ドラマ「And Just Like That」で自分がシスジェンダーではないことを話す12歳のキャラクター「Rose」

「Sex and the City」の続編ドラマ「And Just Like That」が動画配信サービス「HBO Max」で2021年12月9日から配信開始された。日本では、U-NEXT、amazon prime video、Rakuten TVなどの事業者で配信をしている。DVDでも視聴できる。筆者がAnd Just Like Thatを視聴したら、前回の記事で紹介したノンバイナリーを自認するキャラクターChe Diazだけでなく、シスジェンダーではないことをセリフで話しているキャラクターを見付けた。12歳のRose "Rock" Goldenblatt(以下、RoseまたはRock)である。今回は、Rose について紹介する。

「Sex and the City」は、Carrieと友人のCharlotte 、Miranda、Samanthaの日常と恋愛についてコミカルに描くドラマである。「And Just Like That」は、2010年に公開された映画「Sex and the City 2」の11年後を描いたドラマ。メインキャラクターとしてCarrieとCharlotte、Mirandaが登場する。Roseは、2008年に公開された映画版の第1作である「Sex and the City」でCharlotteとHarryの間に生まれた第2子である。第1子は、中国から養子として迎え入れたLilyである。Roseは、Charlotteに「女の子だって気がしない」「一度も女の子だと思ったことがない」と話す。

スケートボードに乗る時の格好をしたRose


自分自身を「一度も女の子だと思ったことがない」という12歳のキャラクターRose "Rock" Goldenblatt

Roseに関するシーンでは、Rose自身が自分のジェンダーアイデンティティについて話したり、親であるCharlotteとHarryがRoseのジェンダーアイデンティティについてどう思っているかを話す。そのシーンに登場するキャラクターたちがどのようなことを話すのか、紹介する。

第1話 Lilyのピアノの発表会に着ていくRoseの服

Roseは、Lilyのピアノの発表会に行く時に着るためにCharlotteが選んだワンピースを着ることを「ほかに着たい服がある」といって、拒否する。しかし、HarryとCharlotteにお願いされて、自分なりにアレンジ(黒のTシャツと動物の帽子を追加)してそのワンピースを着る。Lilyのピアノの発表会の会場前でCarrie、Mirandaたちと合流したRoseは、Carrieに格好を「かっこいい」と褒められる。しかし、Carrie、Charlotte、Mirandaの友人であるAnthonyは、「イディみたい」と言う。

Lilyのピアノの発表会に向かう(右から)Lily、Charlotte、Rose、Harry

第3話 その1 Charlotteに自分のジェンダーアイデンティティについて話すRose

ベッドの上でRoseに本を読むCharlotte。
Charlotte:「そっちへずれてくれない?Baby Girlちゃん」
Rose:「そう呼ばれるのは、好きじゃない」
Charlotte:「あなたは、ママのBabyだもの。大きくなってもママのBabyなのは変わらない」
Rose:「Baybyじゃない方のことを言ってるんだけど。Girlって呼ばれたくない」
Charlotte:「どういう意味?」
Rose:「女の子だって気がしない」
Cahrlotte:「そう、でも、ママも時々そんな気分になる。Lily、時々女の子って気がしないわよね?」
Lily:Charlotteに話しかけられるが、ヘッドっフォンをしていて気がつかない
Rose:「一度も女の子だと思ったことがない」
Charlotte:(ベッドから落ちてしまうが)「大丈夫よ」

第3話 その2 AnthonyにRoseのジェンダーアイデンティティについて相談するCharlotte

翌日、CharlotteとRoseは、一緒にAnthonyが経営するベーカリーに行く。ベーカリーでパン生地をこねているRoseに話しかけられたAnthonyは、Roseに「お嬢ちゃん」と言う。この時にCharlotteは Anthonyをベーカリーの廊下に連れ出して、相談を始める。
Charlotte:「昨日の夜、Roseに言われたの。女の子みたいな呼ばれ方をされたくない。自分は女の子だって気がしないって」
Anthony:「あっそ。まだ子供よ。無視すれば?」
Charlotte:「私は、母親よ。無視なんかできない」
Anthony:「誰に言われた?」
Charlotte:「みんなそう言ってる」
Anthony:「みんななんてどうでもいい。あの子は、6歳の時、自分は犬だって言ってた。今は犬、違う?」
Charlotte:「無視することなんてできない。それに、6歳の時は、犬の水飲み用の食器を1週間床に置いてあげた」
Anthony:「甘やかしすぎ」
Charlotte:「待って、待って。何か特別な意味があると思わない?」
Anthony:「分からないわよ。私は、ティンカーベルになりたかった。母は、ブレザーに穴を開けて、羽を付けた?付けなかった」
Charlotte:「羽を付けるべきだったかも。」
Anthony:「そしたら、妖精になれたかもって。答えなくていい。なんて言うかわかる」
Charlotte:「でも、どうしたらいいか分からなくて混乱してる。私、正しいことずっとしたいの」
Anthony:「大丈夫だから。もしもその時が来たとしても、私があなたとRoseとずっと一緒にいるから。あの子は、うちのパンでいえば、サワー種なんだから。この先どうなるか分からない。落ち着きなさい。デオドラント買ってあげて」
Charlotteは、Anthonyに言われたことから笑顔になる

第3話 その3 Cheの舞台を見た後にRoseに電話するCharlotte

後日、CarrieとCharlotte、Mirandaの三人は、Cheのコメディショーを観に行く。Cheがショーの中で話すことに感動したCharlotteは、ショーが行われたライブハウスから出て帰る前にスマホでRoseに電話する。この電話での会話の中でCharlotteは、Roseに「もしもしRose?あなたの声が聞きたくなったの。ママがどんなに愛しているか伝えたくて」と伝える。

第5話 その1 「Rockって誰?」となるCharlotte

Charlotteは、Roseが通う学校の保護者会のリモートミーティングに参加する。参加者のVeronicaが「学校の劇でRockが面白かった」と言う。Charlotte以外の参加者は、Rockが誰なのか知っているが、Charlotteだけ「Rockって誰?私の知らない転校生?」となってしまう。それに対し、1人の参加者が「あなたの ・・・」と言ったところで、Charlotte以外の参加者全員の顔が固まってしまう。そして、参加者の1人であるLisaがお開きにする。
リモートミーティングがお開きになったあとすぐにLisaがスマホでCharlotteに電話する。
Charlotte:「もしもし?」
Lisa:「(CharlotteがRockのことを)知っているのかと思った」
Charlotte:「待って。どういうことなの?何の話?」
Lisa:「Roseが自分のことをRockと呼ぶように言っている」
Charlotte:「うぅ、その、Rockっていうのは、おふざけのニックネームか、何か?それともRockは、もうRoseになりたくないってこと?」
Lisa:「ごめん、Charlotte。事情までは知らない」

第5話 その2 RoseにRockという名前について質問するCharlotte

その後、Charlotteは、リビングでテレビゲームをするRoseとHarry、その隣にいるLilyのところに行く。
Charlotte:「Harry、カエルを爆発させるの、ちょっとやめてくれないかしら?混乱しちゃったから教えて欲しいの。Rose、あなた学校で自分の名前をRockに変えたりした?」
Rose:「うん、そう」
Harry:「名前を変えたって?」
Charlotte:「で、学校で広まるまで私たちに言いたくなかったの?」
Rose :「教えたじゃん、TikTokで」
Charlotte:「今日は、10回も投稿してるでしょ?ママ、追い付けない」
Rose:「これ」
スマホでTikTokに投稿した名前を変更したことを伝える動画をCharlotteとHarryに見せる。
その動画に合わせてRoseとLilyが「R、O、C、K、Rock」と連呼する。
Charlotte:「R、O、C、K、Rock、分かった」
Harry:「すまないが、分からない。これは一体どういうことだ?ラッパーになったのか?Rockはラッパーの芸名とか?」。
Rose:「パパ」
Lily:「芸名?もう言わないで」
Charlotte:「みんな、ママに集中して。名前を変えたのは、友達のエレンがイーライに変えたから?」
Rose:「違う、関係ない。あたしは、Rockだから。」
Lily:「ちなみにイーライは、今スカウト(という名前)」
Charlotte:「そう、それは良かった。じゃあ、確認させてほしんだけど、学校のみんなからもこう呼ばれてるの?Rockって。先生からも?」
Rose:「うん、みんな問題ない」
Harry:「じゃあ、みんなには問題ない」

リビングでテレビゲームをするRoseとHarry、その隣にいるLily

第5話 その3 学校の先生とRoseについて話すCharlotteとHarry

後日、CharlotteとHarryはRoseの学校に行き、先生2人(LauraとRobin)と面談する。
Laura:「Robinがお二人にお伝えしたかったことは、この年齢の子どもはまだ発達の途中で自分探しをしている、ということよね?Robin」
Robin:「えぇ、だいたいそうです」
Harry:「それは、私たちも理解しています」
Charlotte:「うん」
Harry:「私たちが驚いたのは、子どもが自分の両親に名前を変更することを知らせていないのに、学校では使用されていたことです」
Laura:「まさかご両親がご存知ないとは思いませんでした。あなたは?Robin」
Robin:「私もです、Laura。彼らの名前の変更にご両親が抵抗されているとは思いませんでした。」
Harry:「彼ら?今の、単数系の彼ら?」
Charlotte:「抵抗はしていません。Robin。私が読んだ本によると、Laura、このような探究をするこどもの範囲は広いので、どの程度の真剣さで対応すべきか見極めています」
Laura:「この学校は、あらゆる子どもへのサポート体制が揃っています。シスジェンダー、ジェンダーフルイド、ノンバイナリー、トランス」
Robin:「私たちも子どもたちの探究の旅の一員です。ご家族にもセラピストや支援団体、当事者同士のカウンセリングなどご紹介できます」
Charlotte:「待って。セラピー?カウンセリング?この年齢の子どもはまだ発達の途中だから、自分探しをしているんですよね?」
Laura:「仰る通りです。でもRockは、明確なんです。このような場合は、子どもの意思を優先します」
Harry:「12歳のRoseに決めさせたら、食事は毎食アイスクリームになるでしょう」
Robin:「(Roseじゃなくて)Rock」

第5話 その4 学校の先生と話した後のHarryとCharlotte

LauraとRobinとの面談後、学校の廊下を歩くCharlotteとHarry
Harry:「ただ受け入れるしかないのか?もう決まったことだから、従えってことか?俺には、まだ分からない。ローズは目立ちたがり屋だから、注目されたいだけかも。困らせてるのかも。あの子は、エコー写真で中指立ててただろ。他人から自分の子どものことを教えてもらわなきゃって、父親としてもっとも情けない経験だったよ」
Charlotte:「あなたは、最高の父親よ」

Rose "Rock" Goldenblattを演じる俳優

And Just Like ThatでRose "Rock" Goldenblattを演じる俳優は、アメリカの俳優・歌手・ソングライターのAlexa Swintonさんである。Alexa Swintonさんは、雑誌「People」でRose役についてのインタビューを受けた。そのインタビュー内容について日本語訳で伝えたELLE girlによると、

「私の友達の多くが同じようなことをくぐり抜けてきた。今もそれを経験しているし自分をノンバイナリーだと認識している。友達の1人は自分と同じようなキャラクターをドラマの中で見られたことにとても感動していた。それを聞いて私も興奮した」

https://www.ellegirl.jp/celeb/a38966547/alexa-swinton-talks-about-satc-non-binary-daughter-22-0203/

と語った。

And Just Like Thatが12歳のRoseを通して伝えたいこと

Roseは、12歳で自分ジェンダーアイデンティティについて親であるCharlotteに「女の子だって気がしない」「一度も女の子だと思ったことがない」と話す。しかも、学校で呼ばれる名前を親のCharlotteとHarryには相談も無しに変えて、SNSの動画を見せて事後報告する。Rockが通う学校の先生たちは、CharlotteとHarryに「Rockのジェンダーアイデンティティがシスジェンダーではないことは明確」だと伝える。学校の先生からRoseについて伝えられたHarryは、「父親としてもっとも情けない経験だったよ」とCharlotteに話す。

And Just Like Thatは、シスジェンダーではないキャラクターとしてCheとRoseを登場させた。Cheは、自分のことを「ノンバイナリー」と認識する。Roseは特定のジェンダーアイデンティティを指す用語を使わず、「女の子だって気がしない」「一度も女の子だと思ったことがない」という言い方でシスジェンダーでないことを話す。

Roseは12歳で発達の途中であり、まだジェンダーアイデンティティに対して探究している段階である。そこから、自身を表すジェンダーアイデンティティが何か探している途中だともいえる。

Roseを通して、皆が皆特定のジェンダーアイデンティティを指す用語で自身のことを説明するわけではないことを知る機会にしてほしい。

リンク
And Just Like That 日本語版公式サイト

Alexa Swinton 公式サイト

ELLE girl「「セックス・アンド・ザ・シティ新章」でシャーロットの娘を演じたアレクサ・スウィントン、ノンバイナリーの友人の反応に興奮」

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記事執筆者:ハマカワアツキ

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