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海と山椒魚



海と山椒魚の一人称が珍しく「俺」なのは山椒魚からきているというので、最近初めて井伏鱒二の山椒魚を読みました。


なんだか、辛いというか、大きなモヤモヤを残して終わる作品だったんだ。

うっかり岩屋の中で成長して頭がつっかえ、狭い岩屋から出られなくなった山椒魚。
悲しみ、怒り。
小さな窓から見える他の生き物を見下し馬鹿にする。
馬鹿にした分自分の置かれている状況に発狂し悲嘆にくれる。
 自分の自由になったものが目蓋の開閉と岩屋に迷い込んだカエルの自由を奪うこと。
山椒魚は出口を塞ぎ、2匹は狭い岩屋でひと夏を罵倒し合い、翌年無言のひと夏を過ごす。
無言の中、山椒魚の心に芽生えかけた友情。
空腹でカエルが力尽きる。
カエルは「お前の事を怒ってはいないよ」と言う。


カエルのその先もあるはずだった自由。
同じ状況に引きずり込んだことで生まれた友情に似た感情。
いつまでも続く無言の中、話しかけられる事を待っていた。
最後の言葉。
これから先のどこまでも続く孤独。



 

 青く澄んでは日照りの中
遠く遠くに燈が灯る
それがなんだかあなたみたいで
心あるまま縷々語る
                          海と山椒魚  より

日照りの中に燈が灯るというのが不思議な歌詞だと思った。
日照の中でより明るく光る物。
燈は世を照す仏の教え。登る火。
燈は誰かの魂だったんだ。

弔いの歌。
祈りの歌。
強い日差しに焼かれるような後悔の歌。




 1週間前、山椒魚って知ってる?と娘に聞くと「この前現代文でやった」と。
現代文って現代ではない文なのに現代文なんだ。

滅多に持って帰らない教科書を持って帰って来てくれた。
久々に手にした分厚い教科書。
開いて数分、気がついたら寝ていた。
学生時代から遠く離れても深く刻まれた条件反射。
卒業したらもらおうかな。
睡眠導入剤におすすめです。


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