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本を出すとあなたにどんなことが起こるのか?

 小説、コラム、自己啓発、アート、マンガーー。

 どんな形だろうと「表現」を志していれば、「本を出す」ことを目標というか、通過点として考える人が一定数いると思う。

 でも「本を出す」ところまでイメージできても、実際にそのあとどんなメリットが生まれるか、その人のまわりでどんなことが起こるか、ということまではイメージできないのではないだろうか?

 そこで今回は、私が担当した著者の周辺で起こったことから、それを整理してみたい。短い書籍編集経験を通じての事例だが、その実態を知ってみるのは、出版に興味を持つ人にとって価値あるものとなるかもしれない。

1、有名になれる

 本を出すことで得られるメリットのド定番は「有名」になれる、ということ。

 んなアホな、と思ったかもしれない。しかし本当だ。本を出せば、出す前よりもずっと「有名」になる。

 そもそも本が出れば、その分、書いた人の名前は社会へと広がる。

 以前より減ったとはいえ、書店はまだ全国に1万2000店ほど存在する。書店の店頭に置いてもらえれば、それだけ多くの場所に、自分の名前が置かれているわけだ。まして、その本がヒットすれば、買ってもらった数万人の家にまで自分の名前が置かれることを意味する。

 名前が広がれば、自然とそれがどんな人物か、その正体を知りたくなるもの。おそらく、それを探るべくメディアが取材にやってくるし、話を直接聞くための登壇依頼が届く。さらには次作の相談をする編集者も出てくるかもしれない。

 こうしてまさにあなたの”名”が、日本のここそこに”有”る状況になる。つまり有名になるのだ。

 私が担当した著者の中には数名、出版をきっかけに新聞やラジオはもちろん、テレビのレギュラー出演を果たした人がいる。もしその人の名前をここであかせば、きっと多くの方が知っていることだろう。

「本を出してから問い合わせが増えて迷惑している」

 という著者もいる。私の立場としてはなんともいえない。しかし本人が望んだかどうかは別として、やはりそれは、出版を通じて有名になった証だろう。

2、信頼される

 この業界にいると、一旗揚げたいと考える著名人やその関係者から「本を出したい」と相談をされることはよくある。ただ、そうしたなかでも特に相談が多い職種が二つ存在する。

 それは政治家と学者だ。 

 彼らに特徴的なのは、多くの場合、出版に際して「お金儲け」という意図がほとんど含まれていないということ。

 たとえば政治家は、せっかく書いた本をほとんど市場に回さずに自ら大量買いし、関連する人や組織に配ったりする。本で得られる印税なんて、まったく足元にも及ばない規模の額で、である。

 一方で仕事柄、某国立大の教授陣とお付き合いがあるが、彼らの中で「本を出していない」人は限りなく少数だ。

 本を出したからそのポジションにいられるのか、本を出したことで勝ち取ったのかまではわからない。しかし現実として、彼らの多くは出した本を経歴として記し、キャリアとなり、お金ではない部分でプラスになってその将来を左右する。だからこそ「本を出す」ことにこだわる。

 つまり彼らにとって本を出す目的とは「信頼を得るため」にほかならない。

 前後するが、本を出版したことで盛んにメディア取材を受けたり、登壇の依頼が届いたり、というのは、有名になったと同時に著者が少なからず「信頼感」を得たからだと思う。

 逆に本を読んで「こんな内容を書く人はヤバイ」と感じたなら、もしくは「あんな変な出版社から出すなんて」などと思ったなら、取材も登壇依頼もしまい。

 それは出版したことで逆に「信頼感」を損なったのであり、本がどれだけ「信頼感」に対して影響力を持つか、その表れだと思う。

3、頭の中がまとまる

 これは隠れた出版のメリットだ。

 基本的に出版とは「アウトプット」。本を一冊出すには、頭の中にあるものをそれ相当の量、表までひっぱり出さなければならない。

 皆さんも考えていただければお分かりだと思うが、そうしたものが頭の中に収まっているときは、きちんとした形をなしていないことが多い。

 マグマのようにグツグツと煮え立っているかもしれない。もしくは太平洋のように地平の向こうまで広がっているかもしれない。

 いずれにせよ、第三者が見たとき、それをそのまますんなり理解できる状況になっているとは限らない。

 そんなまとまらない頭の中を「整理」する大チャンスが出版である。

 全てがそうではないが、「整理」に手慣れ、完成形を見越した編集者が手伝ってくれれば、きれいにまとまる可能性はより高まる。

 もしかすると、完成形と頭の中の「グツグツ」に乖離があり、刊行してから揉めることもあるかもしれない。それでも頭の中が整理される過程とは、経験しないとわからない、とても気持ちのいいもののはずだ。

 私見だが、本を出したばかりの人の登壇を聞くと、極めてわかりやすく、すぐれたプレゼンテーションをしていることが多い。それはおそらく本を出したことで、少なからず頭の中が整理されたことが影響していると思う。

4、儲かる

 最後がお金である。

 これは書くまでもないものであり、当然と思った方も多いだろう。

 たくさん本が売れればその分、印税があなたの手元に入ってくる。

 印税の支払われ方は会社によって異なり、いろいろなパターンがあるようだが、概ね書籍価格の5〜10%で支払われることが多い。

 1500円の本を10%の印税で出版した場合、1万部売れれば150万円。10万部売れれば1500万円。100万部売れれば1億5000万円の収入となる。

 厳しい時代とはいえ、いまだに年に数冊はミリオンセラーが出ている状況が続いているし、一攫千金を狙えるチャンスは出版界にまだまだあるだろう。

 とある起業家にお願いをし、出した本がヒットしたことがあった。その著者としばらくぶりに会った際、

「印税がなければ、今年の厳しい状況を乗り越えられなかったかもしれない。本を出してよかったよ。ありがとう」

と言われた。

 しばしば「この著者の本を出せてよかったな」と思うことがある。刊行を通じて仲良くなり、そこからプライベートでの関係が始まることもよくある。

 ただしそのときは、それとはまったく違う次元で、その著者との「絆」がより強くなった気がした。それは「生き死に」を、一緒に超えた人との間だけで生まれる「絆」だと思う。

 とりあえず、自分の経験から考えたのは以上である。

 本を出すことによるデメリットもあると思う(本がヒットしたせいで税務署に目をつけられた、と言っている著者もいた)。しかもせっかく出してもなかなか売れないのも事実だが、それでも得られるメリットはやっぱり多い。

 もし上のようなメリットにピンと来るなら、あなたも「本を出す」ことを意識してみていいのではないだろうか。

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