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【Sottoの穴】 第3回 ~ひとりになる。~

「Sottoの穴」2019年1月26日に開催したシンポジウム「比較社会漂流記」に際して、Facebook上で連載した全5回のコラム集です。 Sottoのスタッフたちと、シンポジウムコーディネーターの野呂さんに「比較社会の苦しさ」をテーマとして執筆してもらいました。

執筆・・・(龍谷大学准教授・野呂靖)

 子どもの頃から、人一倍他人の目が気になる人間だった。自分のやりたいことや思いよりも、まずは誰に何を思われるかを優先してしまう。過干渉で、指導的な母親の存在が影響していたのかもしれない。親の顔色ばかりをうかがっているうちに、他人の評価なくしては自分の存在価値を実感できなくなってしまったのだ。

 大学生になってもそれは続いた。あるとき電車に乗れなくなったことがあった。大学まで片道1時間、JRで通学しなければいけない。でも電車に乗ろうとすると動悸がする。脂汗がでる。震えながらじっとがまんしていると気が遠くなる瞬間があって、こわくなって大学にいくのをやめた時期があった。どの座席にすわるのか、どのような顔をして座っていればよいか。そんな些細なことでも他人の目が気になって、追い詰められてしまったのだ。

 それが少し落ち着いたのは大学4年生のとき。図書館に居場所を見つけたのがきっかけだった。通っていた大学には築50年は経とうかという古い図書館があった。その地下2階には歴史や宗教、哲学関係の書籍がうず高く積まれた書架が並んでいる。その一番奥の端に、なぜか一脚だけ椅子が置いてあった。僕はそれを発見してから、毎日その椅子に座り、一日中じっとしていた。本を持ってきて読むこともあったが、ぼんやりしていた時のほうが長かったように思う。当時、地下2階にはめったに人がこなかったので、そこは誰にも邪魔されないひとりぼっちになれる空間だった。

 本当に一人ぼっちだったが、寂しさを感じなかったのは今思っても不思議だ。何万冊もの本に囲まれていたからか、その著者の存在を感じていたからか、よくわからない。いずれにしても、とてもほっとできる時間だった。ひとりになって、僕は生き返った気がした。
最近、とある自殺防止団体が作成した啓発ポスターが話題になっている。笑顔はじける高校生たちの写真に「ひとりじゃないよ」というコピーがついたポスターである。まったく何を言っているのか。人間関係に追い詰められて、息苦しさを抱えている人に、これ以上他人と関われというのか。

 ぜひ他人とかかわらなくてもよい、一人ぼっちでよいと伝えたい。
でも一人でいるためには、それを認めてくれる人、環境が必要なのも事実だ。人が一人であるためには、矛盾するようだが他人の支えが必要なのである。このへんはまさにsottoの相談活動の肝だろう。今回のシンポジウムでは、堂々と一人で生きていくための方法をぜひ語り合いたい。


~団体について~
私達はNPO法人京都自死・自殺相談センター Sottoです。
「死にたいくらいつらい思いをもつ方の心を居場所づくり」を活動理念に掲げて京都で活動しています。
電話やメールでの相談受付、死にたいほどのつらさを抱える方の居場所づくりや、年に一度のシンポジウム開催などを行っています。
団体としての思いを以下の記事に書いていますので、よろしければ併せてお読みください。

「あいさつ」

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