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さよならを教えて 感想

皆さんこんにちは。先日、昔から気になっていた「さよならを教えて」をプレイしました。三大電波ゲーの一つにも挙げられる本作、内容もひどく鬱屈しているのかな…と思いましたが、意外と音楽は綺麗で儚さや神秘的なものを感じるものが多いし、シナリオや演出も目立つところを切り取れば確かに奇妙なところもありますが(まずは服を着ないとな、下着を履き、上着を着て、全部脱いで、さあ行くぞって文章とか笑っちゃいましたが)、通してやってみると主人公の成り立ちなどを知ればこうもなろうな、妙な信頼感を覚えました。成る程今日まで語り草になるほどの奇妙さ、唯一無二な作品の一つに間違いないと思います。

これからはネタバレも含んだ感想になります。どんなもの、特にシナリオに重きを置いたゲームなら尚更ですが、新鮮な気持ちでプレイしてほしいのもありますので、まだ未体験の方はぜひ本編をプレイしてください。昔はプレミアソフトだったのですが、現在はDLサイトさんで安く簡単にプレイできます。自分もそちらでプレイさせていただきました。年末や夏休みなど時折セールとかもやってるのでチャンスです。15%オフクーポンもよくでますしね。素敵な学校生活を主人公・人見先生と送ってください。


黄昏時のスチルがまた情感を騒ぎ立てます






ではネタバレ含みの感想を。主人公・人見先生は教育実習生を名乗っていますが、その実は精神障害者のそれであり、学校と思っているものも精神病院でその中をふらふらと徘徊している患者でした。主人公に慕ってくれる、そして時には情欲をぶつける道具にするヒロインたちも、一人を除いて全て主人公の妄想、実態は小動物だったりホルマリン瓶だったりと人間ではありません。それらに自分の過去のトラウマや劣等を重ねて、自分を慰めている日々でした。ツラい。いや、主人公の性格も元々実社会には向いてない破綻や鬱屈したものではあるのですが、結局主人公が生きづらいのも含めて彼という存在そのものなので、ヒロインたちをクリアしていく中でどんどん可哀想な気持ちになりながらプレイしていました。ちなみに本当の人間であるヒロインのあの人は最後にプレイしました。彼女を最初にプレイしてたらまた違った読了感だったと思います。

ヒロインの中で一人上げるとしたら、ヘッダー画像にもしている高田 望美の話が好きですね。一番最初にクリアしたヒロインってのもありますが。いつも校舎の屋上にいる彼女。話を聞いていくと、どうも幼少期に父からの性的虐待を受け、そんな自分は汚れていると自己嫌悪をしているようです。主人公はそんな彼女に憐れみか共感を覚えたのか(自分のトラウマや願望から彼女ができているので、そりゃ共感の塊ではあるのだが)、彼なりに優しさを持って接していく。


しかしながら次の文でくるのはこうだ。

下劣な男性像そのものである。情欲を抱えながらうわの面で、優しい理解ある教師を演じているのである。まあこの会話の前日とかに彼女をこ○したりしているのだけど。妄想なので一夜あければ何事もなく彼女らは生きているし、自分も彼女らに○されたりするけど平気なのだ。話を戻します。情欲を覚えながらも少女の役に立てることに達成感や優越感を覚える、これは大なり小なり覚えのある男性は多いのではないのだろうか。女性でも好意を寄せる人に気持ちを伝える時、相手の弱みにつけこんで救いの手を差し伸べる人になろうとすることに覚えがあることもないだろうか。実際自分はこの文を読んだときにライターに見透かされてる、とドキッとしました。掌で転がされている。
彼女の最期は空に飛び立ち、主人公はマヌケに取り残されてしまう。金網が二人を「大空を飛べる者」と「地を這う者」に別け隔て、さよならしてしまう。主人公にも飛べる勇気があれば、この黄昏からさよならできるのだけどそれをする勇気もない。そしてヒロイン全員とさよならしても、また違う妄想の世界へリセットして逃げ込む。ツラい。ツラいが気持ちがわかってしまう自分もいる。飛べないダメ人間は、這いずりながら生きていかざるをえないから。

救世主になれない僕は無価値のままだ

他のヒロインでも色んなやり取りをするのですが、彼女たち自身の気持ちは分からないが主人公自身の心境としては、救うことができない、自分には価値がないと烙印を押されたと自責の念を持って終局していく。そして同時に、救うことができない、やることがない、意味のない人生がこれからも続いていくことに巨大な虚無感を持ってしまう。意味のないのは嫌だ、するべきことがないのは嫌だ、死ぬべき理由がないのは嫌だ、僕には意味が、僕には、僕は・・・。ここらへんの文章は、昔見た「ジョニーは戦場へ行った」を思い出しました。ジョニーの方も、現実と夢を行き来しながら、最後はリアルに絶望して殺してくれ、殺してくれと孤独に物語を終えていきます。最も、傷痍軍人のジョニーと精神疾患の人見先生とでは状況が違いますが。


抱きしめ合う男女もまた妄想の世界と思うと似ているかも

ちょっと話ずれますが、劇中のBGMが良かったです。特に「疑問符と共に」という曲が好きで、望美のテーマとして使われていたのもあって彼女の魅力がより伝わってきました。風を感じる、草原の大地と空が広がっているような風景を感じましたし、ケルト民謡のような浮遊感みたいなのも感じられ、なんならRPGのフィールド曲とかに使われても全然おかしくない曲です。それを黄昏の昼でも夜でもない世界で聞いているので、陰と陽がごちゃごちゃになった気持ちにさせられます。他にも「虚無回廊」のようなセンチメンタルとざわざわしたものが同居しているような曲、主題歌「さよならを教えて」の詩と曲の唯一無二の歌、遠くから聞こえるような、かと思ったら真横にいるような、赤と黒をぐるぐるとかき混ぜて、自分も一緒に世界に連れされそうな、名曲ですね。本当クオリティ高いです。

先程陰と陽、と話しましたがこの作品も陰と陽、というか「白と黒」が非常に重要な言葉になっています。普通?の人間は白い世界を、明るい世界を求めていくものだとおもうのですが、主人公人見先生は黒の世界を求めます。世界が白に、光に包まれていくことで自分の醜さがより明るみになっていくようで怖いと言っています。世界が正気であればあるほど、自分の狂気が鮮明に映し出されてくるようで怖いのでしょうか。俺は狂ってるぜうへへへへみたいに、道化師にもなれれば幾分楽なんでしょうが、人見先生なんだかんだで自分を教師にするくらいにはプライド高いので、そういうふうにもなれず、ただただ自分の黒を世界の白の中においていかれる、なんなら塗りつぶされる、自分がいないものになってしまうことを恐れていたのでしょうか


文終わりごとにバッドのジェスチャーアイコンなの地味に嫌な気分になるw

この白と黒の悩みに対して、一つのアンサーを出してくれるのがあるヒロインの√なのですが、本編の重要部分なので割愛します。ただ、世界の中で孤立した黒だと思っていた主人公も、自分の意識していないところで同じ波長をもつ人がいて、知らずに救世主になれていたのは、主人公の繰り返される鬱屈した絶望の世界に引き込まれていた僕にも、一筋の光のように映りました(彼女最後にクリアしてよかった)。結局主人公は救ったことに気づいてないと思うので、彼はこの先も黒と白に悩まされる日々を送り続けるのでしょうが、読みてのプレイヤーは、彼を見る目に憐れみと同時に、愛おしさみたいなものも感じるのではないでしょうか。僕は少しそんな感情を覚えました。

さよならを教えて、さよならとは何にさよならしたかったのでしょうか。プレイヤー毎に色んな解釈があると思いますが、僕はヒロインから言われるたびに「この妄想の世界からさよならしましょう」と言われている気がしました。さよならの言葉は、ヒロイン達が人見先生に贈った言葉ですが、結局は人見先生はさよならできずにまた妄想の世界に入り込むし、プレイヤーもゲームを続けていく限りさよならができない。いつかこの世界から終わるために、先生は黄昏の学校をさまよい、プレイヤーは新たなヒロインの攻略に入る、ただ、全てのヒロインをクリアした頃には、ゲームは終われても、この黄昏の世界のことは忘れることはないでしょう。だからこそ、いつかさよならをしたい、さよならする仕方を教えて欲しい、さよならを教えて、というタイトルが付いたのかなと、個人的に解釈しました。

さよならを教えて、発売当時は販売が振るわなず、それが入手困難やプレミアソフトに繋がってしまうのですが、内容が内容なので手を伸ばしにくかったのかと思います。でも、この作品に惹かれた人々の口コミがネットの海に広がって今日も語られる作品担っていったのだと思います。実際自分も作品の独自性に魅了されて、こうして文を起こしていますしね。先日岡本太郎さんの本も読んでいたのですが、彼の文で芸術とは「ああ素晴らしい、これが芸術だ」というものはもう芸術ではない、「なんだこれは、理解できない」って困惑するくらいのものが、衝撃に圧倒されるものこそが芸術なのだとありました。この作品は〇〇年早かったとか言われることもありますが、さよならを教えてもまた、そういった作品の一つだったのではないでしょうか。おそらくこれからも、ネットの噂や語りを聞きつけて、やってみて衝撃を浴びる人も出ることだと思います。最近だと人気ゲームにもなった「NEEDY GIRL OVERDOSE」でも触れられていましたね。製作者の一人のにゃるら氏もファンの一人らしいです。


当時二ディガプレイしてたときはチャイムの不協和音の意味分からなかったですね

さよならを教えて、重ねて言いますが面白かったです。主人公の思考に流れそうになりながら、自分は正常なのか、正常ってなんだ・・・?っと自問自答しながらプレイする、なんかノベルゲームではありますがカフカみたいな良き名著をよんでいる感覚も覚えました。このゲームがまだまだ愛されていくと思いますし、語られていってほしいですね。







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