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インタビュー回想録~ナードマグネット須田亮太 編

先日、僕がインタビューアーを務めた、ナードマグネットの須田亮太さんのインタビューが公開されました。

ナードマグネットはここ数年、何度もライヴを観に行くバンドの1つで、半年前にはSuperfriendsの塩原さんとの対談を行った縁もあります。だから今回インタビューの案件が来た時には「これは頑張らないと」と密かに燃えていました。結果、須田さんのインタビューは「ポップカルチャーの敬愛とそれが届かぬ社会、それに対してナードマグネットがどう向き合うか」が熱量高く語られ、読みごたえのある記事になったと自負します。

しかし今回のインタビュー記事が須田さんの言葉を余すところなく載せたのか、というとそうではありません。なぜならこの記事は1万字近くありますが、素起し(インタビュー音源を編集加えず文字起ししたもの)は倍の約2万字ありました。つまりあの中では語られていない部分が1万字近くあるわけです。そして、泣く泣く削った文章の中にも、須田さんの本作に対する思いやアーティストとしての姿勢に関しての金言が沢山ありました。今回はインタビュー回想録として記事では語られなかったナードマグネットの話を、皆さんにお伝えしようと思います。

まだ自分の中でうまく喋れなくて

今回のインタビューを受ける前に須田さんは

須田:色んな媒体で取材は受けたけど、自分の中でうまく喋られない悔しさがあって。意図しているところは幾つもあるのに、言葉でまとめ切れない。

と話をされていました。『透明になったあなたへ』という作品はLGBT、同調圧力、現代のスクールカースト、音楽界の風潮、など様々なテーマがあり、その多大なる情報量を言葉にまとめて話をするのは制作者とはいえ、非常に困難であります。だからこそ、情報をひとつずつ整理して、言葉としてまとめていく必要性があり、それはインタビューアーの腕の見せ所でもあります。

今回のインタビューは私の他にも、アンテナの編集長でありこの記事の編集にも携わった堤もいましたが、たぶんその3者が「ポップカルチャーとそれが届かぬ社会」に対して憂いを感じていたようにも思います。それもあってか、須田さんの話がインタビューアーにもシンクロし、異常な盛り上がりを見せていました。その盛り上がった話題の一つに「邦ロック」という言葉が嫌いというのがありました。

「邦ロック」が嫌いなわけ

そもそもナードマグネットは自分たちが敬愛するパワーポップバンドの日本語バージョンをやろうとしていたバンドでありました。例えば彼らの“プロムクイーン”という曲はWheatusの“Teenage Dirtbag”をほぼ歌詞も変えずに歌っております。

しかしここ最近のナードマグネットの歌詞は英語も混ざっていることが多く、それについて須田さんに伺うと「リスナーの英語に対する苦手意識、抵抗感を払拭させたかった」と語ってくれました。その後、須田さんはThe Wellingtonsとの思い出と「邦ロック」が嫌いな理由を私たちに話してくれました。

須田:僕は一昨年にThe Wellingtonsとツアーで回ったんです。The Wellingtonsは学生時代にCDも買っていたし、10年前の来日公演の時にはお客としてライヴを観に行ってたんです。そのバンドとツアーが回れて、さらには僕らの“アフタースクール”を毎公演、英語でカヴァーしてくれたんですよ。そんなの一生ものの経験じゃないですか。

でもThe Wellingtonsはパワーポップ好きしか知らないバンドでもあり、僕らが普段ライヴを見に来てくれる人でも敷居が高いと思います。海外の知らないバンドだし、見方もわからない。そういう状況が悔しくて。その時に「邦ロック」の「邦」が憎くなったんです。自分の興味関心の幅を狭めているし、その言葉に甘んじてナードマグネットが「僕ら邦ロックバンドです」と言い出したら、The Wellingtonsから受け取ったものを裏切ってしまう。そういう流れもあって「英語も日本語も関係無いでしょ」という感じで、今は日本語と英語を混ぜた形でやっています。

だからこそ、シングル『FREAKS&GEEKS』ではThe Wellingtonsの“Keep Me Holding On”のカヴァーを、今回の『透明になったあなたへ』では“SONG FOR KIM”の日本語カヴァー“Song For Zac & Kate(M10)”を歌ったのだと須田さんは語ってくれました。

『13の理由』とYou Are My Sunshine

インタビューの中でもう一つ印象に残ったのが『13の理由』についてでした。Rolling Stone Japanで「マフスのはてな」管理人/ライターの岡俊彦氏が言及している通り、このアルバムはカセットテープにアコースティック・ギターの弾き語りを吹き込んでいるかのようなイントロから始まり全13曲で終わる構成は『13の理由』を影響源にしています。さらに最後の“HANNAH / You Are My Sunshine(M13)”のHANNAは『13の理由』の主人公的存在であります。なぜ、そこまでして『13の理由』を作品にいれたかったのか。

須田:『13の理由』は学園地獄ものの新しい金字塔になった作品じゃないですか。無職の時にこの作品を観て、打ちのめされました。ドラマの中に世の中の問題もいっぱい入っているし、問題意識みたいなのが動かされたんです。ただ単にそこで感傷的なムードにもなりたくなかったので、曲に関しては軽やかにポップにしたかったですね。

この話を聴いて思い出したのが「イントロ」でのカセットテープにアコースティック・ギターの弾き語りを吹き込んでいるかのようなイントロ。この曲は“You Are My Sunshine”というジミー・デイビスとチャールズ・ミッチェルが作った楽曲であり、後にルイジアナ州の州歌にもなっている曲です。しかしこの曲は楽しい歌いだしとは相反して、歌詞は「希望の光が目の前から去ってしまう」という切ない内容でもあります。昔からこの曲に惹かれてた須田さんはこう語ります。

須田:歌いだしは凄く明るいのに歌詞を全文読むと凄く切ない曲なんですよね。そんな曲が一つの州の歌となって広くみんなに愛されてるのは、やはり悲しい歌だからだとずっと思っていて。悲しみがあるからこそ歌があるし、そこに人間は惹かれるのかなと思うんです。それに“You Are My Sunshine”のような明るさと悲しみが交差する表現は「ハッピーサッド」的な相反する気持ちがないまぜになっている感じがしてて、それが人生なのかなと思います。

最後に

今回の回想録やインタビューを改めて読み返した上でナードマグネット『透明になったあなたへ』がどういう作品か考えると「敬愛と社会に向き合った教科書」であると考えます。教科書はマニアにとっては面白味のないものだと思われがちですが、教科書ほど基礎がつめこまれ、片寄った考えを正す書物はありません。『透明になったあなたへ』もそういう作品です。様々な問題やテーマを扱い、無数のポップカルチャーの引用しているのに、問題意識を強く主張することなく、情報を整理し、どんなリスナーでも楽しく聴けるポップ・ミュージックへと成立させています。言い換えると初心者でも入りやすく、ナードなファンでも楽しめる、まさに教科書的な役割を果たしている作品だと私は思うのです。

『透明になったあなたへ』を聴いて、Netflixで『13の理由』や『ストレンジャー・シングス』を観るのも良し、SpotifyやApple MusicでThe WellingtonsやBlack Kidsを聴くのも良いでしょう。なんにせよ本作だけ聴いて「それで終わり」というのは非常にもったいない。ぜひ、まだ『透明になったあなたへ』を聴いていない方がいれば、聴いてください。きっと、あなたが知らない世界がそこにはきっとあるはず。

アンテナ編集部ライター:マーガレット安井

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