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LAG : 理想的な「ゴール」を求めて

これは過去に考案したゲームのリメイクです。個人的な経緯があり、解説がゲーム自体とは直接関わりの薄いものとなってしまいました。


LAGのルール

コンポーネント

  • プレイヤー2人

  • 適当なサイズのヘックスグリッド正六角形ボード
    (サイズ4か、慣れたらサイズ5程度が良いと思います。)

  • 十分な量の白、黒の駒
    (セットアップ参照。)

用語

  • オブジェクト
    同じ色の駒が隣接してひとつながりになっているとき、それらは全体で一つのオブジェクトを形成しています。
    (いわゆるグループと同様の定義で、名称はただのフレーバーです。)

セットアップ

各プレイヤーが担当する色を決め、ボードを挟んで対面に並びます。
各プレイヤーは自分の側の2列に自色の駒を配置します。
例えば、サイズ5の場合、下図のように駒を配置します。

下側に白のプレイヤーがいる場合

ゲームプレイ

白のプレイヤーから交互に手番を行います。
手番では、自色の駒を1個移動させます。パスはできません。

  • 移動方法
    駒はグリッドに沿った直線上に、(移動前の)ボード上にある自色のオブジェクトの数ちょうどの距離だけ移動します。ボード外や、既に自色の駒があるマスに移動させることはできません。
    相手色の駒があるマスには移動でき、移動先の相手色の駒は除去されます。
    (間にある駒は飛び越せます。)

  • 移動制限
    駒を前(自身から離れる方向)に動かすことは常に許可されています。
    駒を横に動かす場合、移動後に自色のオブジェクトの数が減少していなければいけません。
    駒を後ろに動かすことはできません。

ゲーム終了

あるプレイヤーの手番に合法手が存在しなくなったときゲームが終了します。
ゲーム終了時、オブジェクトの数がより少ないプレイヤーの勝利です。
同数であった場合はゲームを終了させた、すなわち合法手が存在しなくなったプレイヤーの勝利です。

終局例。
白の手番に合法手が無く、
黒よりオブジェクト数が少ないので白の勝利。

このゲームは何?

グループ数の管理

これは私が2015年に発表した同名のゲームのリメイクです。
デジタルゲームの「処理落ち」から着想を得た移動システムなのですが、これはHalma(1884)のような全ての駒をゴールに移動させるタイプのゲームと相性が良いように見えます。

全ての駒をゴールに移動させるゲームは、必要な歩数がある程度決まっているので、その歩数をできるだけ早く稼ぐことがゲームの目的となります。したがって、この移動システムの場合、勝つためにはグループ数をある程度増やす必要があります。
一方、あまりにグループ数を増やすと駒を動かすことができなくなってしまい、また、全ての駒をゴールさせたときは駒が一塊になっているので、いつかはグループ数を減らさなくてはいけません。
これによって、このゲームは戦略上のジレンマと、それを踏まえたグループ数の管理という明確な目的を与えるものになっています。

決定性の問題

このように、全ての駒をゴールに移動させるようなルールは理念上は良いゲームとなっているように思えるのですが、実際にプレイしてみると、いくつかの問題があることがわかります。

まず、お互いのプレイヤーがグループ数を増やさない安全な戦略を取ると、この勝利条件では駒を除去することができないので中央でグループがぶつかってしまい、戦略を保ったままゴールさせることが難しくなります。駒を横や後ろに移動させられる場合はその状態を保つことができてしまい、そうでない場合もお互いが駒を動かせなくなってしまいます。

さらに、逆にお互いがグループ数を増やし過ぎてしまうと、これまた両者が身動きが取れなくなり、ゲームを終了させることができなくなってしまいます。こちらの状況は現実的な試合でも十分起こりうるのでより重大な問題です。

移動制限などの調整を試みたものの根本的な解決には至らず、結局、LAGはアイデアを残したまましばらく放置されることになりました。

ゴール条件の緩和

結局、問題解消のアプローチは、比較的最近のゲームから見いだされることになります。

Dodo(2021)は前進しかできない極めて単純な移動システムでありながら、「合法手が存在しなくなったプレイヤーの勝利」という条件によって複雑な戦況を生み出した興味深いゲームです。

この勝利条件自体はAyu(2011)Circle of Life(2015)などの前例が存在するのですが、重要なのは、「移動できない」という条件が「全ての駒が反対側に移動している」という条件の一般化になっている点です。つまり、Dodoはゴールの条件を緩和することで決定性の問題を克服したゲームであると捉えることができます。
ただし、Dodoは実際のゲームプレイではほとんどの駒が衝突した状態でゲームが終了し、レースゲームのプレイ感はそれほど残っていません。

ここから、「全ての駒が反対側に移動している」という厳格なゴール条件からいくつかの条件を抽出することで、その目的意識を保ちながら決定性を保証するような条件を得る、という着想を得ました。

LAGにおける「ゴール」

先述の理念を踏まえると、LAGは大きな移動距離を得ることがプラスの要素を持つようにすることが必要です。このためにはゴールまでの歩数はある程度大きめで、それほど差が生まれないようにしたいです。
そこで、全ての駒がそれなりに奥に向かうことが保証できるように相手の駒の除去を許可し、前進ができない状態をゴール条件に含めることが望ましいです。
駒を除去すると、その駒を動かす必要がなくなるため相手の得になり、したがって実際には駒の除去は積極的には起こらず相手の駒を避けるように動くことになるでしょう。

これに、グループ数が十分少ない状態であることを条件に加えることで、グループの統合という最終目標と、それによるグループ数の管理という当初の目的を与え、かつ、さらに駒を奥に進ませることができるようになります。

こうして、現行のLAGの勝利条件が得られました。

懸念点

理想的なゴールの頻度

LAGにおいて、駒を動かすことができず、かつ、グループが1個だけであるような状況は相手の駒の配置によらず勝利となるので基本的なゲームの目標となるわけですが、もちろん、そのような状況が常に起きることは保証できません。

駒が分散しているにも関わらず勝利しているような状況が頻繁に起こる、または意図的に起こすことが容易であるならば、LAGの理念を達成できているとはいえなくなってしまいます。

その他のゴール条件案

現行のルールとは別に、いくつかゴール条件の案が存在しています。参考のため、それらをここで紹介しておきます。

  • 「合法手が存在しなくなったときグループが1個ならば勝ち、
     そうでなければ負け」
    現行ルールをやや厳しくした形です。前述の理想的なゴールのみを認めるような形で悪くないようにも思えますが、グループ数を増やすことのリスクが直接的に与えられているので、やや消極的なゲーム展開になりがちです。

  • 「少なくとも1個の駒が最奥にあり、グループが1個ならば勝ち」
    この勝利条件はレースゲームよりもどちらかというと統合ゲームに寄せたアプローチです。(Ordo(2009)の条件を大幅に緩和したもの、とも解釈できるかもしれませんが。)
    グループ数の管理という目標はより直接的に与えられていますが、あまり駒が奥に行かないでゲームが終了する場合があります。
    同時に、駒の除去が有効になりやすくなるため、駒が減りやすいと思います。

  • 「少なくとも1個の駒が最奥にあったら勝ち」
    全ての駒をゴールに移動させるゲームとはあまり関係のない、Breakthrough(2001)と同様の条件です。が、Onager(2012)などからわかるようにこの勝利条件は長距離の移動システムと相性が良く、LAGに導入しても違和感なくプレイすることができます。
    私以外が、上述のような議論を経ることなくこの移動システムでゲームを作った場合、順当にこのタイプのルールとなることでしょう。
    (2方向にリーチをかけるのは容易なのでOnagerのように防御の機会を与えることになるでしょうか?)

アクセス

Ludemeファイルです。


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