはアコーディオン、モヒカンの人はチェロを弾きはじめた。しばらくスタジオの隅で眺めてた。カメラをセットして録画ボタンを押したらはじまる気がした。押したらちょうどスタジオの扉が開いて、小ぶりのホールケーキが運ばれてきた。ロウソクに火がついてて、ハッピーバースデーの声。ハッピバースデー スカンクー。モヒカンの人はスカンクという名前で、サプライズケーキへのリアクションがこどもみたいだとみんなから笑われてた。完成したドキュメンタリーの冒頭はそこからはじまる。

ツアーの最初は別府で、泊まったホテルはスカンクさんと相部屋だった。まだ初対面に近かったスカンクさんは、やさしくて、気のおけない人だった。博多に移動したあとの休みの日に、古墳を見にいくというのでついていった。電車に乗って、歩いて、小さな山を登った。「古墳にコーフン協会」という集団があることなど、おしえてくれた。途中ですれちがったおじさんがミカンをくれた。大きいけどこじんまりとした石を見つけて、スカンクさんはうれしそうだった。そのあとも漁港を散歩して、とんこつラーメンを食べて博多に戻った。その夜は指輪ホテルが所属してる制作会社のパーティーがあって、並んだ料理をつまんだ。その途中、スカンクさんに誘われてとんこつラーメンを食べにいった。どうやったらその体型を維持できるんですかとたずねたら、おれはぜったいに太らないって決めてるの、と教えてくれた。決めてればだいじょうぶ。

『ひかりの歌』の元になった光の短歌コンテストの選者、枡野浩一さんと私が共著で出した『歌 ロングロングショートソングロング』(雷鳥社)に、そのツアーの合間に撮った写真がたくさん載ってる。とんこつラーメン店も写ってる。

新潟の上郷にある体育館で、深夜、スカンクさんがチェロを弾いて、離れたところから撮影してた時間、古墳を歩いた時間、ゾンビのスカンク姿のスカンクさんがギターを弾きながらサンパウロの街を歩いてた時間、スカンクさんが作ったカレーを食べてる時間。私のしあわせはその時間。カレーは、チキンを使ってるけど名前は「スカンクカレー」で、モヒカンをイメージして獅子唐が頭にのってる。西荻窪のle matin(ルマタン)というワインバーで毎週火曜日に食べられる。


第30回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ部門」正式出品

ひかりの歌』(音楽 スカンク/SKANK)

2017年10月26日(木)、31日(火)

TOHOシネマズ六本木ヒルズ・スクリーン1にて上映

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