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思い出のなかに

一旦登ってしまうと下りるのはなかなか大変な「女の園」。
時間がたっぷりあったからか、
備えつけてあったノートには
当時ここを訪れた人たちの記録がたくさん残っている。

パスポートのサインまで
誰かに書いてもらおうとするような、
悪筆の父本人が書き残したものはないけれど、
いろんな人の字で父の名前が出てくる。
ノートの中の父は
仲間と青春していて、
パラパラめくっていくと、
父はもちろん、今でも交流があって、
顔を知ってる厳ついおじさんたちが
多感な大学生なのが、なんとも言えない不思議な気分だ。

(へぇ、島だ…もとい死魔蛇のおじさんダブったんだぁ)

友だち相手でもほとんど喋らない父は、
いろんな友だちの悩みや打ち明け話を
ここで静かに聞いたんだろう。
星を眺め、歌を歌い、彼らは語りあったのだろう。
どうりで70過ぎても妙に結束が硬いわけだ…

この、センシティブで叙情的な大学生たちと対比的なのが、
女子。
女の人の筆は饒舌で、皆さん山をエンジョイしている。

サラサラと美しく、明日の登山への意気込みを綴る人。
免許が取れた喜びを高らかに綴る人。
大量に発生するカメムシとの闘いを、ドキュメンタリータッチで綴る人。
物思いにふける女性はこのノートの中には登場しない。
年齢はバラバラだけど、一様に生き生きしている感じが伝わってくる。
そう、ここは本当に「女の園」だったのだ。


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