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議論しない会合はもうやめよう

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森会長の「女性が多い理事会は時間がかかる」発言が問題になってますね。この記事を書いているあいだに辞任が決まってしまいました(笑)。ただこの問題、性差別の部分に焦点が当たっていますが、日本社会が抱えているより核心的な問題からは目が背けられているような気がします。

性差別よりも本質的な問題がある

僕もこれまで、会社の理事会や、行政の審議会や協議会と呼ばれるような会合を色々見てきました。性別によって役職や経歴に差があったり、公職者として発言できるレベルで活躍している女性の絶対数がまだまだ少ないことで、専門外であるにも関わらず無理矢理招聘される女性が多かったりして、性別と発言内容のレベルに見かけ上の相関はあるかもしれません。とはいえ、仮にそうだったとしても、両性の意見を公平に取り入れて協議することの意義が否定されるわけではありません。

それに、話の長い(女性)委員がいたとしても、そこはまず、事務方が事前に調整を怠ったことを責めなければなりません。会合の参加メンバーが誰であるかに関わらず、事前に各委員の意見を聞き出し、論点を整理したうえで会議に臨める状態にすることが基本です。

まぁ、限られた時間のなかで大人数の意見を事前に調整するのは難しいので、余計なメンバーを減らしたくなる気持ちは分からないでもないです。しかし、一般的に会合の目的は、多様な意見を取り入れて合意形成をすることです。この努力を怠るということは、独裁を志向していることに他ならないわけで、こちらのほうが性差別以上に本質的な問題なんじゃないかと思います。

議論をさせたくない事務方の思惑

一方、事務方が極めて優秀な場合、会合の前にあらかじめ全ての意見への対応が完了しており、当日はいわゆる"しゃんしゃん"で終わるという場合もあります(逆に調整しなさすぎで、資料を読み込む時間も無く、誰も意見を言える雰囲気じゃないまま終わる場合もありますが…)。この手の会合に出くわすたびに、だったらわざわざ人を集めなくてもいいんじゃないかと思っている人は大勢いると思うのですが、これが一向に無くなる気配がありません。

その原因は、やはりそれが事務方にとって楽だからでしょう。なにか意見が出れば、事務方にとっては間違いなく仕事が増えることになるので、何も発言が無いに越したことはないのです。

おそらく森会長だけでなく、事務局や関係者全体に、都合の悪い発言をするメンバーを排除しようというムードが広がっているんじゃないかと思います。官僚や行政系の組織のほとんどは、そういう文化になってしまっており、これが、日本社会の生産性の低さの最たる要因の一つだと思います。

順番に発言をしていくだけの会議

あと、この手の会議でよくあるのが、委員一人一人に順番に発言の機会が与えられ、全員発言し終わったら時間いっぱいになって終了というパターンです。

この場合、あらかじめ準備してきた意見を述べる人が多くなるので、発言自体はスムーズに進むことが多く、なんとなくやった感を得られるのですが、異なる意見を戦わせるような場面がほとんど発生しません。自分の発言時間以外は、基本的に他人の話を聞き続けることになり、質問や反論をしたくなっても、全員の発言が終わった後になってからなので、内容を思い出すのに時間がかかってしまいます。

事務方としては、当日の発言を整理して、その後の意思決定の参考にしようということなのだと思いますが、だったら委員全員を長時間拘束せずに、個別にヒアリングして回ればいいだけのはずです。こういうことの積み重ねが、無駄な会議を助長し、日本の生産性の低さの要因になっています。

当日までに事務方のほうで全委員からヒアリングをしておいて、論点整理して、対立軸を明らかにした資料を用意したうえで、どちらが望ましいかを自由に議論するような会合にするべきです。意見が対立した場合、カドが立たないように事務方が折衷案を作ってしまうこともよくありますが、これも会合のアウトプットが総花的になり、「誰も傷つかないけど、大して役に立たない結論」につながってしまうので、なるべく避けたほうが良いと思います。

議論することから逃げない

今回の問題は、性差別の部分ばかりに注目が集まっていますが、本当の問題は、オリパラ委員会という組織に限らず、日本社会全体に巣食う「議論させたくない病」です。

理事会や協議会のようなレベルの高い会合だけでなく、普段のミーティングでもアジェンダを整理せずに人だけ集めるようなことを減らし、官僚主導型社会の弊害から脱却しないと、日本社会の生産性はなかなか向上しないでしょう。

ちゃんと議論してもらう会合を準備するのは、「言うは易く行うは難し」ですが、そこにチャレンジできる組織が、これからは生き残っていくだろうと感じる、今回の失言騒動でした。

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