拝啓、僕の星を閉じ込めた僕の星の神さまへ —1小節目—
夜空を裂く
痛みさえ
胸を濡らす
旋律
—樫尾キリヱ『終焉の光』より
神さま、お元気ですか。キリヱです。
8月も最後の日となり、少しずつ風が優しくなってきました。
私は、そうですね、多分今、元気のボーダーラインを越えることができたと思います。
でも、あの4月からすぐに、私の生活は一変して、息をした日は幾日かでした。
大したことはないです。
子供が外の世界を求め出して、保育園も決まったので、生活の主軸を変えた、もしくは変えようとしたってだけです。「育児軸」から「仕事軸」に。
普段から働いている野郎どもには、ピンと来ないでしょう。
その時子供が2才10ヶ月、妊娠を含めて3年8ヶ月。
もうね、旦那の仕事の愚痴を聞いて、私はボロボロ泣いていたんですよ。
何でって?羨ましくって、羨ましくって。
うちは、旦那が話し好きで聴き下手。
私が聴き上手で話し下手。
だから、旦那の職場のキャストとか入れ替わりも含めて完璧に近い形で頭に入ってるんですよ。
その職場って言っても大した職場じゃなくて、大体はオバちゃん達のお世話。貴重な若い子のモチベーションを保つ気遣い。暴走する同僚の尻拭い。
妊娠前からずっと聴いてきた。旦那の話し方が上手いから、キャラが活き活きと立って面白い。
でも平常の私が冷静に考えれば、羨ましい職場ではないです。
だけど。
くだらなく、もどかしく、面白おかしく話されるその職場のいつもの光景。
気付いたら、涙がボロボロこぼれていたんですよ。
あれ、私はどうして泣いているんだ…とまでは行かなくて、ちゃんとわかります。羨ましい。
ああ、その場所で、人間の頭脳を求められて良いですね?と。
それも誰か一人にじゃなくて、みんなに頼りにされている旦那。
旦那なんて、全くもって気の利かないの極みだし、反応も遅い(平均2.8秒)のに!
そりゃ、機転は利きにくいけど冷静に処理することができる。そして、賢そうに見える外見サギ!
すごく難しい顔をしている時に限って、何も考えていないことをたまに同僚に見抜かれていじめられるらしいけれど。
そんなのにどうして泣いて羨ましくなったんでしょうね。
生き物って、使えるよう備わった部位を使えないと本当苦しいんですよ。
人間だけじゃない。
馬を走らせないようにしたら?
鳥が飛べないようにしたら?
字が読めるのに、本をガラスケースにどっさり入れただけの部屋に監禁したら?
私がそうでした。
私だけじゃなくて、赤ちゃんもそうでした。
「保育園に預けて働きたい!」っていう人たちの気持ちは妊娠前も産後しばらくも理解できなかったけど、生後半年を過ぎてやっとわかりました。
単純にお金が、育児雑事が面倒だから、じゃないんです。
聴きますか?
貴方は、魚介居酒屋でサワーを飲みながら、まるで異星人のように自分の異質さを繰り返し話していたけれど、私に話を訊くことがありましたよね。
それもやっぱり、異星人の話を聴くように、自分が触れたことのないストーリーを聴きたがった。
結婚の話や、育児の話。
「子供は可愛いですか?」と。
まるで子供のような、貴方が。遠い目をして。
でも、普通の話ですよ。
普通の出産後の普通の育児の話です。
ただし途中で逃げないで聴いて下さいね。
(つづく)
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