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嘘をつく男。

コロン、とドアのカウベルが鳴る。

いらっしゃい。あら、はじめましてかな。

見たことない若い女性が二人。

場末のスナックには似つかわしくない

可愛らしい装いだ。

まぁお座んなさいなとおしぼりを差し出す。

二人はカシオレを頼んで、ため息をついた。

「実はこの店で2軒目で飲み直しなんです」

そう聞いてたら悪酔い防止に薄めに作ってあげたのに、あーららやっちまったよ。

髪の長い方の女の子が口を開いた。

「付き合って3年になるんですが、彼は愛してるって毎日のように言ってくれてたんです」

それはしあわせだね。でも過去形か。

「お昼に、たまたま会社の用事で彼の家の近くに行ったんで帰りに寄ってみたんです。お片付けしてあげて帰った彼をビックリさせてやろう、て」

そうしたら、ドアを開けたら知らない女性が珈琲飲みながらベッドに寝そべっていて…「あなた、誰?」て。

あー、よくあるパターンじゃないか。

勝手に上がったら歯ブラシが2本コップに入ってただの、女もんのパンツが干してあっただの。佃煮に出来るほどたくさんある話だ。

「すいません、て家を出て来て会社に戻ってきたんだけど、もう色々混乱しちゃってまとまらないところに彼から昼休みに電話があって」

「ごめん、姉貴が来てたみたいで驚かせたみたいだね、心配かけてごめんね」と。

「これ、信じて良いかわからなくて、恋愛経験豊富なココアのお店に聞いてみな、て同僚に紹介されてきたんです」

え、そんなこと言われてるんや 笑

まあ、イラン経験は多すぎるくらいあるけどな。

「お嬢ちゃんは、信じたいの?」

信じたいです。信じたいけど、でも色んな違和感があって信じきれなくて。

じゃ、ひとつひとつほどいていこうか。

先ず、姉さんならば3年の付き合いにもなる貴女を紹介していないはずがない。顔見て「あなた誰?」にはならないと思うよ。

二つめ。姉さんがベッドで寝そべるかどうか。ウチにも兄貴はいるけど掃除に入っても兄貴のベッドには寝そべらないわ(笑)

3つめ。間髪入れずに慌てて連絡を入れてくる彼ね。今まで姉がいる話を聞いたことがあるなら、今までにも話題に上るはずでしょ。

女の子のハンカチを持つ手が小刻みに震える。

ね、なんで嘘をつくか分かる?

「どちらとも都合よく付き合いたいからですか?」

正解だけど、答えはもっと奥にあるの。

守りたいのよ、自分を。

一つ嘘をつくと、その嘘を守るためにまた嘘を重ねるわ。続いていくともう最後には何のために重ねてるのかわからなくなる。

そういう人は、いい人でいたいのよ。

自分の弱さも狡猾さも分かっているけど、いい人ではいたい人だから

これからもあなたの不安は続くわ。

それでも良ければ続ければ良い。

でも嘘をつく男は自分のことが最優先だから、いざという時に貴方を護るとは言い難いわ。

嘘は人を振り回すわよ。

これ飲んだらもう一度彼の家に行ってごらん。

これを持っていくと良いわよ。

私はペットボトルに入った天然水を渡した。

もしもの時にはぶっかけて、

また此処に帰っておいで。


彼女たちは「はい!」と言ってドアを出ていった。

誰もいない店で私はタバコに火をつけた。

ただね、嘘をつく男はまだマシなのよ。

一番厄介なのは

どちらにでも解釈できるような言葉しか吐かない男よ。上手くこちらの善意を利用するために主語を使わないの。いざという時に責任を他責にするためよ。

こういう男に引っ掛かってしまって

アタシみたいになっちゃダメよ♡