見出し画像

第8回ちば映画祭上映作品 カモメ

『ひとつの歌』という長編映画を作るときに、普段からカメラを持ち歩く青年を主人公にして脚本を書くことになった。写真のことを詳しく知らなかったから、まずは自分が一眼レフカメラを持ち歩いた。ひと月に500枚くらい撮っていた。たまった写真がもったいない気がして、目についたコンテストに応募したら、写真集に見開きで掲載された。

Camera People みんなのまち

このコンテストを主催した方から連絡があって、写真展をやらないかと誘われた。展示の準備をしているときに、札幌の写真店の店長から電話があって、その写真展を札幌でもやらないかと誘われた。聞けば、予算はないから、いまの展示が終わったら写真だけ郵送してもらって、責任を持って飾り付けるとのことだった。札幌には行ったことがなくて、写真だけが行くのはさみしい気がして、自分も行くことにした。やっぱりお金はないから、店長に相談して、その写真店で映画のワークショップをやらせてもらい、その参加費を旅費に当てることにした。

ワークショップはたくさんの人で賑わった。店長に言われてしょうがないから来た、といった顔をしている人たちもいた。1日かけて、家庭用のビデオカメラで、全員がワンシーンの映画を撮った。終わったあとも遅くまでお酒を飲んだ。次の日は、ひとりで北海道観光をしようと思っていたけれど、参加者の人たちが車で案内してくれることになった。観光に付き合ってくれたのは、最初に不機嫌そうな顔をした人たちだった。どこに行きたいかを聞かれて、特に何も決めてなかったので、夕張に行ってみたいと伝えた。豪雪で通行止めに遭いながらも、映画祭を開催しているわけでもない静かな夕張にたどり着いた。東京に帰るときは、やっぱり参加者の人たちが空港まで車で送ってくれた。豪雪で欠航になった。札幌に引き返して、みんなでスープカレーを食べた。そのとき、映画を作るのたのしかった、このまま終わるのはさみしいと、みんなが言っていた。あまりさみしそうだったから、また来ますと伝えた。次は夏に来るから、そのときにみんなで映画を作るのはどうかと提案した。写真店を舞台に、店長を主役にして、脚本を書きたい人は5分くらいのものを書いて、全部撮ってオムニバス映画にするのはどうだろうと。東京に戻ったら、次々にメールで脚本が届いた。メモ書きのようなものから、しっかりした脚本まで。図のようなものだけが描いてあるのもあった。

夏に2週間、札幌に滞在した。前回とは変えて、業務用のビデオカメラと三脚を持っていった。参加者のなかに、結婚するかもしれないからとマンションを買ったけれど、まだ結婚していないというサラリーマンの人がいて、泊めてくれた。そのころ、ちょうど会社を辞めて、無職になっていたので、参加者全員のスケジュール調整から何から、全部助けてくれた。13本の短編を撮った。その映画制作はボランティアのつもりだったけれど、お店には私の報酬用の貯金箱が置かれていた。それだけでありがたかったけれど、撮影が進んでいたある日、参加者のひとりが、小樽で短編の映画祭が新しく始まるらしい、小樽をからめた10分の短編映画を募集していて、グランプリをとると20万円もらえるらしい、今回杉田は自分の作品を撮っていないから、どこかでスケジュールを調整して小樽に撮りにいくといい、みんなも手伝う、その作品を応募してグランプリをとって20万円が入ったらそれを杉田のギャラにしよう、と提案してくれた。空いていた日を使って、行ける人みんなで小樽に映画を撮りに行った。主人公の男女は、実際の夫婦にお願いした。その男性は、誰よりも早く脚本を送ってきたけれど、夏になって、参加を辞退すると伝えてきた喫茶店のマスターだった。札幌に着いてからお店に毎日珈琲を飲みに行った。少しだけ話を聞いた。そのころちょうど落ち込む出来事が重なっていて、映画を作る心境になれなくなったとのことだった。2階は住居で、1階がお店の木造の喫茶店。夫婦でお店をやりくりしていて、小学生の息子がふたり。スコーンがとてもおいしい。珈琲もおいしい。顔を合わせているうちに、その二人で撮りたい気持ちになった。

最初は断られたけれど、ある夜に電話があって、やっぱり、映画に出ることなんてこの先ないだろうから、やりますと言ってくれた。ちょっとしたメモ書きだけしか用意できなかったので、撮影当日は、思いついたことから順々に撮っていった。たびたびみんなに、5分待っててください考えますとか言いながら、途中はもうだめなんじゃないかと思いながら、日が暮れるまで撮影して、終わった。高台に立つ男と、埠頭に立つ女の話。その家族が、小樽に来るとかならず行くという中華店に寄ってみんなで打ち上げをした。餃子もチャーハンもぜんぶおいしかった。その夜に、マンションの部屋で編集して完成させた。タイトルは『カモメ』。映画祭の日は、父の一周忌だったので行けなかったけれど、みんなが随時電話で実況してくれた。グランプリをとって、みんなが壇上でガッツポーズしている写真が送られてきた。その数年後、家族は札幌の店を畳んで、祝島に移住して、そこでお店をやっている。まだ行ってないけれど、行きたい。今回のちば映画祭でお披露目する新作『始発待つ光のなかでピーナツは未来の車みたいなかたち』は札幌と小樽で撮影した。手伝ってくれたのは、そのときの人たち。自主制作の地方ロケなのに、車が常に3台、運転手付きだった。以前泊まった部屋に、また泊めてくれた。


この記事を公開してすぐに、ご本人から連絡があって、マンションを買ったのは「結婚しないって決めたから」だったとわかりました。たいへん失礼しました。今回の新作で、また札幌を訪ねて、またお世話になれるよう、がんばっていきます。


第8回ちば映画祭 杉田協士監督特集① “出会いと別れと再会の可能性をめぐる歌“

上映作品 『カモメ』、『河の恋人』、『遠くの水』

3月20日(日)13時50分から 当日料金1000円

千葉市生涯学習センターにて(千葉市中央区弁天3丁目7−7 JR千葉駅から徒歩8分)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?