Control : SNORTの子孫、Stigmergyの祖先
極めて単純なテリトリーゲームです。前例はあるのでしょうか?
Controlのルール
コンポーネント
任意のサイズのヘックスグリッド正六角形ボード
(サイズ5以上。)十分な量の白、黒の駒
(マス数の過半数あれば十分です。)プレイヤー2人
用語
制御
あるマスに隣接するマス(そのマス自身は除く)に置かれている駒のうちの過半数の色を担当しているプレイヤーはそのマスを制御します。(同数の場合はどちらのプレイヤーも制御しません。)
セットアップ
各プレイヤーが担当する色を決めます。
ボードは空の状態でゲームを開始します。
ゲームプレイ
まず、白のプレイヤーはボードの外周に接するマスいずれか1マスに自色の駒を置きます。
以降、黒のプレイヤーから交互に手番を行います。
手番では、以下の2種類のいずれかの手を1回行います。パスはできません。
相手のプレイヤーが制御していない空きマスに自色の駒を1個置く。
自身が制御しているマスに置かれている相手色の駒を1個取り除く。
ゲーム終了
手番に合法手が存在しなくなったプレイヤーが敗北します。
両方のプレイヤーがゲームに慣れている場合、両者の合意によってゲームを終了しても構いません。その場合、自身が制御している空きマスを数え、それによって敗北するプレイヤーを決定してください。
(自色の駒が置かれているか自身が制御しているマスを自身のテリトリーとし、そのマス数を比較してより多いプレイヤーが勝利する、としてもよいです。)
このゲームは何?
SNORTの変種
このゲームは駒の周囲をテリトリーとするタイプのゲームで特に古いものであるSNORT(1970)をベースにしたものです。
SNORTは単純なルールで興味深いゲームなのですが、気になることとして駒1個の影響が大きすぎて大きいボードでないと鋭いゲームになってしまう点、また、ボードのマスがほとんど埋まっていない状態でゲームが終了してしまう点があります。
これを緩和させる手段として自然なのは、異なる色の駒が主張するテリトリーは相殺され再び中立のマスとなる、というものでしょう。
これは周囲の駒の多数決でテリトリーが決まる、ということなのでここからControlの配置システムを得ることができます。
が、実際に遊んでみるとこれだけだと相手のテリトリーの狭間に入り込む手が強く、テリトリーゲームとしては不格好なものになってしまっています。
また、SNORTを見直してみると、駒1個が隣接するだけでテリトリーが確定するのでその範囲が重なる箇所に駒を置くのはもったいない手と言えます。
つまり、SNORTは駒を孤立させた方が良いテリトリーを形成でき、こちらも実はテリトリーゲームの直観と反する性質を持っています。
これを解消するためには脆弱な駒を除去する仕組みを導入することが考えられます。配置システムの条件(同時にテリトリーの条件でもある)を流用するのが最も自然でしょう。
このようにして、SNORTの変種としてControlを得ることができます。
Tumpletoreの変種?
が、完成したゲームを見るとルールの形式はむしろStigmergy(2021)、あるいはその前身であるTumpletoreを思い起こさせます。
制御の条件はTumpletoreに用いられる視線システムを隣接に置き換えたようなもので、さらに相手の駒の交換を単なる除去に置き換えることでTumpletoreからControlを得ることもできます。
生存が確定するテリトリーの形状なども共通する点があり、戦術的にはSNORTよりも近いといえるかもしれません。
Tumbleweed(2020)の前身にToreという視線ゲームがあるのですが、フォーラムで提案された際にGlass Bead(1980)というゲームがToreの視線システムを隣接に置き換えたようなゲームである、という指摘がされています。
アイデアとしては独立な発見であったようなのですが、ゲームシステム自体を見るならば視線システムよりも隣接のほうが自然(定義が簡易)なシステムであるので「ToreはGlass Beadに視線システムを導入した"派生"」と分類することが、やはり自然であると思います。
TumpletoreとControlも同様な関係といえます。SNORTの派生としてControlが得られることを踏まえると、「SNORTから出発し、Tumpletore、さらにはStigmergyに至る」というゲームシステムの"系譜"が存在し、Controlはそのギャップを埋めるゲームと位置付けることができるのではないでしょうか。
除去
視線と異なる部分での大きな違いは、駒の交換が無く単に除去するだけになっている点です。これによって生じる興味深い点がいくつかあるので紹介します。
まず、交換ではなく除去のみに1手番を費やすので、その手はボード上に自色の駒を増やしません。なので、除去はあまり嬉しい手ではなく、それほど積極的に行われなくなります。
そうなると、除去を回避するための対策も後回しにしてよいことになります。駒を取り除くタイミングと対策するタイミングが単純に決まるものではなくなるため、慎重な見極めが必要になります。
また、手番では必ず自色の駒が1個増えるか相手色の駒が1個減るのでどの手を打っても相対的な駒数の変化は一定です。特に、両者が同じ回数手番を行った後、ボード上の両者の駒数は一致します。
これによって、あまり効果的でない位置に駒が置かれているだけで不利になってしまうというシビアな側面を持っていることがわかります。テリトリーの範囲を広げることと駒を固めてテリトリーの安全性を高めることが完全なトレードオフとなっていることも戦略を難しくする一因と言えるでしょう。
さらに、駒数が一致した状況で合法手が存在しないとき、自身のテリトリーには全て自色の駒が置かれていて、残りの空きマス(ボードのマス数が奇数なので必ず存在します)は全て相手のテリトリーとなっています。つまり、手が存在しないプレイヤーは必ずテリトリーの大きさで負けているため、テリトリーの大きさに従いながらもそれを実際に数えることなく勝敗を決定することができます。
有限性
Controlは駒の除去がありますが、有限の手数で必ずゲームが終了します。したがって、引き分けも起こりません。
証明:
ある盤面の「値」をボード上の隣り合った同色の駒の組の数から隣り合った異色の駒の組の数を引いたものとします。
自身が制御する空きマスに自色の駒を配置したとき、そのマスの隣の同色の駒は異色の駒よりも多いので盤面の値は増加します。
自身が制御するマスにある相手色の駒を除去したときは同色の駒は異色の駒よりも少ないので、こちらも盤面の値は増加します。
両者とも制御していない空きマスに駒を配置したときは同色の駒と異色の駒の数は等しいので盤面の値は変化しませんが、ボード上の駒の数が増加します。ボードのマス数は有限なのでこの手が無限に続くことはありません。
したがってゲームが無限に続く場合盤面の値は増え続けることになりますが、盤面のパターンは有限であるので盤面の値には上界が存在します。■
この性質は隣接システムが本質的に関わっています。というのも、実は、Controlの隣接を視線に置き換えたゲーム、つまり除去ありのTumpletoreには協力サイクルが存在します。したがって、有限性を重視するならば隣接システムはより除去システムと親和性が高いと言えます。
懸念点
ボードサイズ
SNORTの節で軽く触れたように、あまり大きくないボードでも楽しめるテリトリーゲームを作りたかったのですが、それが達成できているかはよくわかりません。Ludiiで試した限りではサイズ4では後手が有利なようですがサイズ5でも戦術的には十分複雑なゲームになるように思えました。
逆方向の懸念として、駒の影響が極めて局所的であるので大きいボードで楽しめるのか、という点も気になっています。
が、実際には囲碁も(エリアを囲むというイメージに反して)それほど広範囲に広がらないシステムで、にもかかわらず大きいサイズでも楽しまれているので問題はないかもしれません。
初手制限
先手の優位性のバランスを取るために外周に配置するようにしています。
序盤は制御しているマスを増やすのが良いと思うので半分程度のマスしか制御できない外周に配置するのは12*プロトコルと同じ発想で妥当であると思うのですが、どうなのでしょうか。
まあ、バランスが取れていて、両者が合意していれば構わないので上達したプレイヤーであれば2ストーンパイなどを導入しても良いでしょう。12*プロトコルを導入してしまってもゲームの核は崩れないと思います。
アクセス
Ludemeファイルです。
MC-GRAVEが比較的強いです。
関連ゲーム
Skirt / Natal Seas
隣接による制御を活用したゲームという括りで見てもいくつか例は存在していて、その一つに、Dale Walton氏のSkirtまたはNatal Seasというゲーム(細かい規定や名称が確定していないようなので単にシステムと呼ぶべきかもしれません)があります。
このゲームでは、配置は自身が制御している空きマスにしかできませんが、相手が制御していない空きマスに駒を移動(移動ルールはやや複雑です)することができ、これによってテリトリーを広げていくことになります。
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