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滋賀から目指せJリーグ ! おじさんサポーター、レイラック滋賀とゆく その⑤

  Jリーグを目指す滋賀県のサッカークラブ「レイラック滋賀」のファンになって18年目。いつの間にか白髪が増え、体力もすっかり落ちたけど、クラブはいっこうにJ入りできず。それでもめげないオジさんサポーターは、めげないクラブと今年も歩んでいきます。

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激動のシーズン後半

 前回の投稿からずいぶん空きましたが、この間われらがレイラック滋賀は激動のシーズ ンを過ごしていました。まずは監督交代です。前期を首位と勝ち点1差でターンしたところ まではお伝えしましたが、その後5試合勝利が遠のきます。9月には寺峰輝監督に代わり、 ヘッドコーチの菊池利三さんが監督として指揮を執ることになりました。菊池さんといえ ば 1990 年代、黄金期のヴェルディ川崎(現ヴェルディ東京)などで活躍した選手です。夏場 にはさらに選手を補強し、45 人という大人数でシーズン後半に挑みました。

 またクラブが6月にJリーグにライセンス申請をしたこともお伝えしましたが、9 月末に Jリーグから「スタジアムの照明の明るさが足りない」と指摘を受けました。がーん、そう なん?アカンの?チームもなかなか勝てず、順位は一時6位に下がりました。やっぱり滋賀県にとってJリーグは遠いんかー、とオジさんの心は沈みがちでした。

 ところが、ここから驚異的な巻き返しが始まりました。クラブはスタジアムの照度不足を 仮設照明でクリアすべく、クラウドファンディングを開始、実際にスタジアムで行ったテス トでは、指摘された照度をクリアするところまで持って行きます。さらにホームゲームでは 各種のイベントを実施、終盤の集客は 2000 人を超えるなど、ライセンス交付に向けて進み ました。

 すると菊池監督の下、チームも息を吹き返します。夏場に加わった戦力の効果もあり 10 月に勝利を重ねていくと、他チームのもたつきに乗じてJ3下位との入れ替え戦対象とな る2位を射程圏にとらえます。そして最終戦を前にした 11 月 19 日のホーム最終戦で見事 勝利、得失点差で2位に浮上しました。最終節で勝てば入れ替え戦進出が濃厚、という位置 です。

 よっしゃ!あと一つ勝つだけや。阪神もオリックスもヴィッセル神戸もアレしたし、今年 は関西の年。あとはレイラックで決まりやな!話題の映画「翔んで埼玉~琵琶湖より愛を込めて~」でも滋賀が目玉やしな!オジさんの気もにわかに大きくなります。

J3昇格に向け、試合前に盛り上がるレイラックサポーター

入れ替え戦を勝ち取ろう

 運命のリーグ最終戦は、11 月 26 日にアウエー三重県で行われました。シーズンを通じ、 数を増やしていったサポーターも気合いが入ります。ゴール裏は選手を応援する横断幕に 染まり、この日のためにサポーターが用意したチームカラーの旗がたなびきます。クラブの 河原吉貴社長を始め、スタッフもサポーターに混じっての応援となりました。オジさんもい つも以上に気合いが入ります。そして肝心の試合はなんとなんと、前半 15 分までに2点を 決めます。得点のたびにゴール裏のサポーターは沸き返り、オジさんの周りはハイタッチや ハグの嵐です。前半に1点を返されはしましたが、これはいける、と期待が膨らみます。さ あ入れ替え戦や、来年はJ3やで!

 しかし、相手チーム・ヴィアティン三重もホームで迎えた今季最終戦とあって、鋭い猛攻 を仕掛けてきます。後半はゴール前に迫られる時間が増えます。何とか守り切ってほしい。 皆が願いを込め「滋賀滋賀レイラック滋賀」と声をからします。


衝撃の結末

 選手たちがゴール前で踏ん張り、終了まであと 10 分、というその時、応援席と反対方向 にあるレイラックのゴール前が、なんだかざわざわしています。視力が悪いオジさんにはイ マイチ状況がつかめません。相手のファウルかな。そう思っていると、周りから「PK」「う わ、PKや」との声が聞こえてきます。え、うそやん。頭の中がパニックになりますが、相 手選手がゆっくりとボールをセットするのが見えます。止めてくれ、外れてくれ。サポータ ーが一丸となって願いと声援を送りますが、同点に追いつかれてしまいました。

 同時間帯、他会場での試合でほかのチームが勝っており、このままでは順位を逆転されま す。もう攻めるしかありません。「まだ時間はある、まだある」。試合終了直前、相手ゴール 前でFKを獲得しました。レイラックの選手がゴール前になだれ込んでいきます。誰かがこ ぼれ球を拾い、シュートを放ちました。「入った」と思いましたが、枠を外れます。

 「あとワンプレーを」。そう願った矢先、試合終了、そしてレイラック滋賀の今シーズン の終わりを告げる笛が響きわたりました。天を仰ぐと、晩秋の空がどこまでも澄み切ってい ました。最終順位は3位。2位との勝ち点差はわずか「1」でした。

 目の前で選手たちがピッチに崩れ落ち、顔を埋めて突っ伏してます。ゴール裏の皆も、一 瞬言葉を失います。テレビでこういう光景を見たことはありますが、自分のすぐ目の前に現 れるとは、思いもしませんでした。河原社長やスタッフさんたちの目は真っ赤です。取材の ためピッチに向かうオジさんも、涙をこらえるのに必死です。

わずかにJ3との入れ替え戦の切符を逃しうなだれるレイラックの選手たち

 スタッフや控え選手に抱きかかえられ、立ち上がった選手たちが、重い足を引きずってサ ポーターの前に向かいます。カメラを持つオジさんの手と足は震えっぱなしです。目の前を 通る選手たちの顔を正視できません。視線を少し下げると、選手たちのユニホームの背中が、 芝や泥にまみれているのが目に入ってきました。何でや、なんでここまで頑張った選手たち がこんな残酷な目にあわなアカンのや。これがスポーツの厳しさと分かってはいても、簡単 には割り切れません。

それでも前を向いて

 その時、ゴール裏のサポーターから「さあ選手をたたえましょう」という声が聞こえてき ました。カメラを構えると、ゴール裏の皆が立ち上がって、うなだれる選手に大きな拍手と 声援を送っています。2008 年にJFLに昇格して以来、苦しい時も楽しい時も、選手とサ ポーターが一体となって戦ってきたレイラック滋賀の姿は、最後の最後まで変わることは ありませんでした。

全力を尽くした選手たちにエールを送るレイラックサポーター

 悔しい敗戦にも関わらず、選手たちは口を開いてくれました。「最後の一つの取りこぼし が弱さでした」と振り返ってくれたのは、この試合2点目を挙げた在籍5年目の角田駿選手 です。角田選手は順位が低迷していた時代から、ずっとチームを支えてくれました。やっと つかみかけたチャンス。無念の思いが伝わってきます。DFとして幾度もピンチを救った井出敬大選手は「サッカー選手として今日の試合を忘れてはいけない」と悔しさをにじませま した。

角田駿選手

 正確なキックでセットプレーから数々のゴールをアシストした平尾壮選手は「試合ごと にサポーターの数が増え、Jリーグに負けないサポーターの熱や愛を感じ、力になりました。 来年はさらにサポーターを増やせるような試合をしていきたい」と力を込めて話してくれ ました。選手たちの眼差しには、光が戻っていたように思います。

平尾壮選手

 昨年最下位だったレイラック滋賀は大きく飛躍し、過去最高順位の3位でシーズンを終 えました。サポーターの数も増えました。ヘッダーの画像は今年春のものですが、最終戦で は、この5倍以上に増えていたと思います。2位にはわずかに届きませんでしたが、選手や クラブ、サポーターの奮闘は「どうせ無理」「絵空事やろ」と言われてきた「滋賀県からJ リーグ」は、夢物語ではない、もう手が届くところにある、と教えてくれました。

 そして敗戦から2日後の 11 月 28 日、レイラック滋賀にJ3ライセンス交付が発表され ました。滋賀県のクラブでは初めてのことです。選手やクラブのみなさん、本当にありがと う。来年こそ選手やサポーターみんなで喜びたい。

 滋賀からJリーグに行きましょう。


江藤 均


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