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Kの粒子—アルファーnoter、Kのススメ—

鉄の乗り物が嫌いだ。

輪っかを握る手を、たった5センチ動かすだけで、人を殺せる。そんなものが、命同士の肩をすれすれに飛び交う。

今日も、人が死んだ道路をゴシゴシと洗って、またその上に無数の鉄の車を通らせる。

鉄の乗り物がひしめき合うからこの世界が嫌いだ。

Kさんを知ったのは、今から10ヶ月前、2018年の9月のことだ。

私は、その年の8月にnoteを始めたばかりで、 #8月31日の夜に というハッシュタグを知り、過去の自分に語りかけ始めると止まらず、合計して10以上のnoteを投稿した。

やさしい不登校入門シリーズ

皆がきっとそうするように、ハッシュタグをクリックして、同じハッシュタグの人気記事を上から少し追った。

そこで目に留まったのがKさんの記事だった。

人気記事の上位が、エモーショナルな内容である中、どこか叙事的で、そのアイコンの表すように、モノクロを感じさせる印象が残った。

心の動いた記事にいつもそうするように、作者のトップページを覗く。

そこには………


私は、noteを始めて間もなかった。

noteはこういったものなのか、と、心の中でガッツポーズを作った。

こんなに文学性の高い文章が、作者打って出しで読める。
しかも、不思議な居候生活の、リアルタイムな物語を受け取ることができる。
リアルタイムの生活の描写は、美しい非現実感と、現実の不安定さが同居していた。

noteとは、凄いところだ。流石noteというだけある。

そんな文学の人Kさんをフォローできて、とても得をした。

Kさんという文筆家は更には、noteのコメント一人一人に丁寧な返信をされる。
ふざけたコメントにも、時に素直な筆を、時にウィットに富んだコメントを。

私は、しばらくは見て楽しんでいたが、ある時にコメントにお邪魔をした。
すると、返信を下さった。

まるで、友人のように。


その頃私は、まだまだ育児を生活の主としていた。

不妊うつ生活、終わらないタイプのつわり、出産育児という、正常とは何かを忘れてしまった流れの中、私は自分の内に篭ることで自分の精神を護っていた。

noteを始めたのは、現世への再デビューの一つだった。
その時他にチャレンジしたことで苦しんでいた時期でもあった。

だから、Kさんの世界と出逢い、コメント欄ではまるで友人のように筆をくれたことに、感動を覚えずにはいられなかった。

私にとって、noteはKさん無くしてはありえない。



定期購読マガジンもお得すぎた。100円で毎日、あの上質な文が届くのだ(今は廃刊)。

「上質なものを買った」

購入したものの値段に関わらず、その質が高いほど、働いたことを肯定し人生を豊かにしてくれる。

美しい言葉を使った文章なら、他にもある。
美しい流れを組み立てた文章なら、他にもある。

しかし——

そういった美醜の次元ではなかった。


粒子が細かく、感じたことのない浸透圧で身に心に沁み渡る。

ああ、これが上質な文章か。

他に一体、どこで出会えるだろうか。

あの、ベルベットにような肌理の細かい質の高さは何処から来るのだろうか。



Kさんの道程を読めば、リアルなのかと疑うほど不可思議で、時に理解を超える。

東南アジアでの暮らし、京都の伝説のアパートメントでの暮らし、大企業経営者のお抱え運転手。

そんな中で、私達が一番身近に感じられる経歴が、タクシー運転士だ。

深夜のタクシー運転士をされていた時の掌編エッセイは、人々の息遣いを克明に描く。

私は夢中になって読んだ。

そのうちに、「バックミラーの人々」というマガジンが公開された。

膨大な上質なノンフィクションエッセイを公開しているKさんだが、「バックミラーの人々」はタクシードライバーを主人公としたフィクション小説だ。

一行、目に入れたらタクシーのドアは閉められる。そこから先は、運転手の導く世界だ。

普段のエッセイとはまた異なる、臨場感と鮮やかさが胸に迫り、息が止まった。



私は知る。

彼の文章がどうして粒子が細かいのか。

砕いて細かく細かく挽いて浸透させ……


貴重な経験という鉱石の粒子は彼により粉砕された。そしてそれは絵具になった。

彼はフィクションという筆を取り、彼にしか創り出せない鉱石の絵具でもって——


描かれた。




人間離れした文筆力で人間を分解し、人間を再構築する。そこに神性を感じるが、同居の人と暮らし、動物、植物、生けるもの、温もり、痛み、怒り、不安定さ、そして悲しみ。

極めて人間的な、愛すべき人間がそこにいる。


ところで、そんな彼はどうしてタクシー運転士、お抱え運転手、車なのだろう。

鉄は似合わないのに、なぜ。


ずっと感じていたその疑問の解に、はたと気づいたのは、彼が春からの新しい仕事を報告してくれる前のことだった。バスの中で娘を膝に乗せ、バスロータリーをぼーっと見ていた時のことだった。私にはまったく向かない仕事なので、凄いし、ありがたいし、尊敬する。娘が産まれてからは特にだ。毎日、運転士という仕事に感謝している。

命を奪う鉄の車。
命を乗せる鉄の車。

ああ、だからか。なぜこんな簡単なことに気付かなかったのだろう。

Kさんが、だから運転してくれたんだ。Kさんだからこそ、命を乗せて運ぼうと思ったんだ。


ほどなくして、彼は新しい仕事の内容を教えてくれた。


その仕事とは高齢者介護施設の送迎運転士だった。

いつも数行で私の涙腺に打撃を与える打率の高い彼の文章だが、その報告はまた涙腺を撃破した。
その時、涙腺以外の場所も崩落した。
溢れたのは涙だけではなかった。

気付けば口から溢れていた。


「ありがとうございます」と。



*ー

ずっと、Kさんの紹介文、もといただのこのファンレターを書きたかったけれど、なかなか書けずにこのタイミングになった。7/1こそは上げようと思っていたら7/1はKさんの誕生日だった。

しかも、その更に数時間前には、また新たなる報告がありファンの間に衝撃が走った(多分)。

家主さんのSさんとの同居が、契約通り解除されたそうだ。


ショックだった。

きっとずっとこのままだと信じていた。Kさんは新しい仕事を始め、契約は更新されると思っていた。いつまでも…。

泣くこともなんだかできないし、コメントもできない。空気を読まずにコメントする私さえもだ。

ファンの皆もそうなのではないだろうか。


とにかく今は、誕生日であることを前もって報告し待つKさんにお祝いの言葉をかけるばかりである。


——Happy Birthday to Mr.K.

from K.
2019.7.1





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