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しらたまものっけてください。

盛夏、何の予定もなく、もう何もしたくない昼すぎに頭のスミをよぎるものがある。
窓の外を眺めて、
カンカンに照っているようならば、
よぎらなかったことにして
「あぁ、もう何もしたくない…あつい…」
とつぶやく。

すこし陰があるような、
小雨でもぱらぱら落ちているような、
そんなお天気の時は少し考えて、
時にずるずると部屋着を抜け出す。
どうせ汗をかくから身支度はそこそこ。
タオルをカバンに詰めて。
くるまが、ぐらぐらに暑くて気が滅入る。

あつい。

かき氷、食べたい。

頭をよぎるかき氷は
いつも同じお店のもので、
老舗の羽二重餅屋さんが夏だけ出している、
カンナ削りのかき氷。
羽二重餅というと県外の人にはあんまりなじみがないんだろうか。
あまみ以外に特に味のついていない、
ぺろんとした求肥がなぜか地元の名物で、
絹織物の羽二重のようだから。
と、羽二重餅の名前をつけて、
それをメインで売っている店が5、6軒ある。
味の違いは、私にはよくわからないけれど、
発祥の店だというこの店は、
コンクリート打ちっ放しの広い間口の店先に
屋号の入った木製の岡持ちがどんどんどんとつまれている良い老舗っぷりで、
奥のスペースに机と椅子を並べてかき氷を出している。
そういえば、夏以外はここは何になっているんだろう。

たまには違うものを、と決意しながらお店に入って、
結局「宇治しるこ」を頼んでしまう。
よくある、あずきののった宇治金時、
宇治しるこはその金時部分がこしあんで、しかも餡が氷の下に入っている。
せっかくの羽二重餅屋さんなので、
羽二重餅をのせて「羽二重宇治しるこ」を。
あ、白玉も。追加で。

毎年のこととはいえ、
かき氷は2ヶ月だけの臨時メニューなので、
お店の人はなんとなくバタバタしている。
あと、店内には扇風機しかないので暑い。
風は通ってるけど
冷房に慣れているバテた体に、この待ち時間がつらい。
カンナで氷を削る
ガーッという音が聞こえるたびに、
私の番か!?と顔を上げて、
違った…と虚無に戻る。
かき氷しかないわりに、時間がかかるよね…
え、あっちの客より、こっちがはやく頼んでなかった…?
隣の席の、扇子をバタバタさせてる客が、暑い暑いうるさい…
そんな殺伐とした少しの時間を越えて、
おまたせしましたー!
と、トン、と軽くテーブルに置かれたガラスの器のきらめき。
とけて滴る冷たい水のつや。
これは、
クーラーがガンガン効いてるお店では
たのしめないことよなぁ。

かかっている抹茶はしっかり苦くて、
粒の大きな氷によくなじむ。
スプーンの型が旧くてさ、
ちょっと深くてちいちゃくて、掬いにくいの。
そいで、氷をぼりぼり噛まなきゃいけないから、
食べるペースは自然とゆっくりに。
口が疲れたら、底の底から甘いあんこを掘り出して、
ゆっくり食べているから、頭は痛くならないのよね。
と、思っているくらいに
不意打ちでキーンと来たりする。
氷の上で少し固くなった、うす甘い羽二重餅は、
口に入れるとほっとするし、
白玉団子はないとさみしい。

食べ終わる頃には
長く氷を含んでいた口の中はひんやり冷えて、
汗もスッとひいている。
駅から少し離れたお店の前は静かで、
川沿いをさっと流れる風が気持ち良い。
昼風呂でも、入って帰ろかな。

暑い暑い夏の午後だもの。
せめて過ぐる時は穏やかに。
あなたのそばにもどうぞ、
暑さをぬぐうかき氷がありますように。

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