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ワクチンは誰のものか?

新型コロナワクチンはアメリカ優先!?


 フランス製薬大手サノフィのポール・ハドソン最高経営責任者(CEO)は13日、同社が新型コロナウイルスのワクチン開発に成功した場合、「米国が最も多く事前発注する権利がある」などと語った。英国人のハドソン氏は「米国はリスクを取って投資を進めてきたためだ」などと米ブルームバーグ通信の取材で語った。
 フィリップ仏首相は14日、ツイッターで「ワクチンができれば世界の財産だ。平等な接種に議論の余地はない」と不快感を示した。
 同社のセルジュ・ワインバーグ会長は14日、仏紙フィガロの取材に「発言を誤って解釈された。米国を優先するとは、ばかげた話だ」などとして、ワクチンができたら各国に平等に供給するつもりだと弁解した。  
(5月15日日本経済新聞)

 今世界中の製薬会社で、急ピッチでワクチン開発が進められており、当然そこには莫大な費用が投下されています。サノフィのCEOは資本主義の論理に従って、ビッグスポンサーであるアメリカを優先するのは当然だと考えたのでしょう。
 しかしこの発言が世論のみならず、フランス政府にも完全否定されたことに歴史の前進を感じます。政府が多国籍企業を批判するのは稀です。

 1980年代以降、商品やサービスの国際的取引増加に伴い、知的財産権を保護する動きが強まり、1994年にはTRIPs協定が結ばれます。「偽ブランドや海賊版はけしからん。知的財産権が侵されないようにしましょう」というものです。ここに異論がある人はあまりいないと思いますが、一緒に医薬品の特許権も定められています。「巨大製薬企業が莫大な先行投資をして作った薬を、安く作って多くの人を救うなんてけしからん」ということを各国政府と多国籍企業が協力してルール化したわけです。もちろん製薬企業は政治家に莫大な政治献金をしています。

ゾウとアリの戦い


ザッキー・アハマット
南アフリカ共和国のエイズ活動家。
反アパルトヘイト運動に参加し、逮捕され刑務所にいた約10年の間にHIVに感染。
貧しい人が抗エイズ薬を得られないことに抗議し、誰もが薬を手にできるまで自分も投薬治療をしないと拒否。マンデラの説得も固辞した。

『薬は誰のものか』というドキュメンタリー映画があります。
 治療に効果的な薬が発明され、エイズは不治の病ではなくなりましたが、アフリカでは人々は薬を手にすることができず、毎年何百万人もの命が失われていました。途上国の人の命よりも製薬会社の利益が優先されたからです。経済学者のスティグリッツ教授は、医薬品の特許権保護強化は「途上国の人々への死刑宣告である」と語ります。
 
 南ア政府は、自国の「薬事法」を改正する際に、TRIPs 協定を踏まえつつ安い価格で薬を買うことができる条項を加えた。すると、製薬企業が政府を裁判に訴え、米政府が南ア政府に圧力をかけます。
 ここでザッキー・アハマット率いるHIV 陽性者の団体「治療行動キャンペーン」が立ち上がります。彼らは南ア政府を支援しつつ、大規模な抗議運動を展開し、製薬企業の強欲さとそれを支援する先進国政府という構図を世界に印象付けました。そして国際世論の高まりによって、製薬企業は裁判を取り下げました。アリがゾウに勝ったのです。
 2001年のこの出来事があったからこそ、今回フランス政府は迷わず巨大製薬企業を批判したのだと思います。過去の歴史の積み重ねが現在を作っているのですね。

 余談ですが、インドネシアのじゃんけんはゾウと人間とアリで、ゾウは人間に勝ち、人間はアリに勝ち、アリはゾウに勝つんですって。

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