イエベの戦士と、ブルベの魔法使い

私は今、かつてないほどの価値観の変化に直面している。私がこれまで信じて疑わなかった自身のアイデンティティに小さな疑問が穴を穿ち、そこから少しずつほころび始め、今やそれはガラガラと音を立てて崩れようとしている。そう、それは。

私、イエベじゃなくてブルベかもしれない

ああ。わかっている。これを読む殆どの人が「…ハァ?」と思っただろう。特に、チャラチャラした女の顔色なんて窺わない潔い日本男児諸君は、まるで異次元の言葉を耳にしたようなつかみどころのなさを味わったかもしれない。

説明しよう。「イエベ」とは「イエローベース」の略。対して「ブルベ」とは「ブルーベース」の略である。これらは肌の色味を表す言葉だ。日本人の肌は大きく分けて、黄みよりのイエローベースと青みの感じられるブルーベースに分けられる。それぞれで似合う色が異なっており、イエベはオレンジやブラウン/暖色系/穏やかな色味が、ブルベはブルーやパープルやピンク/寒色系/はっきりした色味が似合うとされている。

イエベとブルベの診断は当然ながら持って生まれた肌の色で決まるが、他にも瞳の色・髪の色・手首に透けて見える血管の色・爪の色などから判断されることもある。気になる方はネットで「イエベ」「ブルベ」「パーソナルカラー診断」などと検索すると、数えきれないほどの診断サイトがヒットするはずだ。
これまで私もそうしたサイトを見ては確信していたのだ。「私はイエベだ」と。なぜなら、私の肌はどう見ても黄色い。頬に血色は無くどれだけお酒を飲んでも赤くならない。またイエベの基準として代表的なものに「日焼けした時はヒリヒリと赤くならずにすぐ黒くなる」というのがあるが、私はこれにも見事に当てはまる。幼少の頃は屋外で飛んで走って遊びまわり、毎年夏になると焼け焦げた炭のように真っ黒になった。したがってこの30年間自分はイエベだと信じて1ミリも疑わずに生きてきた、ザ・イエローモンキーである。

それがなぜ、今になってこうも大きく揺らいでいるのか。
それは、ピンク色の口紅を買ったからである。女子なら一度は憧れる、色鮮やかなおもちゃの薔薇のようなピンク。そう、ローズっぽい青みや紫みのあるピンクはイエベ肌には天敵である。もちろん避けるべき色だということはわかっている。私は鏡の前で随分葛藤した。だが買ってしまったのだ。だって女の子だもん☆

するとどうだろう。
「黄色い肌にピンクは浮くかな。…あれ?大丈夫かも?もしかして案外いけるのでは?え、青みピンクいけるの?え、ってことは私…?」
…これが私が遥かなる迷宮へ足を踏み入れた瞬間である。

勇ましくも潔い日本男児諸君にはまだ実感が湧かないかもしれない。ではこれならどうだろう。君はロールプレイングゲームで、あるキャラクターを育てている。シュッとした爽やかな主人公顔のキャラクターだ。
「コイツ絶対打撃系!戦士タイプ!!」
そう信じて疑わず一心不乱に“ちから”パラメータを上げてきた。“まりょく”なんて値は完全に無視である。ところが物語も中盤にさしかかったある時、立ちはだかる強敵の前に苦戦を強いられ、ふとこんな疑問を抱くのだ。
(あれ?コイツもしかして、魔法使いキャラじゃね…?)
おわかりいただけるだろうか。今まで積み上げてきたものを一気に無に帰されるような喪失感。そして混乱。自分はどちらへ向かうのが正しいのだろうか。哀れにもスフィア盤の上を迷走するFF10のキマリ・ロンゾ。

改めて考えてみると、私が普段着る服は黒やネイビーやワインレッドが多く、柔らかい暖色系は落ち着かないからかあまり買わない。地の髪色は暗闇のような漆黒だし、良く見たら爪も何だか生気のない紫色だ。これってブルベ?いよいよ分からなくなってきた。今までイエベだと信じて、アイシャドウはブラウン、チークはオレンジ、リップはコーラルを選んでいたのに、違ったのか?私の顔面は、ずっと間違っていたのか…?

明確な答えはわからない。そのうちにでもお金を払って、デパートのコスメ売り場でパーソナルカラーを診てもらってもいいのかもしれない。こうなったら信じられるものはプロの目とお金だ。
ただ一つ、今回のことで分かった確実なことは「先入観なんてものはアテにならない」ということ。思い込みを乗り越えて一歩足を踏み出せば、もしかしたら今までの自分がひっくり返るくらいに大きな真実に気付けるかもしれない。戦士になるか魔法使いになるか、もう一度良く考えることにしよう。

キャシー(@cathyletter

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