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さむい。

母から折り返しがあったのは30分ほど後だっただろうか。
我々は窓を開け放して、
一生懸命和室の畳をあげていた。
冬の信州である。
凍えるような寒気の中で、
父と私は必死だった。
けれども。
ストーブを焚いた暖かい部屋で
のんびりミルクティーなどすすっている今、
思うことは
電話をかけてきた母の第一声と同じことだ。

「で?水道屋さん呼んだ?」

答えはNo。
もちろん。
私に生活力はない。父にも。
まったく、今の今までまったく、
そこに考えが及ばなかった…
とうろたえるこちら側の気配を察して、
母は静かに電話を切った。
のちに母は言う。
「スマートフォンってのはさ、
 全部インターネットにつながってるんじゃないの?」
と。
私だって出先なんだけど。とは言わず、
母は地元の水道屋さんを手配してくれた。
「17時に来てくれるって」
との連絡を受け、
それまで寒さをしのぐべく、
チーム宿六は静かに下山し近くの日帰り温泉へと向かった。

お風呂で温まり、
もう…小屋に帰りたくないね…
寒いね…と小声でつぶやきながら、
山を登る。
17時前に来てくれた水道屋さんと軽く打ち合わせて、
鍵を預けて別れる。
話の通りがいいなぁと思っていたら、
下打ち合わせはほぼ母がつけてくれていた。
ちなみに、山奥ゆえに最寄りの水道屋さんが
ネットでうまく見つからず、
以前頼んだことのある水道屋さんの名前をみつけて
かけてみたら廃業しており、
その廃業した水道屋さんに誰か同業者を紹介して欲しいと頼み込んで、
日曜日は休業なのを無理言ってきてもらった
水道屋さんだったと知ったのは家に帰ってからのこと。
父と私だけなら完全に詰んでいた。

とっぷり暮れて、星が上がり始めた道を、
無言で帰路につく。
家の中が雨だったから忘れていたけど、
今日はいいお天気だったんだなぁ。

ひとつ
幸いだったのは、
どうやらコマがとんだのは我々がたどり着く数時間前だったこと。
最大出力で放出される水の量を目の当たりにして、
私が見積もっていた額よりは、損害は少なかった。
あの日、様子を見に行くと言い出して、
しかも朝早く出発して本当に良かった。

電話をかけまくり、
書類を書き、
信州まで出向いて交渉しつつ後片付けをしてくださった
お母様への心からの尊敬と感謝をここに記すとともに、
明細を見ながら
へぇ、水道って出しっぱにすると、
上水の水道代と下水の使用料で料金が倍になるんだー☆
などとのんきに口に出したりしたために、
地の底に堕ちたチーム宿六の信用は
現在に至っても回復しておらず、
ふたりで何かをしようとしていると
冷ややかな目で見られることを書き添え、
「わたしのひどい目。」の
長い長い巻物のリライトを終えさせていただきます。

本当に本当に大変なひどい目だったのだけど、
こうやってケラケラ笑いながら書きおこしていると、
ユカイな思い出になっているから不思議なものですね。
室内に降った摩訶不思議な雨の跡は
壁にはっきり残っております。
信州にお越しの際は、ご来訪を…?

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