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私が好きな坂本さんの曲を

坂本龍一さんが亡くなった、と報じられてから二週間が経った。

坂本さんについて語るべきことは、まだまだ山積していると思うが、それは日々、コラムや評論が発表されるという事実、そして、日を追うごとに著者によっては、新たな視点による論評もあり、ひとつひとつが読まない訳にはいかないものだ。

いろいろな感情が起きて来るが、私は坂本さんの音楽を40年以上にわたって聴いて来た単なるリスナーなので、彼の作品から好きな曲を幾つか挙げ、記憶や感想を添えることで、彼を追悼したいと思う。


「Front Line フロント・ライン」(1981)

坂本さんのシングルEP盤としては「War Head」(この曲も良いなぁ、と思う)に続く二作目となり、YMOの三作目「BGM」リリース直後に発表された、坂本さん自身のヴォーカル曲。

先々にもアルバム収録はなく、それは本人に思うところがあるように見えて、近年のベスト盤やリイシュー盤には収められていない。

その理由を推理してみると、歌詞に若気の至りが過ぎるから、だと思う。

サビの歌詞。

Gonna be a soldier
Fighting a mind war
It’s called a music
And I’m a soldier

二十歳代の坂本さんの音楽への姿勢、態度を宣明したものとも思えるし、確かに「若いな」とは思う。

しかし、この時の坂本さんの青臭さは、今聴いても愛おしい、と感じるのだ。


Phew「終曲」(1980)

YMOの三人は、ソロ・ワークとして、たくさんのミュージシャンにプロデュース、楽曲提供を行ったのはよく知られているが、特にこの頃の坂本さんは、メジャー、インディーズを問わず、凄まじい量の仕事をしていて、私は当時「これも、また坂本龍一が」と感じたものだ。

中でも、日本インディーズの先駆だったPASSレコードでは、フリクションの1stアルバム「軋轢」(文句無し名盤)、そしてPhewのシングルである「終曲/うらはら」と、その制作作業の出来は際立っている。

インディーズ燕の間で当時囁かれていたのは「坂本龍一は誰にでもプロデュースしてくれる。本人のギャラは安いけど、機材費が高くつく」というものだった。

もちろん、真偽はわからないが、この曲を聴くと、確かにそうかもしれない、と思ったものだ。

Phewはシングルに続き、アルバム「Phew」をリリースするが、こちらは(あの)CANのメンバーによる制作なので(これも名盤)、坂本さんとはこの一枚のみのコラボレーションとなったのが、残念と思う。


David Sylvian & Ryuichi Sakamoto 「Bamboo Houses」(1982)

イギリスの孤高のバンド、ジャパンのフロント・マンであり、坂本さんとは長い付き合いとなるデヴィッド・シルヴィアンとの共作。

単発シングルEP盤としてリリースされた作品だが、「日の目を浴びていない」曲と言えるだろう。

私は坂本さんが毎週火曜日にDJを務めていたNHK-FM「サウンドストリート」の愛聴者だったが、番組で紹介されたこの曲はインパクトが強くて、発売日にレコード店へ買いに行き、何度も何度も繰り返し聴いた。

二人は翌年、映画「戦場のメリークリスマス」サウンドトラックから先行する形となったシングルEP盤「Forbidden Colours (禁じられた色彩)」をリリースする。

こちらも良い曲と思うが、当時のデヴィッド・ボウイのコメントを憶えていて、ボウイは坂本さんの楽曲を「素晴らしい」としたが、シルヴィアンのヴォーカルは「ダメだ」と述べていて、これには失笑しつつ、キツいな、と感じたものだ。


N.M.L.(No More Landmine)「Zero Landmine」(2001)

ピーター・バラカンさんのラジオ番組に先週(04.09.)、坂本さんへの追悼として「この曲をフル・バージョンでオンエアを」とリクエストが入ったが、ピーターさんは「さすがにフルの18分をかけるのは無理」と言い、5分弱のピアノとヴォーカルのバージョンをかけたのだった。

ラジオで長尺曲のオンエアが難しいのはわからなくもないが、この曲はフルでないと意味がないと思う。

音楽によるチャリティーやベネフィットには様々な意見や反発もあって、それは、最も大切である音楽自体の出来に対しても同様のものがある。

その点、楽曲の好みはあるにせよ、この曲は奇跡的に上手く行っていて、それは曲の構想、設計の勝利だと思う。
(この曲以外だと「Sun City」が数少ない成功例だろう。)

多くの地雷が撒かれたままの地域、それはアフリカやアジアに集中しているのだが、曲の3分の2辺りまでは、その地域のミュージシャンが演奏や歌唱で登場し(ダライ・ラマ14世まで登場する)、ワールド・ミュージックのコンパイル曲の様相となるが、残り3分の1あたりで、デヴィッド・シルヴィアンの手になる歌詞を参加ミュージシャンたちが合唱、独唱している。

坂本さんはこの2年前、「LIFE」というコンサートを開いていて、東京では日本武道館が会場だったが、こちらは分野を問わず、世界のミュージシャンたちを集めた作品だった。

私は武道館ライヴを見たが、率直に、冗長な部分が多く、否定的な感想を持った。

しかし、坂本さんの考えたアイディアはこの「ゼロ・ランドマイン」に凝縮し、実を結んだ、と思う。

ベースは細野さん、ドラムはユキヒロさんの演奏で、この長尺で構成の難しい曲をきちんと聴かせる。
ほんとにこの二人は凄腕だ、と感じる。


ぼくのかけら(1981)

坂本さんのソロ・アルバム二作目「左うでの夢」冒頭を飾る曲で、作詞は糸井重里氏。

雅楽を思わせる打楽器と管楽器に、坂本さんの語りが乗っていく。

坂本さんの音色への鋭い感覚が、見事に表現された曲と感じる。

残念ながら、このアルバムは余り評判が高くないようだが、ポップとアヴァンギャルドのバランスがとれた、とても良い作品だと思う。


「Field Work」Ryuichi Sakamoto & Thomas Dolby (1985)

最後に挙げるのは、トーマス・ドルビーとの共作「フィールド・ワーク」。

このバージョンは「Tokyo Mix」と名付けられたもの(だったと思う)。

80年代中頃のポップ・ミュージックの感覚が濃厚だし、坂本さん、トーマス・ドルビーの良い元気さが表現された佳曲と思う。

何の根拠も無いが、子どもたちに聴かせたくなる曲で、そのことは坂本さんも同意してくれるだろう。


それでは、坂本さんに心からの感謝の念を込めて、私なりに、元気に、宇宙へ送り出すことにします。

坂本龍一さん、私は、あなたの作るメロディが大好きでした。

ほんとに、ありがとうございました。

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