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雨上がりの日比谷野音、BEGINのライブ

2023年の連休、4月30日の日曜日は雨降りだったけれど、昼過ぎからは小雨になり、夕方には空が明るくなった。

日比谷野音でのBEGINライブは14年ぶりなのだそうだが、それは私が初めてBEGINのライブに行った時でもあって、その時以来、彼らの音楽を聴き続けている。

ライブはカバーの3曲から始まり(「Yesterday Once More」、「Stand By Me」、「Blowin' In The Wind」。いずれもBEGINのアルバム等でリリースされている)、4曲目からは渋いというか、ノリノリに「させない」ような曲が続いた。

しかしどの曲も演奏、アレンジとも素晴らしく、比嘉栄昌(ヴォーカル)の声は冒頭、声が詰まっているように聴こえたが、すぐに伸びやかになっていった。

メンバーは島袋優(ギター)、上地等(キーボード)に加え、ベース、ドラムス、ヴァイオリン、ギター(栄昌の息子。ライブ中盤には自身のバンド「HoRookies」の「結の唄」を歌った。これも良かった)の7人。

BEGINの原型はブルース・コンボだが、今ではその音楽性が多岐に亘っている。

NHK「のど自慢」(石垣市の会)でも演奏された(良い演奏だった)「島人ぬ宝」に表現される八重山民謡、ブラジルのマルシャを取り入れた「マルシャショーラ」が代表的なものだが、ハワイアンやレゲエ、フォークも「きちん」と自己のものとしているのは凄いことだと思う。
そのことは、レコーディング作品よりも、ライブでこそ証明され、その実力が発揮されている。


ライブのことから少し離れるが、BEGINの音楽活動は、特筆すべきもので、もっと世間に称賛されるべきものだと思う。

中でも、ハワイやブラジルへの演奏旅行は、沖縄や「本土」から移住した人たちとの「縁」を絶やさないため、忘れないためのもの、と言えるだろう。

1908年、明治政府は国策として、ブラジルへ移民の集団(およそ半数は沖縄の人たちだった)を送る事業を開始、第一回に用いられた船(笠戸丸)は目的地サントス港へと向かった。

現在のブラジル在住の日系人は200万人ともされるが、その先祖・一世たちが笠戸丸で彼の地に着いた時のブラジル音楽は、まだサンバは生まれていなく、マルシャだった。

BEGINは、そのマルシャに八重山の言葉「ショーラ(しようよ)」を足して、マルシャショーラを作った(そのオリジナル曲が「バルーン」)。



太平洋戦争で日米からズタズタにされた沖縄に、当時のハワイに住む日系人たちは、豚550頭を船で贈った。
その豚たちの子孫が現在の沖縄に育ち、重要な産業となり、暮らしに息づいている(このことはアルバム「BEGINライブ大全集」収録の「憧れのハワイ航路」で栄昌が話している)。


そして今年6月には沖縄県うるま市で開催される「うたの日」。
栄昌の言葉によれば「うたの日っていうのは大まかには”うたのお祝い”ということで変わりはないんだけど、柱としては戦争というものがあったんだよね。戦時中、防空壕の中で赤ちゃんの声も出さないようにしていたというのを聞いて・・・そんなことがあってはならないと思った」(かりゆしネットマガジンVOL.131から)。
今年の開催地・うるま市は、ハワイから豚たちが到着した勝連港のある場所でもある。


2011年、東日本大震災の時、宮城県南三陸町の歌津にあった郵便ポストが津波で流され、その1年9か月後、沖縄の西表島に漂着した。
このことを耳にしたBEGINは、歌津を度々訪ね、夏祭りへの出演もしている。
私は2年前に偶々、歌津を訪れた時に、この交流のことを知り、非常に驚いたのだが、彼らの大震災への思い、縁も実感することになった。
(なにしろ、歌津に行くのは、時間と手間がかかるのだ。)


自分たちのオリジン、ローカリズムに根差した音楽活動を行っていて、同時に、質と独自性の高い音楽を創っているBEGINだが、ひとつ不満があるとすれば、前作「Potluck Songs」(2018)から5年も経つのに新作アルバムがリリースされない点だ(前々作「Sugar Cane Cable Network」は2015年発表だった)。
配信シングルはコンスタントに発表されているから、そろそろ新しいアルバムを聴きたい。

話を戻すと、BEGINのライブ活動は非常に精力的で、一年を通じてほぼ毎月、開催されている。
ホールばかりでなく、ライブハウスや今回のような野外会場でも、また、編成も変化させながら、演奏し続けているのも、キャリア30年を超えたミュージシャンとしては凄いことだし、素晴らしいことだと思う。


今回の日比谷野音ライブで思ったのは、曲の(源流となる)スタイルの多彩さで、ある曲ではニューオーリンズ・ジャズのセカンド・ラインのようであり、別のある曲では(「Paradise and Lunch」の頃の)ライ・クーダーのようでもあるが、BEGINの音楽の芯たる部分にはブルースがある、という「発見」だった。 

彼らは今回のライブ(ツアー)を「ノスタルジアだ」と標榜したのだが、確かに郷愁、望郷の心持ちを表現するのに、ブルース中心の選曲は最適だろう。
事実、私の観たBEGINのライブではベストだったし、これまで観た全てのライブの中でも五指に入る公演だったと思っている。

日比谷野音は解体、新築されるそうだが、新しい野音でも、BEGINのライブを聴きたい。それもなるべく早く。

アンコールを終え、メンバーが下がり、残った栄昌は、何度も野音の上の方を仰ぎ、何度も手を合わせていた。
それはきっと、かつて野音に登場し、逝ったミュージシャンたち、への挨拶だったのだろう。
私も、鮎川誠さん、忌野清志郎さん、江戸アケミさん、数多の人たちを夜空に想った。


追記:

このライブで最も感動した曲は、アンコール前のラストに演奏された「黄昏」でした。本当に素晴らしかったのです。

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