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分岐の晩餐

なんであんなこと言いだしたんだろうなぁ。
と、思う。
母の誕生日祝いで、中華を食べにいった。
丁寧にやってるお店で、
料理がのんびり出てきたから
両親と3人でいろんな話をした。
もう12月になっちゃうね。
1年あっという間だね。
やー、今年はあんまり山にも行けなかったなぁ。
という流れで、
あれ?今年、山小屋の冬支度してなくない?
と、気づいてしまった。

いや、まずくない?
水道さ、凍るじゃん。
あー、凍るのはもう少し後だよ。
俺学生の頃なんて、
凍結防止のヒーターとかなかったけど
冬使ってたし。
えー。
昔は知らんけど、
そもそもブレーカー落としてきてるでしょ?
ヒーター入ってないし、
水道の栓閉めてないよね?

沈黙。

たしかにまだギリギリ凍結するかしないか
という時期だった。
日当たり良いし、
ここのところ暖冬だし、
まぁ、近いうちに行けばなんとか大丈夫だろう
と思った。
なにより
水道まわりは父がかろうじてしている
唯一の管理人らしい仕事で、
そこに口出しをして
たのしい食事に水をさすのが嫌だな。
というのが本音だった。

水道の元栓を閉めて、
こういう水道ごとの不凍栓を一個一個閉めて、
ちゃんと水が抜けてるか確かめて
という中腰の作業が
年々父にはしんどくなってきているのには気づいていて、
おさぼりがちなのもまぁ仕方ないなと思っていた。
そろそろ交代どきかねぇというのと、
いや、役割分担はまっとうしていただきたいというのが
せめぎ合っている時でもあって、
ぐるぐるぐるっと考えて、
なんか
「じゃあ、明日見てくるわ」
と、言ってしまった。

本気で行くかどうかは五分五分だった。
朝起きれなかったらやめようとかその程度のノリで。
どうせいつも行き帰りは私の運転だし。
明日休みだし。
たぶん、両親ともに、
「行っといで」と言うと思った。
実際、母は
「ごめん、私明日は行けないけど、
 行ってきてもらえると助かる」
というリアクションだった。
が、
なぜか父がひどく嫌がった。
「みんなで行ける時に、ゆっくり行けば良いじゃないか」
「そんなに心配する必要ない」
「完全に凍り出すのなんて、いつも年末くらい」
「明日なんてトンボ帰りになる」
そんなことを立て続けに言った。
私もわりとそういうところがあるのでわかるのだけど、
父は高感度の末っ子センサーを搭載していて、
避けられる日常生活の面倒ごとは
無意識で徹底的に避けるヘキがある。
これだけ嫌がるということは、
念のため、確認しておいた方が無難。
私の中のお姉さん成分が静かにそう判断していた。
ちょっと温泉入って、
元栓閉めて、
帰ってくれば良いだけ。
「うーん、そうよねー
 まだ大丈夫だと思うんだけどねー」
などと生返事して胡麻団子を割りながら、
明日、早起きしよう。
と決意していた。

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