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label Xが設立された経緯を設立時の副代表YuiToさんに伺った

Xジェンダー当事者のための会員制自助サークルlabel Xラベル エックスは、2023年2月25日(土)に東京都新宿区で「label X設立10周年記念講演会」を開催した。

この講演会では、Xジェンダーやノンバイナリーについての研究を多く行っている武内今日子さんをお招きしての講演、 label X設立当時の副代表であるYuiToユイトさんと現代表の藤原和希による対談を行った。対談には進行役にスタッフのゆいも参加した。対談では、主にYuiToさんからlabel Xの設立前にあったFtMとFtXのコミュニティや団体、label Xの設立時のことを伺った。今回、このお話について当時使用されていた言葉で紹介する。対談でお話しきれなかったことも記事に加えたので、その部分もお読みいただきたい。


2008年から2011年ごろまで運営されたコミュニティサイト

YuiToさんは2008年頃、性別に違和感を持った人物が登場する「ラストフレンズ」というドラマを観たことをきっかけに、自身の性別の違和感について考えるようになる。

当時は「FtX」や「Xジェンダー」という言葉がまだインターネットでも浸透しておらず、例えば「男でも女でもない」「性別 違和感」などと検索しても、「FtX」や「Xジェンダー」という語がなかなか出て来ず、性別の違和感の正体を知ることができなかったと言う。

この時期にYuiToさんは、当時勤めていた職場で偶然FtMの人と知り合う。
YuiToさんは、今まで誰にも話せなかった自身の性別に対する違和感を、そのFtMの人に初めて相談した。すると「FtX」や「Xジェンダー」という言葉を教えてもらい、YuiToさんは今まで抱えていた違和感の正体をようやく知ることとなった。

インターネットでFtXについて調べると、FtMの人とFtXの人が参加できるコミュニティサイトを見付け、すぐさま参加することを決めた。このコミュニティサイトは、SNSのmixiのような形式で、入会した人だけが見ることのできる仕様だった。管理者はFtMの人で、副管理者はFtXの人。参加していた人たちは、FtMの人とFtXの人の他に、参加者の彼女やアライの人たちもいた。参加者はFtXの人よりもFtMの人の割合が多かったという。参加者の中にはMtFの人が一人だけいた。

このコミュニティサイトでは、参加者たちが積極的に交流会を行なっており、ナベシャツの存在を初めて知ったYuiToさんは、ナベシャツに興味を持ち、参加者たちと一緒にナベシャツを購入する交流会を企画した。YuiToさんは参加者たちに「一緒にナベシャツを購入しに行きませんか?」とメッセージを送った。YuiToさんは、コミュニティサイトにMtFの人がいるとは知らずにそのMtFの人にもメッセージを送った。

すると、そのMtFの人は、「ブラジャーを着けるならナベシャツを着たい」とナベシャツを着ることに興味を示した。しかし、そのMtFの人の発言に、「なぜナベシャツを着たがるのか理解ができない」「自分たちは着たくてナベシャツを着ているわけじゃない」と、参加者の中の多くのFtMの人が反発した。

そのMtFの人は「MtFだけどFtMにも見られたい」と発言していたことがあり、ナベシャツにも興味を持っていたという。YuiToさんは、「参加者の多くが理解できないと言っていたけれど、そのMtFの人はもしかしたらMtXだったんじゃないのかなと思いました」と語った。

当時はまだXジェンダーに関する情報が少なかった。そのため、コミュニティサイトのFtMの人の中には、「FtMは男、MtFは女、じゃあXジェンダーって何?」「FtXは男からも女からも逃げている」と、Xジェンダーを曖昧で中途半端な存在だと捉える人もいた。

そのせいか、「男性」という性自認が確立しているFtMの人たちの存在感が強く、FtXの人たちの中には書き込みをしないで見るだけの人、会員登録をしただけという人もおり、FtXの人がなかなか発言しにくい空気があった。

コミュニティサイトの参加者の中には、FtMのTS(transsexual、外科的手術による身体の性別移行を望む人)をFtM、FtMのTG(transgender、外科的手術による身体の性別移行を望まない人)をFtXといったように、FtXをFtMの前段階と捉える人が多くいた。

当時、メディアで性適合手術をした性同一性障害者が報道されるようになり、治療を望むFtMの人が多く現れた。治療を始め、「女性」という違和感から解放され、日を追うごとに「男性」へと変化していくFtMの人は、コミュニティサイトの中で憧れのような存在となっていた。参加者が「ホルモン治療を始めました。」「○日に性適合手術を受けることになりました。」などと書き込むと、皆「おめでとう」と祝った。

そのせいか、身体の治療を望まず、性自認も男女どちらでもないと言っているFtXの人は、差別的な目で見られることもあり、「曖昧」「中途半端」だと記された「Xジェンダー」という立場に耐えきれず、FtMと名乗りを変えるFtXの人も多く現れた。「治療をすること」や「彼女」がいることをステータスとするFtMの人も多くおり、今までずっとFtXだと名乗っていたが、彼女ができたことをきっかけに、FtMと名乗りを変え、性適合手術を受けることを決意した人も多かった。

「FtXはFtMに移行するもの」と捉えている人も多くおり、「YuiToはいつ治療を始めるの?」と聞いてくる参加者もいた。YuiToさんは治療をすることを望んでいなかったが、周りに影響され、FtMと名乗りを変え、治療をすることを考えていた時期もあったと言う。

当時のYuiToさんは男性としかお付き合いをしたことがなかった。「FtMの性的指向は女性」だと捉えている人が多くおり、YuiToさんはパンセクシュアルであるが、「男性と付き合えるなら、お前は女だ」と、当時はパンセクシュアルの概念もなかなか理解されなかった。

身体の治療を望んでいるFtMゲイもいたが、「男性と付き合いたいなら、身体の治療をする必要はあるのか?」と、FtMゲイの概念もなかなか理解されず、性的指向がストレートでない人たちは、恋愛の価値観を語ることが難しかったという。

2011年4月から2012年5月まで運営された団体「MaX. 」

管理者のFtMの人が運営することが難しくなったことからコミュニティサイトは閉鎖した。後の「label X」の運営アドバイザーとなるMさんが、2011年4月に、新しくFtMとFtXの会員制グループ「MaX.」を発足させる。YuiToさんは、2011年6月にスタッフとして加わった。

「MaX.」では、毎月イベントを開催した。例えば、2011年4月にDJイベント、同年7月に浴衣祭りイベントを、2012年1月はレンタルスペースのカフェで会員に料理を振る舞うイベントを行った。2012年3月には、GID(Gender Identity Disorder)界隈で活動している方にインタビューを行い、その様子をWebラジオとしてYouTubeで公開した。

以前のコミュニティサイトでの参加者はFtMの人の割合が多かったが、「MaX.」では、FtXの会員も徐々に増えていき、そのためかコミュニティサイトで感じられた「FtMの人の存在が強くて殺伐とした雰囲気」はあまり感じられなかったとYuiToさんは言う。

「MaX.」ではFtXの相談を受ける場を設けた。その場には性適合手術をしたFtMの人が相談に訪れる事があった。相談に来たFtMの人は、「自分が女性である事に強い違和感があって、性適合手術をして男性として新たな生活を始めましたが、男性の中に溶け込むことが出来ずにいます。周りから男性として扱われることが今までなかったので、男性として扱われることにも違和感があります。」という悩みを話した。

FtXの人がFtMに移行し、治療をすることをステータスとしていた頃に、性適合手術をした人たちが、男性として新たな生活を始めていた時期だった。
そのまま男性として望んでいた生活を歩んでいる人たちもいれば、男性として溶け込むことが出来ずに、治療をしたことを後悔する人たちも現れた。

女性として扱われることに強い違和感があり、治療をすることを決意し、治療を始める。自分の身体が男性へとして変化していくことに、今まで抱えていた違和感から解放され、気持ちも前向きになれた。しかし、いざ「男性」としての新たな生活が始まると、今までになかった「男性として扱われること」に戸惑う人たちが現れた。

今までずっと抱えていた「女性として扱われることの違和感」を拭い去るために治療を始めた。しかし、「女性という違和感を取ること」や「性適合手術を受けて戸籍上の性別を男性にすること」自体が目標となってしまい、「その先に訪れる生活」を全く想像せず、「自分が男性であること」に自信が持てずに悩む人が出てきた。本来「男性としての自分」が新たな人生のスタートになるはずなのに、「性適合手術を受けること」がゴールとなってしまい、「燃え尽き症候群」のような状態になり、「この先の生活の目標」を見失ってしまう人もいた。残念なことに、人生を絶つという決断をする人も現れた。

治療をしたことがないYuiToさんにとって、この深刻な事態に、どう相談に答えたらいいのかわからなかったという。

「MaX.」の運営期間は2011年4月から2012年5月の約一年間。運営期間の後半に、後の「label X」の代表となるSさんが、スタッフとして新しく加わった。当時、「FtXはFtMに移行するもの」という名残がまだあり、男性寄りの格好をするFtXの人が多かったが、Sさんは独特な格好をする方で、中性的な格好も、男女の格好も着こなしていた。男性寄りのFtXの人を多く見てきたMさんとYuiToさんにとって、Sさんは「まさに『性別Sさん』という感じのXジェンダー」という印象を持ったという。

2012年6月から準備を開始、2013年1月に発足した「label X」

「MaX.」が運営されていた頃(2011年~2012年)は、FtM当事者のための団体は複数あったが、Xジェンダー当事者に特化した団体はなかった。FtXのスタッフや会員が増えてきたこともあり、Mさんとの話し合いからXジェンダーに特化した団体に移行する話が出てきた。

「MaX.」の後継としての新しい団体を立ち上げることを決めた当初は、「MaX.」の時にやっていたような悩みを相談できる場にしたいという想いがあった。当時はスタッフがFtXしかいなかったことから、FtXの人とMtXの人では悩みが違うのではないかと考えていた。そのため、より濃い悩みを相談できる場にしたいということで、「Xジェンダー」ではなく「FtX」に特化した団体にすることに決めた。

2012年6月頃、Twitterに「『MaX.』は日本初のFtXの当事者団体として生まれ変わります」と投稿したところ、「MtXが参加できないのは何故なのか?」という意見が殺到した。「FtXの人の悩みに寄り添える団体にしたい」という想いがあったため、この事態にどう対応するかスタッフで話し合った。しかし、理解が得られないまま団体の運営をするわけにもいかず、当初の想いを諦め、「FtX」ではなく「Xジェンダー」の団体にすることに変更した。

2013年1月に「MaX.」の後継団体として「label X」が発足する。代表はSさん、副代表にYuiToさん、アドバイザーのMさんで団体運営を行うことになった。

「label X」が発足された当時、現在でも利用しているPEOPLEのSNSが導入された。しかし、YuiToさんが「label X」のスタッフをしていた2013年時点では、SNSの参加登録の際に入力する性別欄は、男と女のどちらかを必須で選択する仕様だった。他のSNSも探してみたが、当時はどのSNSも、性別欄は男女どちらかしか選択できず、無記入や自由に選択できるようなSNSがまだなかったという。性別欄の入力をどうするかスタッフで話し合ったところ、「会員みんな同じ性別を選択するのはどうか」という意見が出た。
SNSの参加登録の案内で、性別欄は『男』と入力するよう誘導し、「SNSが男女どちらかしか選択できない仕様である事」や、「会員の皆さまを『男性』だと決定づけるものではない」という注意書きを添えた。しかし、「XジェンダーのSNSなのに、なぜ性別を入力しなくて済むSNSにしなかったのか」「『男』の方を入力する理由はなんなのか」と、入力を求められることに納得がいかないという意見が多く寄せられ、理由を再度説明しても納得してもらうことができなかった。現在、「label X」のSNSの性別欄は自由に記入できるようになっている。このことにYuiToさんは驚かれていた。

このお三方で「label X」を運営された期間は1年ほど。2014年にYuiToさんが地元に帰省するため退任し、続いて代表であるSさんも退任した。「『label X』が発足されるまで、本当に様々な紆余曲折があって大変でした。」とYuiToさんは語った。

SさんとYuiToさんのお二人が退任されてからは、Mさんによる運営で「label X」が継続することになる。その後、2017年に現代表の藤原和希と新たなスタッフによる運営の「label X」になり、現在に続く。

まとめ

今回、講演会でYuiToさんにFtMの人やFtXの人が参加するコミュニティや団体にはどんな人が参加していたのか、label Xはどういう経緯で設立されることになったのかをお話しいただいた。Xジェンダーに当てる人たち(主にFtX)のことを歴史を語るようにお話していただく機会は滅多にないので、とても興味深い内容だった。またイベントでXジェンダーに当てはまる人たちのための活動に関わってきた方からお話を伺う機会があれば、MtXの人たちによるMtXの人たちのための活動があったのかご存知の方からMtXの歴史についてお話を伺いたい。

対談で使用した資料


対談で使用した資料

リンク

label X公式サイト:https://ftxmtx-x-gender.com/

報告者:ハマカワアツキ

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