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再起動

ものすごく久しぶりに、海外旅行の計画をしている。

この10年ほどは、シルクロードを繋ぐようにして日本から中国の西安へ、ウイグル自治区から始まる中央アジア、イラン、そして最終的に全ての道が通じるローマには2019年の大晦日に訪れた。ローマで新年を迎え、サン・ピエトロ大聖堂で新年のミサに与り、それが現時点で私の最後の海外旅行だ。シルクロード上の各所スポット旅行であるため中抜けが多く、次は間を埋める旅をしたいと考えていたところに新型コロナのパンデミックが始まった。

とはいえ、2020年2月はまだ、この騒動は数ヶ月で収まるだろうと思っていた。3月のベトナムは泣く泣く諦めたものの、5月の台湾旅行は無理かもしれないけど、7月のイラン旅行の頃にはなんとかなっているでしょう、と今考えればとんでもなく甘く見積もっていた。
まさか、海外旅行どころか国内移動すら制限されるようになるなんて。そして、それが2年以上も続くなんて。私は、99歳で亡くなった祖父の葬儀にも出られなかった。

8月下旬に政府から発表された水際対策緩和で、日本入国時のPCR検査陰性証明がワクチン三回接種完了者には不要になった。これで、ようやく実質的に自由な海外旅行を取り戻したことになる。

私はすぐに行き先の選定と手配を開始した。8月末で期限切れを迎え始めるスターアライアンスとワンワールドのマイレージも使ってしまいたかった。

とりあえず、アジアから出たかった。この2年半、仕事上ではアジアオフィスの元社長が主なパートナーだったし、私の人生でも過去にないくらいアジア各国と関わってきた。それはそれで大変楽しかったが、そろそろ違う文化圏に触れたかった。

欧州に行くには、ロシア迂回の経由便ばかりでフライト時間が長くなる。アメリカ方面にはあまり興味がない。そこで、近年私の中で注目度急上昇の中東に行くことにした。欧州に行くにしても、どうせトルコ経由やドバイ経由になるところだったし。
行き先は、初めてのトルコ-イスタンブール5日間の旅に決めた。ちょうどオスマン帝国の歴史にハマっていたし、その前はお隣イランにハマっていたので食べ物の相性がいいことはわかっていた。そして、イスラム教圏は濃淡あれどお酒を飲む習慣がないため、酔っ払いがいないのもポイントが高い。また、トルコリラは円安の日本人にとってもまだお得感のある通貨だ。

一人でも行くつもりだったけど、友人数名に声をかけてみたりもした。11月下旬という日程だったのでなかなか都合が合わず、一人で行こうかと思っていたところ、向かいの席にいる元上司に何気なくそのことを話した。
「11月にトルコ行こうと思ってるんですよね。イスタンブール。」
「ええなぁ!ヒュッレムやろ?!」
ヒュッレム…?
ヒュッレムとはなんじゃろうと調べてみたら、オスマン帝国の壮麗王と呼ばれたスレイマン一世の愛妃のことだった。どうやら、少女漫画や海外ドラマで知っていたらしい。トルコと言われてまずそれが出てくることに驚いた。
「一緒に行きません?」
一緒に行くことになった。

彼女とは、これまでも一緒に海外オフィスを訪ねる旅を何度かしたり、彼女の勤続20年記念に二人で台湾旅行に行ったこともある。何より、長年一緒に二人で働いてきたバディなので、お互い勝手知ったる間柄だ。今は私の異動で上司ではなくなったが、目の前の席で日々過ごしている。しかも、講談社学術文庫で知識を得ようとしていた私より、漫画やドラマを見ていた彼女の方がずっと、オスマン帝国の歴史やディテールについて詳しかった。
私もその漫画を買った。漫画を読んだ後に学術文庫を読んだら、スルスル内容が入ってきて驚いた。

善は急げとまずは航空券の手配を開始した。しかし、すぐに彼女のパスポート有効期限残日数が150日と定められているトルコの規定に全く足りないことが発覚した。大抵の国は長くても90日程度にもかかわらずトルコだけそんなに長いことに驚いたが、急遽パスポート再申請してもらい一週間後に無事航空券を獲得した。トルコ航空の羽田⇄イスタンブール直行便で、二十万円程度。久しぶりの海外、直行便だしアリでしょうと気が大きくなってしまったが、半分は燃油サーチャージだった。プーチンめ…
モスクに宮殿、博物館やバザールなど、見どころの多い旧市街にホテルも予約した。あとは、現地ツアーなど具体的なアクティビティを決めていかなければならない。パンデミックの最中にスマホの機種変更をしたため、それまで思い立ったらすぐに海外旅行の手配ができるようインストールしていたアプリなどが消えていたため、一つ一つ思い出しながら入れ、ログインを確認した。2年半の間で、これらの旅行手配の知見はすっかり、私の中でロストテクノロジーのようになっていた。この感覚を取り戻していくことも、パンデミックからの回復を実感できて嬉しい。

10月11日から、日本の水際対策の更なる緩和により、入国制限上限が撤廃され、パンデミック中は全ての外国人に要求されていたVISAの取得も不要となる。航空各社も大幅な増便を計画しており、これに伴い入国時の検疫手続きなども元の状態に戻っていくと期待している。円安の懸念はあるものの、これからもっと海外旅行がしやすくなるだろう。
そうなれば、改めてシルクロードを埋める旅も再開したい。

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